傀儡〈かいらい〉
朱莉は病室のベット起き上がるとパイプ椅子に座っている老人がいることに気づいた。列車に轢かれる前に見た怪しい老人だ。
「ようやく目が覚めたな。」
老人は無表情で声をかけてくる。
「最悪。」
朱莉はこの身に起こった不都合な状態を表現するため率直な言葉を発する。
「お前は余命1年の宣告に耐えられず自殺しようとしていたから俺が買い取った。これからは指示にしたがって動いてもらう。」
老人は偉そうに現状を説明した。
朱莉はこの非日常現象に恐怖した。名前の長い難病に侵され主治医からあと1年と余命が宣告され生きることに何も感じられなくなり、いっそ自ら死を選ぶことを選んだのにそれが許されなかった。
恐怖が落ち着くと朱莉は不思議な力で自分の命が弄ばれたことに対し怒りがわいてきた。最近は引きこもっていて体力が落ちているはずなのに何故かどこからとなく力が漲るの感じた。今なら油断している老人の首ぐらいは軽く折れそうだ。
朱莉は瞬時に飛び上がり、老人の首を両手で掴み首を折る。自身の俊敏さに驚いたが不快な存在を排除できたと思い、安堵する。
「野蛮な娘だ。いきなり主人に掴みかかるなど。」
朱莉は手から伝わる粘土をこねているような感触とその声に青ざめる。老人は人間ではなかった。
「狂律社というものをしっているか。俺はその一部だ。」
母や周りの大人からその言葉を何度か聞いたことがある。この国に蔓延るカルト集団の一種であった。
朱莉は抵抗することを諦めひとまず謝るような仕草をとった。