純愛
世間は、純愛こそがもっとも素晴らしい絆の形だと言う。嫉妬や独占欲をもたず、打算もない、互いを信じ抜く想いが純愛ならば、僕たちを繋いでいたのはまさしくそれだったのだろう。たとえ、他の誰に認められずとも。
最初も不思議と抵抗はなかった。放課後の空き教室とはいえ校内で事に及んで見られやしないか、制服が汚れないか、外聞も頭の外。
僕の下に横たわる彼は、いつものポーカーフェイスが崩れ、早くと言わんばかりに荒い息をついていた。
そして、その光景は、今日も繰り返される。
ゴスッ。
鈍い音が二人だけの教室に放たれる。
─浅い。しくじった。
「もっと思い切りやれよ」
彼の言葉に心を落ち着かせ、再び拳を振りおろす。今度はみぞおちに深々と刺さった。
低い呻き声と共に、下敷いた肢体がのけ反り、顔は嬉しそうに歪む。
この行為の最中、ほとんど言葉を発しないが、彼の呼吸にはいつも愉悦や歓喜が滲んでいる。彼にとって痛みは、耐えるものでなく受け入れ味わうものなのだ。
僕たちは幸せだった。異常な願望と過剰な順応、自分を理解してくれる他者を互いに求めていたから。
スマホが鳴る。僕のだ。
彼は少しムッとした表情をしつつ脱力する。
「出れば」と合図しているようだ。
「ごめん」
部屋の隅へ行き電話に出てみると、母親からだった。
母とのやりとりを手短に済ませ、スマホを上着のポケットへしまいながら彼の元へ戻る。
「親が、仕事の都合で今日はいつもより遅くなるんだって」
「で?」
彼はまだ機嫌が悪い。行為に邪魔が入るのを何より嫌がるのだ。普段は大人びた振る舞いをする彼が、この時ばかりは年相応に見える。
「だから今日は長くこうしていられる」
「ふ~ん」
彼はそっけない声を出しながらも、口角が上がっている。どうやら機嫌を直したようだ。
彼に馬乗りになると、首元へ抱きつかれた。されるがままゆっくり引き倒される。
「じゃあ、早く続きしよう」
そうやってねだる彼の少し上気した表情が愛しくて、求められることが嬉しくて、僕はまた握り締めた右手を振りかぶる。