中編
皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます! 夏のホラー短編『帰り道』、盛り上がっておりますね!
あそこに行ったのか──その言葉に怯みながら、敦と花梨は……
本編をお楽しみください!
反射的に怒られる、と思った。
それくらい男たちの顔は険しかったし、僕自身にも一応は立ち入り禁止になっている場所に入ってしまったという負い目もあったし……だから、地域の人が出て来て怒られるんだと、つい思ってしまった。
花梨を守らなきゃ──そう思って前に出ようとした足は、一歩踏み出すか踏み出さないかのところで竦んでしまって。
「あの……っ!」
結局、前に出てくれたのは花梨だった。
「おじさんたちは、何の人なんですか?」
強い強いと思っていた花梨だったけど、やっぱり複数の大人を相手にするのは怖かったのだろう、その背中はちょっとだけ震えていた。
ごめん……そんな言葉を吐くことすら何となく情けなく感じて、それにこれから何を言われるのかとかいろいろなことが頭を巡って、冷や汗と涙が同時に出そうになったとき。
「おじさんたちはね、隣町の神社で働いてるんだ。この場所が凄く危険なのは知ってたからね、夏休みに入る子がいないように見張りに来てたんだけど、一足遅かったみたいだ……すまない!」
中心にいた太ったおじさんに、逆に謝られてしまった。
ふたりして呆気に取られていると、その隣に立つ痩せた青年が愛想よく笑いながら僕らに説明してくれた。
「このおじさん、こう見えて神主さんでね? 魔除けとか、あとお祓いなんかもできる凄い人なんだよ。それからよくない“気”も感じられる人でね、君たちを見つけられたのもそのお蔭なんだ。……まぁ、あんまりいいことじゃないんだけどね」
「君たち、あの空き家から何か連れてきちゃってるみたいだね。おじさんたちがお祓いするから、車に乗ってくれるかい? ちょっと歩くけど、付いてきて」
矢継ぎ早に言われ、ろくに返事もできないまま僕らは神主さんの車へ向かうことになった。神主さんたちから少し離れた後ろを歩いている最中、僕はどうしても居たたまれなくなって花梨に謝ろうとした。
「あのさ、」
「大丈夫だよ」
振り向いた花梨の顔は、少しだけ嬉しそうに見えて。
「前に出ようとしてくれてたの、わかったよ。ありがとね、あっくん。お蔭で全然怖くなかった!」
「…………っ、」
黙したまま宵闇に塗り潰される夕焼けの中で見たその微笑みは、今まで見た何よりも綺麗に見えて。思わず口を噤んだ僕を見て静かに微笑みながら、花梨は更に言葉を続ける。
「ねぇ、あっくん────」
「お待たせ、着いたよ!」
どこか緊張したような花梨の声は、神主さんの声に遮られた。指し示されたのは1台のハイエース……こんなところでお祓いなんてできるのか? 僕の疑問は簡単に見透かされてしまったのだろう、「ここの幽霊はあまり悪質じゃないからね。憑きっぱなしだとよくないけど、簡単なお祓いだけで帰ってくれるのさ」と神主さんが笑いかけてきた。
そうして僕らは、用意周到に後部座席の倒されていたハイエースに乗り込んだ。
* * * * * * *
お祓いの前に、名前を名乗らされた。花梨は特に抵抗なさそうだったけど、知らない人に名前を伝えるのはちょっとだけ怖くて。けど、「ちゃんと名前がわからないと『この子から離れてください』って伝えられないんだよ」と言われてしまえば仕方なかった。
それから始まったお祓いで、僕はもう安全になったらしい──問題は、花梨の方。
「花梨ちゃんの方に、妙な“気”が憑いてるなぁ……。きっとそういう意味でも無意識に敦くんを守っていたのかもね。ふふ、大事に思ってるんだね?」
「え!? えっと、あーその、」
大事に思ってるという言葉にやたら反応して目を泳がせる花梨。そんな反応されたら、もしかして……なんて思ってしまいそうになる。何とか別のことを考えて気を逸らさないと──いやそうじゃない。
神主さんたちの言うことには、花梨にはさっき言ってくれた『簡単なお祓いで帰る霊』とは別の何かが憑いてしまったらしく、それを祓うには時間がかかるということだった。
「だから敦くん、ちょっと外で待ってて。清野、敦くんを頼めるかい?」
「え、俺ぇ? いいですけど、後で交代してくださいよ」
神主さんに清野と呼ばれた愛想のいい青年は、何故かちょっと不服そうにしながら僕をハイエースの外に連れ出した。車のドアが閉まる間際、花梨を振り向くと、少し不安そうにしながらも「すぐ戻るからね」と僕を元気付けるように笑いかけてくれた。
出てきたら、さっきの言葉の続きを聞こう。それで、次からは本当にちゃんと花梨を守って、助けられるようになろう。そう思いながら車から出ると、清野さんが真面目な顔で僕を見ていた。
「いいかい、敦くん。これから神主さんは花梨ちゃんに取り憑いた霊を祓ってくれる。だけどもし悪い霊だったら抵抗するだろうし、もしかしたら花梨ちゃんに成り済まして敦くんに助けを求めるかも知れない。
でも、それに騙されちゃ駄目だよ。車のドアを開けたら、神主さんのお祓いは失敗しちゃう……せっかく花梨ちゃんが君を守ってくれたのも無駄になっちゃうんだ。いいかい、絶対ここのドアを開けちゃ駄目だよ。約束できるかい?」
とても真面目な顔だった。それに、花梨の行為が無駄になってしまう──僕の行動のせいで花梨を更に危ない目に遭わせるのは、絶対嫌だった。
だから、清野さんをまっすぐ見つめ返して頷く。
そうか──と、清野さんがニィと笑う。
そして。
「もう大丈夫ですよ、神戸さん!」
清野さんが車内にそう呼びかけた直後。
ガチャッ!
『え、なに、何してんの!?』
ドアの鍵が閉まる音がして、花梨の驚いたような声が外に聞こえてきた。
前書きに引き続き、遊月です。今回もお付き合いありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪
元々2話で完結する予定でしたが、お祓いが始まるまでの部分が少し長くなったのでもう1話設けたいと思います。果たしてお祓いはうまくいくのか、そして敦と花梨のそこはかとなく漂うアオハル感の行く末とは!?
最終回も見届けていただけましたら幸いです。
また次回もお会いしましょう!
ではではっ!!