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アンタが加害者かっ!?

 その日、私は仕事でつかれてクタクタでした。夕日を背にあびて、熱い車内でクーラーがきくのをジリジリ待ちながら運転していました。

土手沿いの道路は夕方の帰宅ラッシュで混雑しています。みなさんお疲れさまです。私も疲れています……。


信号が変わったのでゆっくり車を発進させると、対向車線に大きなスクーターが見えた。ビッグ・スクーターというのですか? 大きくて曲がるのがタイヘンそうなバイクです。混雑した車の間を悠々と直進してこちらへ向かってくる。バイクはいいよなぁ! 車の間を走れるもの。


そう思っていたら対向車線の直進レーンにいた車が急に減速して右折レーンへ移動した。私が見たかぎり、方向を変える前にウインカーが点滅したのは1回だけです。その車の後ろから直進してきたスクーターが車をよけきれずぶつかった!


ガシャン!!


これ、知ってる! ぜったいにめるヤツ!! 私のオカンがこれで大変なことになった! オカンはバイクじゃなくて車だったけど、前の車が曲がるため急停車して、後ろのオカンがぶつかったのです!前の車の運転手さんはウインカーを出してゆっくり徐行したって言うし、オカンは前の車が急に減速して方向を変えたって言って、大モメでした!! それと同じ状況!! 当事者に関係のない第三者が状況を説明しないと、お互いが自分は悪くないって主張して泥沼になってしまう!! 誰か目撃者はいませんか!?


…………わたし、見てましたやん……。疲れてるし、おなかすいたし帰りたいけど、事故を目撃した人は安全確保をする義務もあるし……。数メートル先の坂を下りて病院の駐車場に車をとめます。大きな音に驚いて出てきたスタッフさんに事情を話して駐車の許可をもらって坂を駆けあがる。


道路は混雑していて、車はほとんど動いていませんでした。バイクでこけた方のところへ走り寄ると、足をケガしたらしく道に寝転んだままうめき声をあげている。中年の男性です。良かった! とりあえず生きてる! ぶつかった車はどこだ!?


その車はノロノロと直進していました。おい! 止まれ! 逃げる気か!? たぶん一瞬、逃げようとしたみたいです。でも路肩に車をとめて、運転手さんが重たい足取りで戻ってくるのが見えた。

ほっとした私はうめいているバイクの運転手さんに質問します。


ソウ:あの車のウインカー、何回点滅したか見ていましたか?

バイク:………うぅ…1回……。

ソウ:私も1回だと思います。後で警察に聞かれると思いますので、おぼえておいてください。

バイク:(無言でうなずく)


やっと車の運転手さん(以下、クルマさん)がきました。バイクの方(以下、バイクさん)と同じ年代のおじさんです。クルマさんはスマホを片手に、バイクさんに言いました。


クルマ:…………救急車、呼びましょうか?


それまで痛くてうめいていたバイクさんが血相を変えて怒鳴りました。


バイク:あんたのせいでケガしたのに、その言い方はなんやねん!? まず謝れや!

ソウ:落ち着いてください! クルマさんは救急車を呼んでください! 


バイクさんの怒りに驚いて逃げ出すようにその場を離れるクルマさん。やっぱりモメそうな雰囲気が…………。

バイクさんは起き上がれないし、バイクは横倒しになっているので遠くからバイクさんの姿は見つけにくい。バイクさんが車にはねられないように、私は仁王立ちで車をブロックします。


ソウ:イタイですよね! すぐに救急車が来ると思います! ちょっと待っててくださいね!

バイク:すみませんね、無関係なのに……。

ソウ:お互いさまですよ!


そう言っていると救急車のサイレンが聞こえてきました。私は手を大きく振って場所を知らせます。救急車は停車すると、隊員の方たちがキビキビと車をおりてきました。良かった。これで一安心。

バイクさんに駆け寄る隊員とは別に、一人の隊員さんが険しい顔で私に近づいてきました。
















隊員:あんたが加害者かっ!?


めっちゃ怖い顔です! え!? わたしですか!? え!? もしかして私、なんか悪いことしたっけ!?(←詰められると弱いタイプ) いやいや! なんもしてない!!


ソウ:……、も、目撃者です!


隊員さんは私の返事に納得したらしく、バイクさんのほうへ走り去りました。そうしているとパトカーが来た。隊員さんは忙しそうなので、私が誘導します。こっちです!


