クモをつつくような話 2023 その3
12月1日。晴れ一時雨。最低0度C。最高10度C。
12月2日。晴れ。最低1度C。最高15度C。
午後1時。
ジョロウグモの25ミリちゃんはハエの食べかすらしいものをバリアーに取り付けていた。食べたことは食べたらしい。ただし、円網を張り替えた様子はない。
12月3日。最低1度C。最高15度C。
尻、というか、骨盤の背面側の筋肉が痛いので今日はまる1日休む。
この季節になるとジョロウグモたちもほとんど活動しなくなるのでページを埋めるために書いておくと、作者は最近、商品名「かかとちゃん」というウエットスーツ素材の踵だけを覆う靴下のようなものを使っている。
作者の踵は、毎年冬が来ると割れて出血するので、絆創膏を貼って生活していたのだが、かかとちゃんを履いていると踵がつるつるで柔らかいままなのである。どうも、踵が割れるのは水分の不足が原因だったのらしい。そこで通気性のない素材で覆ってしまうと、水分の蒸発が妨げられて割れなくなるということなんだろう。なお、ハンドクリームの類については、明らかに効果があるという結果は得られていない。「踵を保湿すれば角質が硬化するのを防げるのだ」ということを発見した人に感謝だなあ。作者もクモの真の姿が見える人間になりたいものだと思う。
ただし、かかとちゃんも長時間履いたままだと痒くなってくるので、昼間は外した方がいいかもしれない。この辺りは今後の課題である。
12月4日。晴れ。最低1度C。最高14度C。
午後1時。
光源氏ポイント周辺にいるジョロウグモは25ミリちゃんを含めて4匹になっていた。もちろん、円網を張り替えた子はいない。
午後2時。
女王様ポイントにもジョロウグモが4匹いた。
そのうちの1匹は1本の糸にぶら下がって風に揺られていたから産卵を終えた子だろう。脚先に触れてみると身動きするからまだ息絶えてはいない。
12月5日。晴れのち雨。最低1度C。最高11度C。
午前11時。
ジョロウグモの17ミリBちゃんの円網には体長2ミリ以下の羽虫が19匹かかっていた。もちろん、張り替えた様子はない。どうして横糸が粘着力を失わないんだろう? 空気中の水分を吸収することで、ある程度の粘着力を維持しているということだろうかなあ……。
※小型昆虫が高速で羽ばたくと、空気との摩擦によって静電気が発生して円網との間に電気的な引力が働くのかもしれない。
その近くではスミレが2輪咲いていた。その他につぼみも1個。
12月6日。雨のち晴れ。最低9度C。最高15度C。
午後2時。
街路樹の葉が散り始めていた。そこで思いついたんだが、街路樹に化けていた怪物が人間たちを襲うというお話はどうだろう? 題して『恐怖の街路獣』。〔…………〕
12月7日。晴れ時々曇り。最低5度C。最高19度C。
午前11時。
ジョロウグモの17ミリBちゃんは今日も円網を張り替えていなかった。そろそろ産卵の準備なのか、ただ単に気温が低いせいなのかはわからない。
近所の歩道を緑色のイモムシが歩いていた。胴の側面に黄色い斑が並んでいるからルリチュウレンジの幼虫ではなさそうだが、では何者かというと、これがわからない。
午後1時。
光源氏ポイントの落葉広葉樹の片方はほとんど葉が落ちたので、糸で綴られた数枚の枯れ葉が目立つようになってきた。中身はもちろん、ジョロウグモの卵囊である。
ジョロウグモの25ミリちゃんも含めて光源氏ポイント周辺のすべてのジョロウグモたちは円網を張り替えていなかった。円網を張り替えてまで獲物を食べるメリットはない、という季節になったのかもしれない。
穴だらけの常緑広葉樹の葉を数枚綴り合わせたものがあったので、卵囊かなと思って引き寄せてみたら、中にいたのは緑色のカメムシだった。カメムシが葉を食べたりするとも思えないから、何者かが出て行った住居に入り込んだのではないかと思う。
今日もフレアが出た。少しくらい使いにくくても、ちゃんと撮影できるカメラにするべきかもしれない。
12月8日。晴れ。最低2度C。最高17度C。
12月9日。晴れ。最低4度C。最高18度C。
