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何故か仲間として一緒に戦った男を切り刻んでいる。
頭の中はふわふわとした感覚に包まれている。
何も考えられない。考える事を拒絶しているようだ。
自分が荒く息している事はわかるが、肺が酸素を求める苦しさは感じない。
感じるのは手先から剣を通じて伝わる肉を切る感触だけである。
まるで自分の背中から一歩引いた場所で見ているようだ。
ふと、彼と業務以外の会話らしいものはしたことが無いなと思った。
仲間だった者がうめき声さえ上げなくなってから数分経っただろうか。
時間の感覚も分からないことに気が付いた。
顔を刻む。誰か分からなくなる様に、執拗に刻む。
この男を、今後思い浮かべる事があるとすれば、きっとこの無残な最期の姿であろう。