第4話 2人にとっての検証
木崎さんの提案としては『能力を強制的に発動させる能力』の発動条件と、それを自分に使ったらどうなるかということだったので、2人でキッチンに移動し、おれはシンクの蛇口から出る水を触り続け、木崎さんはおれを見る、おれに話しかける、自分の足先をおれの足首に触れる等の行為を繰り返した。
そして10分後、様々な状況で検証した結果木崎さんの能力は、
・対象者に触れなければならない。
・対象者に能力を発動することを意識する必要がある(ただ触るだけでは駄目)
・対象者の能力を超えるものはできない。
ということがわかった。
「思ったより使い勝手悪い」
ブツブツと呟く木崎を見ておれは、まあまあと慰める。
「大体おれと一緒だよ。おれも触らないとだめだし、意識していないとできない」
「そっか。じゃあちょっと自分に試していい?」
木崎さんはそう言った後、水お願いね、と言い、右手の人差し指と親指をつけて小さな丸を作り、もう一度自分の足先をおれの足首につける。
「あー、能力を発動させる能力を自分に発動させるのね。自分をバーサク、バーサクではないけどそっち方面にしておれに使う、お! 鉄になってる」
おれが自分の指先からこぼれる球を見ていると、木崎さんは、うーん。と唸る。
「これは判断が難しい。ちょっと検証しないと」
「強制発動を自分かおれどっちに意識してるかはなあ、結果は同じだし。でもいいよ、どんどん検証しよう。しかし木崎さん状況についていってるねえ。おれは、この人すぐ世界に入り込んでる、速攻で順応してる! って思われたら恥ずかしいからちょっと抑え気味だったんだ」
「それはいいんだけど。この鉄っていうかパチンコ玉。消せないの?」
シンクにたまっていくパチンコ玉を、木崎さんはシンク横にあった菜箸で挟む。
「ごめん、出したら出しっぱなしだ。この能力はそうみたい」
「ふーん、そうなんだ」
木崎さんは菜箸で挟んだ玉をシンクに戻し、溜まっていくパチンコ玉を眺める。
「あともう1個ごめん。そのなんだろう、玉を箸で掴まれると、よくわからない方面から傷つくというか……」
「いいじゃない。どれぐらいの量出せるの?」
「今のところ数秒に1個玉が作れる。あとなんていうんだろう、水滴とかでは作れない。おそらく鉄の玉に比例した量が必要だと」
「そっか、でもまだいろいろ試さないとね」
「わかった。じゃあ最強ランキング見ていい? おれ好きなんだ、こういうの見るの。ハンターハンターのGI編もずっとカードの能力見てたし」
「いいよ、わたしも見たい」
おれは水を、木崎さんは炭酸水を片手にソファーに座り、それぞれ楽な姿勢で端末を操作していると、不意におれの足首に木崎さんの足先が触れた。
「なんかおっきいバケツ持ってきてさ。水触っててくれない?」
「なるほど、能力の連続使用とかの方面ね」
「うん。それとわたしが自分に発動してるっていう意識がないとだめかもしれないから」
「ややこしいなあ、その設定。おれとしては真剣に考えなくてもいいと思うよ。大体こういうのは序盤で忘れさられるやつだよ」
「あなたの考えはいいから。わたしはちゃんと知っときたいの」
おれはシンクの下からボウルを2つ取り出して一つに水を入れてソファーに戻る。
「もう1個って? ああ、鉄入れね」
木崎さんは、ふ、と笑い視線を端末に戻す。
「そうそう。なんか枝豆食べてる感あるけど」
「ねえ、そういえば」
「ん?」
「ねえ、歯ってどうなの?」「ああ、順調だね。痛み止めが効いてるから痛くはない」「よかったね、でも抗生剤も貴重だから」「うん、わかってる。おれもよくパニックホラーで抗生剤を求めてるシーン観た気がしたから多めに貰っといた」「いいじゃない、市販薬も明日探しに行こう。だって地下室結構使えそうだし」「あ、見たんだ」「なんか食料の話題に関しては余裕があったから」「やっぱり地下室あるからさ、その辺は無駄にしないというか買い溜めは常に意識しているよ」「それはいいと思う」「でも抗生剤って市販薬ってちゃんとしたのなかった気が」「え、そうなの」「何かで調べたことがあるんだよなあ、なぜかは忘れたけど」「じゃあ、しょうがないね。あとこれさ」「ん?」「今能力系のとこ見てて、能力を奪う能力とか、コピーとかあるのはいいんだけど。能力を入れる能力、使える能力を増やす能力ってあって」「おれもそこは見たよ。多分、奪うだけじゃだめで、その人にインプットするのに能力がいる。おれとしてはそこは緩くてもいいと思うけどな」「どうして? わたしたちには都合がいいじゃない」「そうなんだけどさ、でもやっぱこう自分が奪って使えなかったらがっかりすると思う、せっかくSなのにさ」「二司君Cじゃない」「まあおれはCなんだけど……、って、あーあ、やっぱりいるのか。最初から2つ持ってるっていう」「そう、今最高で5つ持ちが確認されてるらしいよ」「それもなあ、正直どこまで本当かっていうのがねえ」「わたしはいてもおかしくはないとは思うけど」「えー、でもこのスクショも怪しいぞお」「これ試されるよね、どこまでが本当と捉えるのかは人次第だもん」「そういうことだな、しかしこれ見てると人殺す系ってSか? って思うな。他のギアスっぽい方がよっぽどえぐいよ」「精神のとこ?」「そうそう。『視界に入った~を』の列は全部やばい」「そこさ、視界にってどの程度で視界に入ったってされるんだろうね。指1本でもダメなのかな」「その辺は検証が……。あ、そういえば」
おれは端末を置いて、ボウルの底に沈む玉を、空のボウルに移す。
「玉出てる。今、意識してなかったんじゃない?」
「あ、そうかも! わかった! 単純に自分の体の一部に触れているときは、無意識かどうかに関わらず相手に強制発動できるんだ!」
何度も頷いて端末を操作している木崎さんを横目に、おれが出したんじゃないよな、これでおれが出してたら空気がやばいことになる。と1人怯えると同時に、もう一回強制発動についてかみ砕いて説明して欲しいと思った。