チートスキルと代償
行く当てもなく森をさまよう。思考の霧が晴れない。先ほど見たありえない光景を現実のものであると認識したくない。俺は、俺はこれからどうすればいいのだろうか。死んだはずの親友が、異世界にいる。
「お前は、本当にケンジなのか?」
記憶に映るあの顔に問いかける。答えは返ってこない。目の前の木々はその数を増す。
「ここ、どこ?」
気付けば俺は深い森の奥で一人迷子になっていた。
怖い、寂しい、足が痛い、喉が渇いた、おなかがすいた、息が苦しい。なんでこんなところに来てしまったのだろう。そうだ、あの女神だ。あいつが、
『ガルルルル!』
それは晴天の霹靂だった。自分と同じくらいの大きさの火竜が木々の合間から抜け出してくる。
「うわ!お前、ドラゴン!?」
いいや、先ほど見たドラゴンとは大きさが一回りも二回りも違う。どうやらそれは幼子のようだ。咆哮も野太いものではなく細い、可愛げが籠っているものだ。
「お前、親は?」
ドラゴンの体表をよく見ると、その姿は赤色の鱗に黄色の鱗が混ざっているものだ。見覚えがある。さっき俺が殺そうとしたドラゴンだ。
「独りぼっち、か」
「ガルルルル!」
こいつを殺せば、俺はギルドからお金を得ることが出来る。簡単なことだ。女神からもらったチートスキルを使えば、俺はあいつみたいに、楽して生きていける。いいじゃないか、それで。女神に無理やり連れてこられた世界で、せめてもらったチートスキルで悠々自適な生活位したってばちは当たらないはずだ。
「俺が!お前を!殺せば‼」
腰に下げたロングソードを引き抜く。
「スキル、基礎剣術」
スキルを発動させる。体がオートでロングソードを振り上げる。これがスキルか、不思議な感覚だ。自分の力は一切要らない。スキルに任せれば、俺はこのドラゴンを切り裂ける。ドラゴンの瞳が目に入る。知っている、この目を、俺は。
「うああああああ!!」
一太刀、
ロングソードは鱗ではなく、その下の地面を切り裂いていた。
「やっぱ、無理だわ」
「ガル?」
「ごめん、俺が殺したんだ。お前の親、」
「ガルルルル……」
かすむ視界でドラゴンを見つめる。胸が痛い。その先の記憶はあまり覚えていない。気づけば俺とドラゴンは二人そろって木の下で眠っていた。
眠りを妨げたのは木々の叫びだった。
「なんだ⁉これは⁉」
辺りの木々が一切合切切り倒されている。切り口がきれいだ。こんな芸当出来る奴なんて一人しか知らない。
「ようやく見つけたぞ!火竜の子!」
「やめろケンジ!この子は!」
ドラゴンを背にしてロングソードを構える。
「また会うとはな。だが邪魔をするな。邪魔をするつもりなら容赦はしないぞ」
「お前、なんでそんなになっちまったんだよ!」
『スキル;剣神』
ケンジの刃が俺とドラゴンを襲う。剣をたてにかまえ、なんとか斬撃を受けようとする。
「くっそ、強すぎる、だろ!」
基礎剣術だけじゃ弾かれる。
「どうした?使えよ、特典のスキルをよぉ!」
違和感、
嫌な予感がした。チートスキルはきっと人を変えてしまう。人は自分の器に有り余る力を得た時、暴走してしまう。それが今、目の前で起きている、俺はそう直感した。
「だめだ!あの力は!」
「さもなけりゃお前もその火竜の子も死ぬだけだ!」
「させる、ぐぁ!!」
とうとう弾き飛ばされる。ケンジの剣は止まらない。そのままドラゴンの鱗を切り裂き、胴体と顔に永遠の別れをもたらす。
「や、やめろおおおおおおお‼」
『スキル:タイムキーパー』
「早戻し(リバース)‼」
スキルを発動させる。瞬間、俺以外の全ての時間が巻き戻る。ケンジが剣を構える寸前で俺はスキルを止めた。
「これが、特典の力?」
息切れが激しい。これは、死ぬほど体力を持っていかれるらしい。
「ガル?」
「大丈夫だ、お前は、俺が、守るから!」
「何をした?」
『スキル:スキルコピー、対象剣神』
「行くぞ!」
「切り裂く!」
「でりゃああああ!」
ケンジの剣と俺の剣が触れ合う。今度はその力が拮抗する。
「ふん、俺のスキルをコピーしたか?だが無駄だ。同じスキルどうしならより熟練度の高いほうが勝つ!」
ケンジの言う通り、切り結ぶ剣は徐々にこちらのほうだけ傷が増える。剣神スキルは、身体能力をも強化するらしい、ジャンプすれば今までの自分では届かない位置までたどり着く。剣の軌道は基礎剣術の数百倍洗練され、それが達人の領域であることは素人の俺でも理解できた。
「まだだ!」
熟練度の差は埋められない、なら、ダブルアップでどうだ。
『スキル:超身体能力強化』
俺はチートスキルを同時に発動させた。たちまち体中から力が沸てくる感覚がする。
「これなら!」
地面を蹴ると、たちまちそこには巨大な穴が開く。それだけ強大な力が今俺の身に宿っている。
「ただのジャンプなら空中ががら空きだ!」
考えなしに空に飛んだことがあだになった、ように見えるだけだ。俺は身体を地面と平行にし、足に力を貯める。感じる、力の扱い方を、今この瞬間、俺は目の前の人間をはるかに凌駕していると。
空を蹴り、突進攻撃を放つ。
「ぜりゃあああ!」
「な⁉」
意表を突かれたケンジはかろうじて防御の姿勢をとる。しかし俺たちの次元の戦いにおいて後手に回ることは死を意味する。
「なぜだ⁉なぜ特典を二つ以上持っている⁉」
―違和感
最大限の手心を。
俺は峰のみでケンジの体を吹っ飛ばす。
「ぐあああああ‼」
「飛んでけ!」
遥かかなたに飛ばされるケンジを見て、俺は静かに剣を下ろした。
「はあ、はあ」
疲労が激しい。体中が痛い。当たり前だ、おそらくあのスキルは同時に発動することを想定されていない。意識が遠のきかける折、俺は気づいてしまった。チートスキルによって俺からかけてしまったものを。
「父さんと、母さんの、顔と名前が、思い出せない」
それはチートスキルの代償。
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