午前10時。
ジョロウグモの17ミリBちゃんの円網は上半分しか残っていなかった。おそらく12月中に産卵するだろうとは思うのだが、それまで円網が持つかどうかが問題だな。
午後1時。
光源氏ポイントの近くで産卵を終えたらしいジョロウグモを4匹見つけた。
スケベ根性を出して卵囊も探してみたのだが、常緑広葉樹の葉に産みつけられたものを1個しか見つけられなかった。これくらいの冷え込みなら十分なカモフラージュができるということなんだろう。「卵囊を守っている」ように見える母親が見られるのは最低気温が氷点下になってからになるかもしれない。それでも見られる確率は3年で2匹だが。
午後3時。
女王様ポイント付近のジョロウグモは2匹になっていた。2匹ともちゃんとした円網を張っていない。
午後6時。ジョロウグモの17ミリBちゃんが姿を消していた。産卵だと思う。いつ交接したのかはわからないが、雄を食べたのが10月29日なので、それから四一日めである。
12月10日。晴れ時々曇り。最低4度C。最高20度C。
午前4時。
過去の記録をチェックしてみたら、今年は12月初めからジョロウグモたちが円網の張り替えをしなくなったようだということがわかった。で、12月1日の最低気温は0度Cだったのである。単なる偶然という可能性は面白くないので却下するとして、最低気温が0度C以下になると、円網の張り替えスイッチが入らなくなるということなのかもしれない。あるいは日照時間で決まっているか、だな。来年以降は気を付けて観察してみようと思う。
こういうのは室内実験をすれば1シーズンで答が出せるような気もするのだが、クモの活動限界に興味を持つような研究者はいないのだろう。あるいは、そんなものを研究してもお金にならない。したがって、やる意味がないということなのかもしれない。
研究者になるなら核融合とか、宇宙とか、DNAとか、そういう時代なんだろうかねえ……。
※今のクモ学世界ならば「ショウジョウバエ」を「昆虫」にすり替えたようなデタラメな論文を書き放題だ。銭儲けのためなら嘘も方便という考え方ができる研究者にはお勧めだぞ。
午後8時。
台所で死んだアリを1匹見つけたので、玄関のオオヒメグモの不規則網に投げ込んだ。知らん顔をしているが、気が向いたら食べてくれるだろう。
12月11日。曇り。最低9度C。最高14度C。
午前11時。
玄関のオオヒメグモがアリを食べていた。よかった。
午後1時。
また失敗した。光源氏ポイントで体長17ミリほどの2匹のジョロウグモが円網を張っていたのだ。1匹は6本脚で、もう1匹は7本脚。腹部はどちらも太めのソーセージ型だ。産卵後なのかもしれないと思ったのだが、7本脚の子は作者の目の前で体長2ミリほどの羽虫を捕食したのだった。これはまいったね。
※過去の観察でも、産卵を終えて元の網に戻ってから数日後に円網を張り替えた子がいた。ジョロウグモにとって産卵はそれほどの重労働であるのらしい。それでも諦めずに2度目の産卵を目指す子がいるということは、ジョロウグモの中には2度目の産卵を目指す個体変異を持った子がごく少数混在しているのかもしれない。ただ単に体力が残っていただけだという解釈も可能なのだが、体の大きさやお尻の大きさと2度目の産卵は連動していないような気がするのだ。あるいは、産卵に適した場所を見つけるのに苦労して体力を消耗してしまった子は一度産卵しただけで「ああ、いいクモ生だったわ」という気持ちになってしまうのか、だなあ。
25ミリちゃんの円網はボロボロのままだった。
午後2時。
道路脇の水田でタヌキが死んでいた。1年に1匹くらいは見つけているなあ。
森の中で糸で綴られた3枚の枯れ葉を見つけたので、その隙間から覗いてみると、直径20ミリくらいの卵囊らしいものがあった。基本的に球形の卵囊を山形になった糸で数カ所、枯れ葉に固定してあるからジョロウグモの卵囊ではない。見た目はクサグモの卵囊のようだ。
今日もまたフレアが出た。ただ、フラッシュを使うと出なくなる。どうなっているんだろう?
