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第8話 どういう感情


「ごめん、二司君。一旦止めて」


 いつものようにアニメを観ていた休日も平日も関係なくなった平日の午後11時頃、木崎さんが端末を持って立ち上がった。


「おお、飲み物?」

「違う。なんかおかしい」

 

 木崎さんは、そのまま部屋の中をうろうろしながら端末の画面を睨む。


「なんかまた発表でもあった?」

「いろんなアカウントの反応が少ない。それにいつもならこの時間、寝るとか寝ないとか、遅めの仕事が終わったとか終わらないとか、あれ食べたこれ飲んだみたいな話がもっとあっても」

「あー、日頃チェックしてるっていう人達の動向ね」

「うん、そう。絶対おかしい。でも、うん。そう、おかしい、けど」


 言いよどんでいる木崎さんをみたおれは、覚悟を決めて口を開く。


「よし、わかった。地下室を使おう。最初やり過ぎて恥ずかしい気持ちもわかる、地下に行って意味ある?っていういう気持ちもわかる。でも、今やらなかったら何のために食料を集めたり、仕事を辞めたのかってなるよ。それに地下室に移動という『おれらやってる感』は意外とばかに出来ないもんだよ」

 おれが今現在思いつく限りの地下に降りる理由、というか言い訳を並べる。


「ありがとう、二司君」

 木崎さんはあはは、ではなく、えへへ寄りの顔で笑った。

 

 その後、2人で夜を徹して作業し、おれと木崎さんは地下に居住空間を作った。


 

 そして徹夜状態の翌朝、地下室で7時台のニュースを観ていた木崎さんは、うーん。と呟く。


 おれの家の地下室は厳密にいうと全体ではなく2/3程度が地下に埋まっている設計で、部屋の上部には細長い窓がはめ込まれておりそこからの朝日が室内を照らしている。


「どうなの?地上波は」

「まずいよ、なんか人がめちゃくちゃ消えてるらしい」

「理由とかの説明は?」

「ない」

 木崎さんはモニターの音量を上げる。


 室内の閉塞感が気になったおれは、空気の入れ替えのためテレビのモニターをちら ちらと観ながら窓の下に移動。そしてカラカラと紐を引っ張って窓を数センチ程度開くと少し冷たい風を肌で感じた。


 そういえば暖房のことは考えてなかったなあ。おれは今後の室温について少し不安になりながら自分用のヨギボーに戻って体をあずける。


「他の局は?」

「似たような感じ。それに1つはキー局じゃない場所のを全国放送してる。多分、名古屋」

「東京では無理ってことか」

「そういうことじゃない。それでこれからわたしたちどうするかなんだけど。なんていうか、範囲が広すぎて対応が」

「まあおれ達に出来ることは今まで通り引きこもることしか」


 うん、うん。そうよね。木崎さんは自分に言い聞かせるように呟いた。


 結局その日は交代で寝ながら情報を集め、またトイレ等で地上に上がる際には、必ず2人で木崎さんの能力範囲内で行動するという、定点カメラで観たらこいつら何やってんだ?と思われても文句の言えないやり過ぎた行為を続けた。


 そして翌日には地上波は鹿児島からの国営放送のみとなり、他のチャンネルは「外出の自粛」「非常災害時の心得」を画面に移すだけとなった。



 2日間でおれと木崎さんが2人で集めた情報は多岐にわたり、その中での話を要約すると、『屋外に居た人間が消えた』というものが多く、能力が関係している前提で2人で話し合った結果、「熱の探知?と何か?」を仮の案として今後は行動することにした。 

 またその数は膨大で、初日と2日目合わせて1千万~2千万の人間が消えたとされ、状況の確認も含め短期間で色々な状況で人が消える動画を観続けたおれと木崎さんは徐々に口数も減り、おれ、おそらく木崎さんも精神的にかなり落ち込んだ。

 しかし、いつからか「おれたちわたしたちができることは限られている」ということを互いに表現を変えて言い合うようになり、まったく受け入れられてなかったが、何とか現状を受け入れようとしている体でやり取りを続けた。

 

 そして2日目の夜、混乱が起こってから初めて政府公式の見解が動画配信として発表された。


 その動画の冒頭では、かなり辛そうな様子の40、50代男性が外出の禁止を訴え続けた。

 また今後については、近日中に大手通信会社の1社以外の端末は使用できなくなる可能性が高い、ライフラインは優先して保護するがガスの復旧は困難なため代替案を各自検討して欲しい、交通機関と物流の回復は現状期待出来ない、ということが告げられ、人が消えた理由や外出禁止の期間については一切触れることなくその動画は終了した。


 それぞれのヨギボーに座りながら無言でその動画を観終えた後、木崎さんは何も言わずおもむろに据え置きのゲーム機の電源を入れ、以前ダウンロードしていたと思われるゲームをやり始めた。


 それは少年と少女が手をつないだまま城から脱出するというものらしく、やったことがなかったおれはふとタイトルで調べた結果、「この人の手を離さない。僕の魂ごと離してしまう気がするから」というキャッチコピーを見て、どういう感情?という疑問を持った。


 だが横で木崎さんのプレイを観ていたおれは数分でゲームの内容に引き込まれた。結果、切りのいいところで大量のポップコーンとワインを用意し、交代で朝までプレイした。


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