一話
ここは私たちが住む世界とはまた別のお話。
2000年の長きにわたる戦乱の夜が明け、ここに新たなフォービアなる国が誕生した。この国はほかの小国を束ねる、大きな国だった。しかし、この新たな時代の幕開けは必ずしも平穏なものではなかった。
その国が誕生した10年後―
「おめでとうございます!」
「きれいな髪だわ。まるで神話に出てくる神様みたいね。神とそっくりだわ。きっといい子になってくれるわね。」
その国の国王 ノヴェム・フォービアと王妃 ファシキュラム・フォービアとの間に新たな子が生まれた。その名はブラン・フォービア。
そしてさらに5年の時が立ち―
「姫様、お行儀よくするのですよ。」
5歳になったブランは、国民の前でお披露目をする時期になった。それは、次期王妃の候補としての審査でもあった。
ブランは、とても良い声で「はいっ!!」と答えた。まだ言葉に幼さが残っているが、それもまたかわいい。
ブランはこの日のために一生懸命ピスキートを練習していた。またの名を、カノン・ピスキートといった。これは、ドミニカ帝国にある「ぴあの」といったものに似ている。だが、大きな違いはかつて昔、戦乱が起きていたころ神様から授かったものなのだ、と言い伝えられていることである。
カーンカーンカーン・・・・・・鐘の音が鳴り響く。そろそろお披露目会の時間近づいているのだ。
「そろそろですっ!姫様!!」
「もう、ウィリン。言葉遣いに気をつけなさい。姫様の教育を任されているのは私たちですのよ。」
ウィリンはブランの側近で元気っこだった。口調がおしとやかでないのでよく、もう一人の側近である、トリアに叱られているのだ。
だが、ウィリンは3人の時だけそういう口調だった。みんなの前では、ちゃんとした言葉遣いなのだ。
「わかっているってばー!うふふっ。元気っこもいたほうがいい雰囲気になるでしょう?」
よく二人で話し込んでしまうので、それを防ぐべく、ブランが仕方なしに口をはさむ。
「・・・・・・あの。」
「はい。」
トリアが片膝をついた。ウィリンもはっとし、後から片膝をつく。
「いえ、なんでもありません。そろそろなので、余裕をもって控室に行きましょ。」
「ええ。」
「はいっ!」
お父様、お母さま見ていてくれるかな。試験なのだから、しっかりしないと。すぅ、息を吸って鍵盤に手を触れる。
ぽろろろろん。ピスキートの音が静まり返った会場に響き渡る。それは、誰も聞いたことのないとても美しい音色だった。
演奏後、拍手をたくさんもらったことで、ブランは緊張がなくなって、とても満足していた。雲一つない、快晴の天気だった。