悲劇
朱莉は調律社の主導的立場の一角である塾長を倒した。だからといって自身の状況が好転する訳ではなく、大勢が大きく変わることはない。
後からわかった話であるが今回敵となった調律社を構成している調律師は儀式さえ乗り越えることが出来れば無制限に増やすことができ、その拠点は世界中に散在しているということであった。つまり、塾長も代えはいくらでもきくということだ。
一方、調律師と対をなす狂律師は神のきまぐれにより素質のある者が啓示を受け出現するものでごく少数であり増員されるのかは未定である。
朱莉の人生は神に弄ばれているだけということだ。ただ、普通に笑ったり、泣いたりして過ごしたいだけであった。それがかなわないなら早く終わってほしいだけであった。
朱莉は傀儡となったことにより、死期が決まっているということ以外、身体的な恩恵を多大に受けていた。最近は感覚が鋭くなり余命を正確に把握することができるようになった。あと、7日4時間4分4秒444。
朱莉は気を紛らわすために自分を陥れた老人の指示に従い。とある地下室に向かう。道中は歩きで街中を歩くことにした。祝日とのこともあり人は比較的多かった。特に人混みは気にならなかったがやたらと琴を模った紋章が目に付く。それらが調律社の紋章であることは一部の者しか知らないらしい。世界は気づかぬうちに調律社に支配されていっているのだ。
そんなことは朱莉には大したことではなく、これから起こること、起こすことのほうがよっぽど大事ではあった。
朱莉は人通りの多い通りから裏路地に入り、小さなビルにたどり着いた。中は薄暗く夜中なら絶対に来たくない不気味さであった。
ビルの奥の扉を開けるとそこに地下へと続く階段があった。階段を潜り抜けるとそこには大聖堂があり偶像の前に見たことのある目立たない少年がいた。