5 人がいた
「え、ヤダ怖い⁉」
私はちょっぴり怖くなって逆立った毛を、ブルルっと身体をふるわせて落ち着かせる。
いやいや、私ってばあやかしだから、オバケなんか怖くないし!
「……でも、そろそろ帰ろうかな」
それでもちょっぴり心細くなったっていうか、そういう気分になった、その時。
「そこにいるヤツ、出てこい」
突然、誰かの声が響いた。
「うきゃっ⁉」
私はビクッと跳び上がった。
本当に一メートルくらい跳んだと思う。
今度こそオバケ!? と思ってドッドッとうるさく心臓を鳴らしながら、ゆっくりと首を動かして、声がしたらしき方を見る。
するといつの間にか入口が大きく開いていて、そこに人影があった。
背が高くて、背格好からして男の人っぽいんだけど、月明かりが逆光でそれ以上のことは見てとれない。
その彼は、入口からゆっくりと私の方へと歩いて来る。
「怪しい気配、さては鬼の類か」
男の人にしては高めな耳心地のいい声で、これが歌だったらいいんだろうけど、言っていることが意味わかんない。
「は? なにそれ?」
思いもよらないことを言われたせいで、私は思わず声が出ちゃう。
っておバカ!
ここは猫のマネをして逃げるところでしょ、私!
この人って絶対、この屋敷の住人だよね!? 不法侵入じゃん! 猫だけど!
けど、鬼ってなによ?
私には角なんてついてないし、漫画とかお話の中じゃあるまいし!
いや、あやかしだって十分漫画とかお話の中の人なんだろうけどさ。
私がそんな風に自分で自分にツッコミをしていると。
「喋る猫とは、さては鬼ではなくあやかしか?」
彼がそう言ってから、すいっと片手を挙げた。
うぐっ、言い当てられた!
でも、なにをするつもりかしらないけれど、ここは逃げるが勝ちってことで、と私が高い所から飛び降りて駆け出した、その瞬間。
ドゥッ!
目の前の床の石が爆ぜた。
え、なんで今そこが爆発したの!? なに、この建物ってそういう仕掛けでもあるの!?
途端に床を移動するのが怖くなった私は、キュキュッと急ブレーキをかけて止まる。おかげで摩擦で肉球が熱い!
怖くて床を走れなくなった私は、作戦を変更する。
建物の壁とか飾りとかを上手く使ってピョンピョンとジャンプを繰り返したら、相手の頭の上の隙間から外へ脱出!
よくやった、エラいぞ私!
「じゃ~ね~!」
私はそのままの勢いで、お屋敷の外へ逃げようとしたんだけど。
アレ、私ってどっちから来た?
薔薇のトンネルを抜けて、そこから、えっと……。
初めて来たお屋敷の広すぎるお庭で、迷子になるというマヌケなことになってしまっている。
ヤバい、怖い上に帰れないんじゃ!? と私がパニックになっていると。
「どこへ逃げても無駄だ」
さっきの男の声がした。
後ろだ! と私が振り向くと、そこに静かに立っている彼がいた。
さっきよりはっきりと見えた相手は、すらっと背が高くて、髪はスッキリと切りそろえられている、とてもキレイな男の人だった。
なんていうの? 王子様ってこんな感じかな? っていうか。
とにかく、こんなにキレイな男の人を初めて見た。
その王子様系な彼が、私に言う。
「逃げようとしても、この屋敷の敷地内のことは直ぐにわかる。
俺の妖術からは逃れられんぞ」
言われた内容ははっきり言ってよくわからないけれど、「妖術」という言葉を拾い聞いて、ビックリした私は猫の目をまん丸に見開く。
「え、アンタも人間のあやかしなの!?」
でもでも、私以外にもそんなのがいるなんて、お母さんから聞いたことがないんだけど!?
驚く私に、彼は手を伸ばしてきて。
「あやかしだと? 『も』ということはお前はやはりあやかしか?」
ひょいッと首根っこを摘ままれて、持ち上げられた。
あ、捕まっちゃったじゃん!? おバカぁ~!