12月12日。雨時々曇り。最低9度C。最高14度C。
12月13日。晴れ。最低3度C。最高14度C。
午後1時。
光源氏ポイントの落葉広葉樹の枝に糸で綴り合わされた枯れ葉の塊が2個あった。枯れ葉の隙間から覗いてみると、中に緑色のカメムシが1匹ずつ入り込んでいた。
※『虫の写真図鑑』というサイトで調べてみると、それらしいカメムシが三種載っていた。ツヤアオカメムシ、アオクサカメムシ、ミナミアオクサカメムシがそれだが、この三種の出現時期は4月から11月ということらしい。さらに調べてみると、カメムシは成虫で越冬する種が多いのだそうだ。なるほど、越冬用の住居だったのだな。
午後2時。
また外した。ジョロウグモの25ミリちゃんが円網を張り替えていたのだ。しかも何か食べている。どうやら、17ミリBちゃんは産卵前の絶食だったのに対して、25ミリちゃんはまだ空腹になっていなかったというだけのことらしい。気温が下がると食べたものを消化するのにも時間がかかるんだろう。
「認めたくないものだな……」〔やめんかい!〕
オリンパスのTG-6(メーカーがOMソリューションズになるのはTG-7から)は今日もまたフレアを出した。リコーのWG-6も用意してあるんだが、モニターで見た時の色の違いが気になるんだよねえ……。
12月14日。晴れ時々曇り。最低2度C。最高13度C。
午後1時。
光源氏ポイント周辺に産卵を終えたらしいジョロウグモが3匹現れた。全員小さめの円網を張っている。
1度産卵しただけで「……いいクモ生だったわ」という気持ちになってしまう子と「あたしはまだやれる。2回でも3回でも産卵してみせるわ」という子では何が違うんだろう?
今日もまたフレアが出た。WG-6もそれなりのセッティングが出せたから明日から使ってみようと思う。それで問題が出ないようなら2台のTG-6は燃えないゴミだな。
12月15日。雨のち曇り。最低8度C。最高11C。
午後4時。
WG-6は順調に仕上がりつつある。こいつはデジタルズームまで使うと35ミリ換算で1000ミリ以上に相当する超望遠撮影ができてしまうのだが、これをどう使うかが難しい。画質は当然低下するし。多分、できるだけ近づいて、デジタルズームは使わないようにするのが正解なんだろうな。まあ、TGー6はデジタルズームを使っても140ミリ相当だったから、悩むこともできなかったのだがね。
なお、内蔵フラッシュの光量も多すぎるので、発光面に白い不織布を貼り付けた。これはフィルムカメラの時代からあるテクニックだ。
12月16日。曇り一時雨。最低9度C。最高18度C。
12月17日。晴れ。最低5度C。最高13度C。
午後1時。
今日は風が強いので、買い物を兼ねて新調したレジ袋改造ハンドルカバーをテストしただけで終わりにする。後はだらだらとローラー台に乗ろう。
12月18日。晴れ。最低マイナス2度C。最高10度C。
午後1時。
光源氏ポイント周辺にいるジョロウグモは25ミリちゃんだけになっていた。
枯れ草に取り付けられた直径10ミリほどのクモの卵囊らしいものを見つけた。もちろん何グモのものなのかはわからない。
午後4時。
ロードバイクのサドルのクッションの一部がプラスチックのベースから剥がれ始めているのに気が付いた。接着剤で修理してみて、うまくいかなかったら交換だなあ。
12月19日。曇り。最低1度C。最高14度C。
12月20日。晴れのち雨。最低3度C。最高14度C。
12月21日。晴れ一時雨。最低1度C。最高12度C。
12月22日。最低マイナス2度C。最高9度C。
午前11時。
玄関のオオヒメグモは元気に動きまわっている。やはり昼と夜がはっきりしていないと休眠に入れないようだ。
