第2話 眼鏡はあればあるだけいい
夜7時過ぎ、自宅に戻ったおれを見た木崎さんは、思ったより腫れてないね。とだけ言って見ていた端末に視線を戻した。
「何か酒は駄目で、食べ物についても『大体言わなくてもわかるよね』って言われた」
部屋はきれいに片付けられており、ソファーの前にあるローテーブルに置いてあった、デリバリーで頼んだと思われるピザにおれは強い関心を持ったが、ぎりぎりの所で押しとどめ、リュックをいつもの場所に掛けてソファーに座る。
「でしょうね。あ、そうだ。これ」
「え、ああ。眼鏡ね」
おれは木崎さんに眼鏡ケースを2つ手渡された。
「もしなんかあった時のために持っておいて。残りはわたしで管理するから」
「ああ、わかった。おれのに入れとくよ。眼鏡屋混んでた?」
「普段よりは。って感じかな。割とスムーズに買えたよ、7本」
7本ねえ。おれは痛みが出る前に飲んでおこうと、鞄からペットボトルを取り出して鎮痛剤を飲んだ。
「意外だな。みんな眼鏡屋に殺到するかと。そして7本は決して多くない」
「だよね。最初は20本って言ったんだけど」
「と、言ってはみたが20本は多いかも」
「だってこの不安わからないでしょ。視力がいい二司君には。あ、でも食料品はすごかった。誰が列で客なのかわからないぐらい」
「そうだなあ。おれも途中見たけどえらいことになってた。あれは並ぶ気失せるわ」
「あ、あとこれ」
木崎さんは端末の画面をおれに向ける。
「お、ええ! 最強能力ランキング!? もうできてんの!」
「それとこっちは社外秘的なのが流れてきたみたい。政府要人の能力らしいよ」
ほうほう。どれどれ。おれは木崎さんから送られたリンクを開く。
「は? 官房長官の能力は時を止める、だと……?」
「なんか職に合わせた能力を持ってるんだって」
「社外秘も含めさすがにネタじゃない? 外務大臣の、すべての言語がわかる。っていうのもそうとう無理やりだと。というか外れ枠だし」
「使い方によるよね、言語理解って。あ、そうだ。二司君の周りの人って大丈夫だったの?」
「周り? ああ、親は離島に近い所に住んでるんだよ。だから、あんまり関係ないから大丈夫だ、みたいな連絡は来た。その他は、そうだな。おれ知り合いは普通にいるけど友達はいないから大丈夫だ。でもね、これは言わせてもらうけど中学までは自分の実力でいなかった。ただ高校は違うぞ、4月の入学直後に季節外れのインフルエンザに掛かってそれで出遅れたんだ。完全におれのせいじゃない。治って学校に行き始めたおれは気づいたね、高校1年の初週は物凄く大切なんだ。いや、だったんだろう。現時点ではわからないけど」
「へえ、そう。まあわたしも別に。あ、そうだしばらくここにいていい?」
しばらくここにいていい? そう言われたおれは、即いい、即いていい。と思ったがあんまり即だとちょっと今後のパワーバランスに影響がありそうなので、うーん、まあおれとしては、という言葉を挟み、別にいても問題はない。と答えた。
「ありがとう。助かる。あとさっきの最強ランキングは適当に検索したら出るよ」
ほうほう。おれは能力最強ランキングで検索した。
「あー、これね。結局SSまであるのね。ほんとねえ、これ前も言ったけどほんとねえ、Sが強いとかまじで勘弁してよ。恥ずかしいんだよ、って、Sの能力すげえ! これ1人いたら全然難易度が」
「わたし空間系のよくわからないんだけど」
「ああ、遮断とか反転とかね。その辺は深く考えなくていいんじゃない。正直向こうがその気になって対面した場合、おれらは死ぬだけだし」
ランキングは系統別に分かれており、『生命に関わるもの』『時間に関わるもの』『物体の変位、転換に関わるもの』『空間に関わるもの』『肉体、精神に関わるもの』『能力に関わるもの』『その他特殊な現象に関わるもの』と定義されていた。
「いま生命系のS見てるんだけどさ。指をさした人間を殺す、選んだ人間を指定した時間に殺す、殺された相手を殺す、自分を見た人間を殺す。ん、自分を見た人間を殺す、ってこれSか……? あ、デスノートの上位互換あるな。ってどんだけ殺すんだよ!」
「わたし見てるのその他特殊のSSなんだけど、別の世界を構築するっていうのある」
「SS? ちょっと、今。あー、はいはい。結局上の方は抽象的になってくるよね。壊してるんだか造ってるのかわからないっていう。この『視界に入った空間を裂く』って何よ? こんなの怖くて使えないって」
「でも時間のやつは便利だよ。『自分の生涯を何度でも行き来できる』って」
「うーん、体が今の状態のまま行くのかなあ。というか自分の寿命わかっちゃうのか? それ」
「どうだろうね。実際使ってみないとなんとも」
その後も木崎さんと話しながらランキングを熱心に見ていたおれは、ふと気になり『能力に関わるもの』の部分を開き見ていると、Aランクの枠で木崎さんの能力を見つけた。
「な、なあ。木崎さん。きみのAなんだけど……」
「ああ、わたしも見た。でも使い勝手悪いよ。常時発動系の人には意味ないし」
じゃあおれは、と。物体のとこかな。とりあえずSではない、見ても無駄だ。Aいや、B、か?だがBだと思ってDだと恥ずかしいから。間を取ってCランクのページを開くと、画面一杯に文字が広がった。
「あー、そりゃそうなるわな」
「なにその量、C?」
「そうそう」
探す気が失せる、っていうかワード検索ないと無理だろ……。おれは目に付いた木が羅列されている箇所をスクロールした。




