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ヴァルカリア家の日常~旧グレン邸にて~

のんびりと縁側で涼んでいると、いつもの声が聞こえてきた。


「アリス、おはよー!」

「...おはよう」


その声の主は兄さんーーーではなく、イアだった。


この世界に来てから約2か月、この世界が1年=12ヶ月であれば、今は5月になる時期だろう。

隣には、常に兄さんではなくイアがいた。


...仕方ないと言えば、仕方ないのかもしれない。

ただ、こんな思いをするくらいなら、此処に来たのはなぜなのだろう。


そんな事を思っていても、こうやって動かずにいるのはこの世界から出ることが不可能だ、と思ったからだ。


「相変わらずアリスは暗いなあ、初日の元気はどこ行ったんだい?」


そう聞かれたとしても、俺は返事を返さなかっただろう。

だってー--兄さんが俺の横に存在しないのだから。


でも、イアは無言で隣に座り、「...今日は春の感謝祭の日だよ。

...お肉を食べれば元気いっぱい、おなかもいっぱい。

...だから...」


此処までを言うと、こちらを向き、

「いつまでも殻にこもらないでよ。

暗いままだったらできることもできないよ」と言う。


そんなイアは真剣そうで、少しづつ体が近くなっていって...


「だ、だめだよ!!」

「?」


不思議そうに首を傾げるイア。


「...だ、だって...

そ、そういうのは...」

「えーと、何を言っているの?」


恥ずかしいという気持ちが無いのか、と思いながら、さらに続ける。


「だ、だってイアが可愛いから...」

「フフフ、嬉しいな、でも...」


そういうと、イアはさらに近づき、

「...アリスの方が、何倍も可愛いよ」

と耳元でそっと呟き、その後妙な感覚が耳元を襲った。


「~~!?」

「ふふ、おいしいなあ」


その発言で、イアがやった事を悟り。


「...」

「わっ!?」


イアを抱きしめる。

腕の中で、イアはもぞもぞとしていたが、きつく抱きしめているので、口元が歪む、つまり笑ったことなど容易に分かった。



「んで、上手く乗せられたわけだけど、その...可愛い、ってのはどういう事?」


そうイアに聞いておくと、

「えーー!?

...そんなにかわいいのに、自覚ないとか無いよ!

鏡を見た事ある!?」


そう返された。


そういえば、鏡なんて一度も見た事が無かった。



「な、何これ~!?」


そこにいたのは、もう見ることもないだろうと思っていた、銀髪。現実とは違う、兄さんの様な小柄な体躯。そして、その銀髪を後ろで束ね、小さな体躯に相応な胸がある少女が、その碧と紫の目を大きく見開いた状態でこちらを見ていた。

そして、いつもよく目にする、俺よりも少し小柄な、またしても銀髪、そして灰色の目を持つ少女が笑いを殺していた。


「ど、どういうことだ!」

「フフフ、フハハ、フハハハハ...~~っ!?」


イアが笑っている間に後ろに回り、俺よりも軽いイアを持ち上げる。

「ちょ、やめ、ハハハハ!くすぐったいよ-!」

「う、動かないで!」

暴れるイアを宥め、次にまた聞いた。


「...それで、なんで言わなかったんだよ。

毎日見ているんならわかってただろ」

「だ、だって...毎日過ごしてたら、気付いてるだろうなーっ、て。

なんとなくわかってたんじゃないの?」


絶句する。

肉体の感覚が前とほとんど同じで、違和感がなかったが、もしかしたら...


そんな事よりも、その瞬間(アイツ女だったのかよ!!)と言う、驚愕と既視感(デジャブ)を感じていた。

それは、確実に身に覚えがある物なのだが...まあ、気のせい...だろう。


「いや、分からなかった。

全く前と違和感がないもんで...」

「はあ、全く...

これだからドジっ娘は困る」

「親みたいに言うな」


悪戯好きな姉的存在の立場の彼女にそういうと、洋風に一筋の和を醸し出す縁側に二人、のんびりと座し、明るい日差しを浴びる。


嘗て感じた日常。

もう感じないと思っていた、その感覚は、俺の心を緩ませる。


「さて、と。

さっきも言ったけど、今日は春の感謝祭な訳だよ。

つまり...」


そこで言葉を切ると、これが本題と言うように溜息を付き、

「魔肉集め、いこっか?」


そう、素晴らしい笑顔でイアは手を俺の方に伸ばす。

それを断ることなど到底できず...


春の感謝祭は夏との境目であり、これを乗り越えるとカラっと乾いた夏になる。

そんな夏には外で肉を焼いて食べたいものだ。


「...んで、此処のどこに魔物がいると」

「さ、さあ、ドコダロウネー」


眩しい陽光が射す森。

一面の緑。

そして、何処にも感じられない魔物の気配。



「「ハアー」」


あれから3時間かかって森を駆け巡り、やっと魔物を見つけると、そこからポコポコと魔物が湧き、日没直前の今には中型が43匹、大型が37体、後は体高が5メートルもある猪(辿移個体と言うらしい)が2匹と言う大量の魔物を狩り、イアから学んで魔物の血抜きを知った...が、それより効率のいい方法(水分を抜き取る方法、イアの方法より多少味が落ちる)を編み出し、その(仮称)乾燥魔肉は魔力(魔術を使うエネルギー)を効率よく取れるため、魔術師の戦闘食に良いんじゃないかな?とイアに言ってみたところ、

「それはアリシャが製作法を封印した魔力回復肉!?

どうやって作ったの!?」

と鬼気迫る顔で聞いてきたので、教えたところ、

「うーん...これは普通の魔術師には強すぎるから、これをちょっと入れてパンに練りこめばいいんじゃないかな?」

と、しっかりと実用的なことを考えていた。

流石、長く生きていることはある。



「こんなに沢山...ありがとうっ!

ふふふ、私も本気を見せる時が来たようだわ...」

目をギラギラとさせて、ものすごい勢いで魔肉を調理していくグランさん。

どんどんと出来上がっていく外用食事所。


そんな中、僕らはただ口を開けていた。



3日後、季節上で見れば夏に分類される時期になって、少しづつ暑さが増してきた。

そんな日に、僕達はのんびりと過ごしていた。


魔物狩りをしてから、イアとの距離が少しだけ縮まった気がする。

一緒に苦楽を味わったからだろうか。


この季節は乾燥しているので、よくこんな言葉が言われるらしい。

『乾いた心には、一粒の涙と池の様な愛情を。』

と。


僕には、恐らくほとんど関係ないことだ。

乾いているのは僕の心で、愛情をくれた兄さんは横にいないのだから。



そんな思いを胸に抱きつつ、僕は僕が愛した人への思いと僕に好意を寄せてくれている少女への思いで心を揺らしながら僕は今日も生きるのだった。

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