表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄譚にその後はいらない  作者: カミキリ虫
2章 死体と魔法騎士と
3/10

1

 遠方から駆けてくる足音が聞こえてきたため、ウェルテルは急いで勲章をポケットへとしまった。

 エルナが連れてきた衛兵は3人。すぐに現場を取り囲んだ。

「第三地区北屯所・治安維持団所属のウェルテルです。」

 問い詰められる前に敬礼を行い、自らの所属を明かす。

「現場保存にご協力ありがとうございます。」

 衛兵も敬礼を返した。若い。おそらくウェルテルと同じくらいの年齢である。

「申し訳ありませんが、お二人には第一発見者として取り調べを行う規則になっておりまして…。」

 騎士団長の娘に遠慮しているのか若い衛兵が下手に出ながら話す。その後ろに立ってる苛立った顔の壮年の衛兵が割って入った。

「規則だ!付いてきてもらうぞ!」

 エルナをじろじろと見ながら怒り口調でウェルテル達を急がせようとする。

「えぇ。わかっています。取り調べ室の場所もわかります。では、行きましょう。」

 エルナは騎士団見習いの練習着を着ていた。この壮年の衛兵は女性が騎士見習いなのが気に入らないのだろう。このような考えを持つ者は多い。適当に主導権を握ってやれば、不満そうな顔のまま壮年の衛兵はウェルテルの後ろを付いてきた。あの若い衛兵が今からあの惨殺死体を見ると思うと可哀そうになってきた。


 取り調べは当然ながらエルナとは別の部屋で行われることになる。

エルナにこっそりと耳打ちした。

「クロードの事は何も話すな。」

 ウェルテルの取り調べは案内人だった衛兵が行うようだ。(実際にここまで連れてきたのはウェルテルであるが。)顎で室内に入る様にせかしてきた。

「よろしくお願いします。」

 ウェルテルできるだけ善人な協力者を装った。


発見当時の状況説明が終わったあと、いくつか質問があった。

「食堂に向かうにしては随分と遠回りをしたな。」

「彼女が朝訪ねてきたので、少し話す時間を取りたかったのです。」

 ウェルテルは少し照れた風にはにかみながら答えた。

「恋人と朝の逢瀬か?」

「いいえ。彼女は幼馴染です。騎士団長殿の娘ですから恐れ多いことです。」

「最近の女は恋人でも無い男の元に朝押しかけるのか?」

 この衛兵が女性を嫌っていることは鑑定魔法の使えないウェルテルでもよくわかった。

「私の通信石レシーバーストーンの調子が悪かったようです。昨日から私と繋がらなかったとのことで、心配して確認の為に来てくれました。騎士団長殿に私はお世話になっておりますので心配をおかけしたようです。」

 自分と騎士団長との繋がりを明示しながら、机の下で通信石に力をこめて端を欠けさせた。

 衛兵はさらに苛立ったようだが、所詮、ウェルテルとエルナの関係はあの死体とは関係ない。エルナと証言が食い違っても若い男女だ。勝手に周りは想像して納得する。

「最後に身体検査を行う。」

「わかりました。」

 ウェルテルは素直に従い、椅子から立ち上がった。


「持ち物は武器石(ウェポンストーン)、小銭、万万年筆、部隊証、欠けた通信石(レシーバーストーン)以上か?」

 武器石とは持ち運び安いように武器を直径5cm程の石に変えたものであり、民間人の所有は認められていない。ちなみにウェルテルの武器はショートスピアで武器石は翡翠の様な色をしている。

 自分でポケットというポケットをまさぐったくせに以上も何もないだろうと思いつつも、笑顔で対応する。

「そうです。朝食に向かう途中でしたので、最小限の物しか持ち歩いていません。」

 衛兵は不満気な態度を隠さないまま退出を促した。

「帰っていいぞ。」

「ありがとうございます。」

 礼を言って退出しようとした時、ウェルテルはふいに靴ひもを踏みつけ解いてしまった。

「申し訳ありません。靴ひもを直すのに椅子をお借りできますか?」

 衛兵はめんどくさそうに顎で椅子を指示した。

「ありがとうございます。」

 ウェルテルは椅子に座って靴ひもを直しだした。紐を引っ張り、きつく締め上げる。


 一瞬だった。一瞬、衛兵がウェルテルから目を離した。その瞬間にウェルテルは机の下に張り付けた勲章を外し、ポケットに滑り込ませた。

 ウェルテルは何も無かった様に立ち上がり、衛兵に礼を言って、部屋を出た。


 外ではエルナが待っていた。

「エルナ。待たせてしまってすまない。」

 声を掛けながら近づくとエルナがパッと顔を上げた。その顔には安堵の色が浮かんでいる。

「朝食には間に合いそうにない。遅刻の連絡を入れたら、どこかで購入しよう。奢るよ。」

「ウェルテル。ありがと。でも食欲ないの。

 ちょっと見ちゃったから。ウェルテルの方が無いと思うけど。」

 図星だったため、何も言えなかった。正直、今は何も食べられそうにない。

それから少し助かったとも思った。時間の節約になる。今から急いで屯所に行ってティスに謝り倒さなければならない。一週間はネチネチと何度も嫌味を言われるだろう。

「わかった。練習所までは送るよ。」

「大丈夫。ウェルテルの屯所とは逆でしょ。大丈夫だから。ほんとに。」

 建物の外までは一緒に行き、その後、別れる事となった。


 別れ際にウェルテルはエルナに話しかけた。

「今日の勤務終わりに北屯所まで来れるか?確認したいことがある。」

「わかった。終わったら通信石に連絡する。」

 エルナの言葉でウェルテルはアッと声を上げた。

「すまない。エルナ。俺の通信石はついさっき壊れたんだ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