パトカーから降りてきた警察官が険しい顔で問い詰めます!


警察:あんたが加害者かっ!?

ソウ:ちがいます! 目撃者です!


二台目のパトカーが来た! また警察官が増えた!


警察2:あんたが……

ソウ:目撃者です!!


私はそんなに悪い顔してるか!? 人をケガさせそうな顔か!?


救急隊も警察も、ケガをしたバイクさんの対応でてんやわんやです。少し離れた場所でクルマさんが呆然と立っている。私はクルマさんに近づきました。


ソウ:(あなたが)救急車を呼んでくださったので、もう大丈夫ですよ! おケガはありませんか?

クルマ:はあ……。

ソウ:それは何よりです! でも後ろにバイクがぶつかって、驚いたでしょう? 

クルマ:はあ……。

ソウ:バイクさんは(大声で怒鳴る)元気があるし、大丈夫ですよ! 意識がなくなってたら大変でした!

クルマ:……そう言われてみれば、そうですね……。

ソウ:いろいろと大変でしょうけれど、あちらは意識がハッキリしているし、(あなたは)おケガがなくて何よりでした!

クルマ:そう言われてみれば、ほんとですね……。ありがとうございます……。


私がフォローする必要はありませんけれど、少しでもお気持ちが軽くなれば……。

そうしていると警察官が来ました。


警察:目撃者の方のお話は、後で聞きます。まず当事者の方からお話を。

ソウ:わかりました。あちらで待ってます。


ボケっと待っていると、警察の皆さんがバイクや車の割れた破片を片付けていた。ヒマなので手伝います。

一緒にお片付けしていると、やっと私の順番がきた。当事者から離れた場所で聴取が始まります。

私は対向車線にいたことを説明しました。


ソウ:目撃者がいないとモメると思ったので、残りました。

警察:残ってもらって助かりました! 両者の言い分に食い違いが生じていますけど、目撃証言があったので食い違いは修正できそうです。ところで……。(← ちょっと言いにくそう)

ソウ:私の免許証はこれです。車はこちらです。(車のロックを開けて)車検証はこれです。

警察:あ……。どうも……。


私はたんなる目撃者ですけれど、他の犯罪に関わってないとも限らないのでチェックしたいですよね。犯罪とは無縁です。どうぞご覧ください。


警察:ありがとうございます。助かりました! バイクの運転手さんは、大したケガじゃないようです。

ソウ:それは良かった!!

警察:ところでちょっとご相談が……。

ソウ:なんでしょうか?

警察:車とバイクの運転手さんたち二人が、後日あなたにお礼に伺いたいと……。

ソウ:お二人が!?

警察:もちろんお礼に行くのは別々です! でも二人ともあなたに良くしてもらったから、ぜひお礼に行きたいと……。自宅とかお勤め先とか教えてもらえますか?

ソウ:ダメです! お礼はいりません! お気持ちだけありがたく頂きます! 来てもらわなくていいです!


いくら嬉しいお礼とはいえ、自宅の住所は知られたくない! それに…………。


警察:自宅はイヤですよね。わかります。それならお勤め先は? 二人ともぜひにと言ってるんです。どちらにお勤めなんですか?

ソウ:警察さんにはいつもお世話になっております。市役所です。

警察:市役所でなんのお仕事をなさってるんですか?

ソウ:相談員です。

警察:……お礼に行ったまま、その場で事故の相談が始まりそうですね……。

ソウ:だからです! ものすごくメンドクサい事態になりそうなのでお断りします!!

警察:わかりました! 今回はご協力、感謝します!

ソウ:お役に立てたなら何よりです♪ それでは失礼します。


やはり目撃者が必要だったらしい。ヘトヘトだけどイイコトして良かった♪


翌日、出勤すると顔馴染みの市役所職員さんが心配そうに近づいてきました。


職員:昨日の夕方、道の真ん中で怖い顔して立ってたね!? なんかあったの?

ソウ:交通事故で……。

職員さんが息をのみました。














職員:まさかソウさん、加害……。

ソウ:目撃者です!!!!!


今回の教訓:私は加害者の顔をしているらしい(涙)。立派な加害者顔ですけれど、お役に立てたならなによりです。でも確かめずに詰問するのはご遠慮願いたいです……。

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