午後2時。
ジョロウグモの25ミリちゃんはススキの種だらけの網を捨てて、すぐ近くに新たな網を張っていた。ゴミ屋敷……とは言えないな。ゴミで一杯になったテントをそのままにして、その隣に新しいテントを設営したようなものだろう。ゴミを全部取り除くのには手間がかかるから張り替えてしまえという判断らしい。
街灯の電源ボックス(?)の近くにお尻が細いジョロウグモがいて、その側にはむき出しの卵囊があった。いわゆる「卵囊を守る母親」という情景だ。今朝は寒かったので、もしかしたらと思ってはいたのだが、予想通りである。
その子の脚先をツンツンすると、しおり糸を引いて地面まで降りてしまった。はっはっはっはっは。ジョロウグモの母親が卵囊を守ることなどありはしないのだよ、明智君。〔その卵囊の母親だと決まっているわけでもないだろ〕
ううむ、その可能性は見落としていたなあ。
午後3時。
光源氏ポイントの少し先の木の幹にも卵囊が1個あった。さらに、枯れ葉で包まれた卵囊も3個。
なお、毎年この時期になるとじゃまな枝が切り払われるのだが、今年は卵囊が付いたまま切り落とされた枝はないようだ。何よりである。
12月23日。晴れ。最低マイナス2度C。最高9度C。
12月2日。曇り時々晴れ。最低マイナス2度C。最高9度C。
12月25日。晴れ。最低マイナス1度C。最高12度C。
午後2時。
22日に走った時は頭が寒かったので、ヘルメットにシャワーキャップを被せてみた。これだと寒くはないのだが、蒸れる。穴をいくつか開けるべきかもしれない。
光源氏ポイント近くの森の中で枯れ葉の塊を見つけたので、慎重にめくっていくとジョロウグモの卵囊が現れた。
もっと大きい手のひらサイズの枯れ葉の塊もあった。これもめくっていくと、中にあった卵囊から体長2ミリほどの頭胸部が黒でお尻が赤黒い子グモが数匹出てきた。クサグモの卵囊だったらしい。悪いことをしてしまった。
なお、ウィキペディアの「クサグモ」のページには「クサグモの網は棚網(店網)と言われる型である」中略「網の奥にはトンネルがある」中略「産卵はトンネルの中で行い、卵は袋状の卵囊に包まれる」などと書かれている。そういう観察例があったということだろう。しかし、作者が見てきたクサグモの卵囊は枯れ葉で包まれたものばかりだった(その他に無人駅の屋根の下側にむき出しで取り付けられたものが1個)。トンネル内で産卵というのは気温が低いので移動できないというような状況下での緊急避難的な行動なんじゃないかなあ……。
※もしかすると論文屋さんはクモのことをよくわかっていないのかもしれない。例えばジョロウグモは産卵場所に合わせて、少なくとも3種類の産卵方法を使い分ける。常にプランBやプランCを用意している可能性があるのだ。したがって、クモの行動を観察した場合には、それがプランBやプランCである可能性を忘れてはいけないのである。もっとも、忘れていても論文は書けるのだろうし、「論文屋が書いた論文や解説書を鵜呑みにする方が悪い」と言われたらそれまでなんだが。
午後3時。
女王様ポイント周辺には産卵を終えたらしいジョロウグモが3匹いた。
午後4時。
サイクリングしていたら、道端の用水路から小型の白いサギが飛び出してきた。多分コサギだと思う。ちなみに耳が長いのはウサギ……。〔ウサギはサギじゃない!〕
ダイサギもチュウサギもコサギも白い。したがって、白いウサギも……。〔それは詐欺だ!〕
コサギの特徴は夏になると頭から2本の長い冠羽が生えることだそうだ。
12月26日。晴れ。最低マイナス1度C。最高13度C。
12月27日。晴れ。最低1度C。最高12度C。
午後1時。
