七話
ブランは部屋につく。ノエルがいた。
「お姉さま?どうかしたのですか?」
心配そうに顔をうかがってくるノエル。ブランは、優しく微笑んでいった。
「あら。いたのね、ノエル。どうもしていないわよ。・・・ノエルが今のわたくしの年頃になったら、大変になるの。いろいろとね、頑張らなければ超えられない壁があるのよ。」
ブランは、お母様のしてくれたようにやさしく言った。
「苦しくても、頑張りなさい。わたくしはね、嫌な予感がしているの。魔力、いえ、ルイーナの 力しらね。」
ノエルは不安そうな顔をした。
「お姉さま。ありがとう。ルイーナ・・・」
ノエルは思った。
お姉さまばっかり頑張っている、私は頑張らずに甘えていてよかったのだろうか。
(私は・・・・)
いえ、わたくしにしましょう。口調を変えなければ。そう、わたくしにはもうすぐお披露目会が開かれる。
お母様の影響があって、お姉さまよりも少し遅めになってしまっている、お披露目会。
わたくしも、頑張って支えにならなければならない。
「姫様、参加いたしますよね、お披露目会。今日ですので、準備をしておきましょう。」
トリアが言った。ウィリンも言う。
「姫様、ノエル様よりも目立ってはだめですよ~。姫様は、お美しいのですから。」
くすっと笑って言う。
「うふっ。ウィリンったら。トリアもありがとう。ウィリンは最近忙しいのに、わざわざ来てくれて。」
ブランはうれしかった。争いにならなくて。もし、ノエルが、跡を継ぎたくても次女のために、できない可能性がある。そのせいで険悪にはなりたくなかった。
「行きましょうか、準備が終わったら。」
準備をさっと終わらせたブランは、会場へと向かう前に、スタンバイする部屋へといった。
「ノエル?いるかしら。」ブランは、ガチャッとドアを開けた。部屋に入ると、ノエルが不安そうな顔をして座っていた。
「お姉さま。いらしてくれたのですね。わざわざありがとうございます。」ふぅーと息を吐いたノエルにブランは微笑んだ。
「お口も直して。いいですよ、ブラン。ここでだけ、くずしても。わたくしは、練習のため、本当に勤めが終わって一人の時でだけ、側近たちと普通にお話をしているのですもの。」
ノエルは、
「おねえさまぁー。ありがとう。大変だったのです!今まで。」少し間を開けていった。
「なんか、お胸がどきどきして、おさまらないのです。何なのでしょう。」
ブランは、かわいい、と思った。そして、緊張を抑えるために、こう告げた。
「ノエルはかわいいわね。それはね、きんちょうというのよ。大丈夫、ずっと練習してきたでしょう、ピスキート。わたくしもね、そうだったわ。でも、弾いてごらんなさい。楽しくなってくるから。」
そういいながら、ブランは思った。わたくしが、お披露目会をした時よりも、幼さをすごく感じる。このままでは、この国がどんな時でも、冷静でなく、いつまでも甘えている妹になるかも、と不安さえ感じていた。ブランは、きっとお姉ちゃんだから、頑張れたのかもしれない。だが、このままでは・・・
(どうすれば・・・・・・)
お手本になってあげなければならないと思った。
「ノエル、わたくしをまねてごらんなさい。自分で言うのも恥だとは思うけれど、わたくしをまねて、もっと頑張りなさい。お披露目会の前に、きついことを言うけれど、心に刻みなさい。ノエル、今のままでは幼すぎる。もちろん、甘えてもいいのだけれど、いまのままでは、きっといつか苦しくなる時が来るわよ。今のうちに、今のうちに・・・」
ブランは涙が出てきそうになるのをこらえながら、続ける。
「・・・。頑張っておきなさい。いつ、どんなことが起きても、この国の姫として、冷静であれるよう、民のために動けるように。」
ノエルは、しばらく動かなかった。いや、動けなかったのかもしれない。しばらくして、「お姉さま、忠告、ありがとうございます。わたくしでは、まだ幼く、お姉さまより劣っているのは、存じております。それでも、精一杯頑張っていきたいと思います。・・・。お姉さま、御手本、お願いします。」
かたい口調で、真剣な表情を見せたノエルに、安堵したブランは、ふっと表情を緩めた。「ええ。頑張りなさい。けれど、頑張りすぎないようにね、わたくしも頑張ります。お披露目会、楽しみにしているわね。」
「はい!」
カーンカーン。鐘の音が鳴り響いた。この状況に、少し懐かしさを覚えたブランは、細い目をしながら、ノエルを心から応援した。
ぽんっ、ぽーん
ブランとはまた違う、明るい音が鳴った。
拍手が巻き起こる。