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1 プロローグ



「それよりもシェリー、君は本当に大丈夫?」



 そう言って私の王子様は、お見舞いに来た私を心配そうに見つめる。


 金色の髪がふわりと揺れる。その深緑の瞳を、私は受け止めることができなかった。


(な、何これ何これ)


 心臓がバクバクする。絶対に顔が赤い、目だってめちゃくちゃ潤んでると思う。

 やっぱりおかしい。そんなはずない。だって相手はあの殿下なのに!


「シェリー、顔が赤いよ。やっぱり怖かったんだね、僕が抱きしめてあげよう」


 ぎゅーっと優しく抱きしめられて、私はさらに動けなくなってしまった。

 いつもならこんなふうに勝手に抱き締められたら、私は怒ってそのおでこにデコピンをしているはずだ。嫌な顔をして殿下を引き剥がしているはず。

 なのに、今はそれができない。私と違って硬い胸板の感触に、ふわりと香った殿下の匂いに、胸が締め付けられるようで、きゅっと殿下の服の裾を握ってしまった。


「シェ、シェリー?」


 殿下の動揺する声が聞こえる。

 それはそうだろう、私がこんな反応をするのは、祖母が亡くなった時の葬式以来だ。


 殿下のことなんか、大嫌いだったはずなのに。


(私、どうしちゃったんだろう!?)


 本当にどうかしている。


 殿下は女好きでだらしなくて、そのくせ妙に私を縛り付けてくる残念王子。なのに、なんだか今日の私の目には、キラキラ輝いて見えるのだ。


 言葉を口にすると余計なことを言いそうなので、潤んだ目で黙って殿下を見上げると、殿下はあたふたと慄きながら、耳まで真っ赤になっている。

 目線が合うと、今度は私が恥ずかしくて慌てて目線を逸らす。


「……あの、心配したんです」

「……うん」

「ありがとうございました……」

「……うん」


 なんだ、なんなのだ。この甘い空気は!


「……あの! 今日は帰ります!」

「そ、そうだね! 昨日の今日だ、体を休めるといい!」

「はい! それでは失礼します!」

「うん! シェリー、また明日!」

「はい!」


 大慌てで部屋を出た。

 え、私明日もまた来るの? 殿下に会いに? レッスンもないのに?


 私をここまで連れてきた殿下の近衛が、何とも言えない顔で私を見ている。


 ――お願い、何も言わないで! できれば忘れて!


 私は自分の頬に手を当てると、当然というか、すごく熱くほてっていた。


 今、自分から部屋を出てきたはずなのに、もう会いたい。会って、沢山抱きしめてほしい。

 でも、恥ずかしいから、やっぱり顔が見えないくらい距離も取りたい。


(私、こんな破廉恥な子だったの……!?)


 こんなのは私じゃない。

 私は、いつも冷静で、恋なんか知らない、氷の女王のはずだ。殿下のことだって、大嫌いのはず。殿下に会っただけでこんなふうに自分をコントロールできないくらい動揺するなんて、ありえない。


 混乱しながら、私はなんとか、自分への言い訳を思いつく。


(そうだ、きっと私は冷静じゃないんだわ)


 昨日あんな事件があったのだ。ちょっと一時的に、冷静でいられないだけ。


 後数日もすれば、元の私に戻れるに違いないのだ……!



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