真打
朱莉が冷静さを取り戻したとき、目の前にいる少年の形をした塾長と思われる存在は土くれと化していた。
「これは驚いた。まさか狂律社がこんな化け物を飼っているとは。」
プロジェクターに映し出された塾長は感嘆した。
「本体はそっちなら早く出てきなさいよ。」
朱莉は強気な口調で挑発する。
「私もこの場で命を懸ける訳にはいかない。安全に処理させてもらおう。」
プロジェクターに映し出された塾長が札を破くと教室の明かりが消え、一切の光がなくなった。身動きをとることはできるが壁にたどり着くことができない。
朱莉を外的要因で死に至らしめることは不可能であるが行動を封じられた場合文字通り手も足もでない。
朱莉はもっとも恐れていたことに直面し、途方に暮れる。
現実は理不尽である。求めているものは与えられず求めていないものが与えられる。自分の力ではどうしようもない状況に陥る。
誰しもが経験していることではあるが朱莉自身が周囲と一線を画しているという事実が本人を追い詰めていた。朱莉のもつ絶望はけた違いで少しのきっかけで壊れかねない状況であった。
長い間、暗闇の中に塾長の笑い声が響いていたがもう一人の少年が光り輝きその暗闇を消し去ると笑い声は消えた。
「もう敵情視察も済んだし、帰るとするか。」
今まで一言も発さなかった存在感のない少年がゆっくりと席を立つ。