今日は少し範囲を広げて、光源氏ポイント周辺のジョロウグモの卵囊を探してみた。結果は常緑広葉樹の葉の表面にむき出しで産み付けられたものと、筒状に丸められた1枚の葉の中にあったもの、街灯に産み付けられて小さな木片を1個だけ付けられていたものなどが新たに見つかった。
ジョロウグモも変温動物なのだから、気温が下がってくると卵囊を丁寧にカモフラージュするための余裕がなくなってしまうのではないかと思うのだが、そういう実験をした論文屋さんはいないんだろうか? 手間が掛かりすぎてコスパが悪いのかなあ……。
カールした枯れ葉の中からお尻だけを出しているハチかアブらしい昆虫もいた。撮影していると脚を動かすから、ちゃんと生きている。単独で越冬するということはアブかもしれない。
※『生き物ナビ』というサイトには「日本のアブは幼虫で越冬するといわれていましたが、冬でも比較的暖かい地域では、アブは成虫で冬を越すことができるのです」と書かれていた。
午後3時。
オオイヌノフグリが2輪だけ咲いていた。
12月28日。晴れ。最低0度C。最高10度C。
12月29日。晴れ。最低0度C。最高14度C。
午後1時。
舗装路脇に新たなタヌキの死骸が転がっていた。
今日も光源氏ポイントでジョロウグモの卵囊を探してみた。結果は筒状になった落葉広葉樹の葉の中に産み付けられていたのが1個、枯れ葉2枚でサンドされたものが2個、枯れ葉3枚で包まれていたものが1個、その他に「卵囊を守る母親」がいた街灯の卵囊の隣にも2個あった。街灯の卵囊にはごく薄い糸の膜が被せてあったので見落としたようだ。
午後2時。
コンクリート製の電柱とその側の低木に産み付けられた卵囊らしいものも見つけた。茶褐色の綿菓子状と言えなくもない形状なのだが、今まで見てきたオニグモの卵囊とは微妙に違っているような気もする。何なのかわからん。
12月30日。晴れ時々曇り。最低2度C。最高13度C。
午後1時。
ジョロウグモの25ミリちゃんは、また別の円網を張ったらしかった。その円網に枯れ草の下で見つけた体長15ミリほどの細め体型のカメムシを投げ込んでみると、ちゃんとくっついたのだが、25ミリちゃんには知らん顔をされてしまった。
その近くにはナナホシテントウ(多分)がうずくまっていた。今日は暖かかったので、ドジっ子が越冬場所から出てきてしまったんだろう。
午後2時。
25ミリちゃんがカメムシを食べていた。気温が低いと捕食能力も低下するので、より慎重に安全確認をしたのだろう。
光源氏ポイント近くの森の中では体長1ミリほどのお尻が丸いクモが水平に近い角度で円網を張っていた。円網の上に乗っているようだからマルゴミグモの幼体だろうか。
その近くには体長15ミリほどの7本脚のジョロウグモがいた。網を張っていないから産卵を終えた子だろう。獲物が少ない場所にいるジョロウグモは脱皮回数を減らして、大きくならないままオトナになってしまうのらしい。卵の数が少なくなってもゼロになるよりはいい、というわけだ。
午後4時。
25ミリちゃんはカメムシを背面側のバリアーに取り付けていた。
ジョロウグモがカメムシを補食した場合、その食べかすはカメムシだとわかる形が残っていることが多いような気がする。不味いから積極的に食べる気にならないんだろう。
そして食欲があるということは、当分の間産卵することはないということになるかもしれない。
12月31日。雨時々晴れ。最低5度C。最高12度C。
路面が乾いていないのでウェブでクモ関係の情報を漁っていたら『クモの生態と糸(2)大崎茂芳』というとんでもない論文を見つけてしまった。
この論文の「糸の色変化」の章には「ジョロウグモから月毎に採取した牽引糸の可視光反射特性を図12に示す。5月から7月に採取した幼年期のクモの糸は全波長域にわたって吸収はほとんどなく、白色である。8月末から9月になると、低波長域にわずかの吸収を示すようになり、10月にもなると、採取した糸は450nm付近に著しい吸収が観察され、糸は黄色を示す」と書かれているのだ。これはどう考えてもおかしいだろう。
第一に、この「幼年期のクモの糸」は正しくは「幼年期のジョロウグモの牽引糸」である。
吉倉眞著『クモの生物学』によるとジョロウグモの糸腺は6種類あって、それぞれ梨状腺(付着盤を造る)、瓶状腺(牽引糸(しおり糸)を造る)、管状腺(卵囊用の糸を造る)、葡萄状腺(捕帯を造る)、鞭状腺(粘球糸の地糸を造る)と呼ばれているのらしい(その他に粘球糸用の粘液を造る集合腺もある)。というわけで「幼年期のクモの糸」と言ってしまうと、管状腺と集合腺を除く4種の糸すべてが「白色」だということになってしまう。観察してもいない糸の色を決めつけるのはねつ造か改ざんになるだろう。
ちなみに作者は屋外で観察しているので、クモの糸は基本的に無色透明である。クモの糸を逆光で観察すると虹の色が現れるのだが、これは透明な糸の中で太陽光が屈折している証拠であるはずだ(古くなったコガネグモの係留糸と、十分な量の獲物を食べたジョロウグモの円網の横糸は黄色(金色?)になるようだが)。
第二に「10月にもなると、採取した糸は450nm付近に著しい吸収が観察され、糸は黄色を示す」というのもおかしい。450nm付近というと、だいたい藍色の波長域になる。「全波長域で吸収がない」と反射光が「白色」になるとして、そこから藍色の光が吸収されると、その反射光は残りの紫色・青色・緑色・黄色・オレンジ色・赤色が混ざった色になるはずではないのか……と思ったのだが、何回か読み返しているうちに気が付いた。「450nm付近に著しい吸収があることによって黄色を示す」と書かれているわけではないのだ。つまり、この論文の「450nm付近に著しい吸収がある」と「糸は黄色を示す」はまったく無関係の独立した観察結果なのである。大崎氏はあえてそれを並べて書くことで読者が勝手に誤解するように仕向けているのだろう。これはあくどい。
ついでに言えば「10月にもなると」「糸は黄色を示す」というのは決定的に正しくない。繰り返しになるが、作者が観察してきたところでは8月末に円網を黄色くしていたジョロウグモもいたし、11月になっても無色のままにしていた子たちもいたのだ。
おそらく大崎氏は屋外でジョロウグモの網を観察したことがないのだろうと思う。そうでなければ、こんなデタラメな論文など書けるわけがない。まあ、キャサリン・クレイグもショウジョウバエで実験しておきながら、論文の途中でさりげなく「昆虫」にすり替えているし、「卵囊を守るジョロウグモの母親」などという都市伝説もあるくらいだから、クモ学の世界ではこういうトリックを使うのが当たり前なのかもしれない。
だいたい、論文屋さんが論文を書くのは「仕事をしてました」というアリバイ工作という面もあるのだから、論文を書いてしまえば「後は野となれ、山となれ」なのだろう。要は「嘘も方便」、クモ関係の論文など信じる方が悪いというわけだ。
なお、STAP細胞論文は世界中の研究者から袋叩きにされてしまったのだが、クモ学の世界ではどんなデタラメな論文を書いても非難されることはないようだ。うかつに論文の間違いを指摘すると「お前のこの論文も間違っているじゃないか!」と反撃されてしまうということなんだろう。
論文屋さんも「仲良きことは美しきかな」なのである。
クモをつつくような話2023 完