8 叱られた
けど熱いことは熱いみたいで、ぽっちゃり猫が「アチチチ……!」ってたまらず悲鳴を上げている。
「くそー! 石動のガキが面白いことになっているって聞いて、からかいに来ただけだったのに!」
それでもまだ憎まれ口を叩こうとするぽっちゃり猫に、雅貴は「そうか」と冷静だ。
「こちらはちっとも楽しくもなんともなかったんで、サッサと帰ってくれ」
雅貴がそう言ってもう一度片手を振ると、火がさらに燃え盛った。
「ちくしょ~!」
そしてぽっちゃり猫は光になって火と一緒に消える。
え、ホントに消えちゃったよ?
「……死んじゃったの?」
私が恐る恐る聞くのに、雅貴がちらっと視線を向けてくる。
「いや、あやかしの世界に帰っただけだ。
あやかしは簡単には死なんからな」
「そうなんだぁ。
あ、でも、アイツ『誓約』のこととか知ってたよ?
なんで?」
私は初めて聞く話に「ふむふむ」と頷きつつ、気になったことを聞いてみる。
そうすると雅貴が渋い顔をしながら、答えてくれた。
「狐のあやかしからでも聞いたんだろうさ。
あの誓約の力は、狐であれば感じ取ったはずだ」
なるほど、そうなのか。
初めて聞く話に私は感心する。
だって、自分と雅貴以外であやかしとか初めて見たんだよ?
お母さんにそういう世界があるとは聞いたことがあったけど。
なんかスゴい、漫画みたい。
私が「ほへ~」っていう顔をしていると、雅貴が肩から私をひょいと摘まみ上げて、正面に持って来た。
「弥奈、お前が最近あんまりさっさと帰るから、俺がなにか嫌がることをしたんじゃないかと屋敷の者から疑われたぞ」
「そりゃ、なんかゴメン」
私は素直に謝った。
そうだよね、急に帰りたがるなんて、なんか悪い事件があったみたいだよね。
美加子に借りた恋愛漫画にもあったよ、そういうシチュエーション。
私はとにかく猫の事でいっぱいで、雅貴のことまで考えられなかったっていうのが、本当のところで。
確かに、もっとなんか言っておけば良かったかも。
私がちょっぴり反省して、シュンとしていると。
「それに、どうして俺に相談しなかった?
あの太い猫を探していたんだろう?」
「どうしてって、あれ、どうしてだろうね?」
雅貴に言われて、私は首をひねる。
別にね、雅貴に秘密にしておこうとか考えていたわけじゃないの。
ただ、言おうって思わなかっただけで。
雅貴にそんなことを伝えると、雅貴は「そうか」って呟いた。
「弥奈はもしかして、誰かと話し合うことをあまりやったことがないのか?」
「……そうかも」
だって、私はお母さんが死んじゃってから、あやかしのことは全部自分で決めて、自分で行動してきたから。
自分のことながら、改めて発見した事実に驚いている私に、雅貴が告げる。
「弥奈、今度からなにか気になることがあれば、俺に言え。
一緒に考えてやるから」
そうだよね、雅貴には秘密にしなきゃいけない事なんてないんだ。
そっか、なんか気楽かも!
「うん、わかった……ありがとう!」
ご機嫌になってグィンと上を向いた私を見た雅貴が、ちょっとホッとしているみたいだった。
それから雅貴に送られて、家まで帰ったんだけど。
あ、家を知られちゃったけど、まあいっか。
これでお互い様になったよね!
ぽっちゃり猫がいなくなったことで、猫の悪戯は聞かなくなったみたいだ。
亜希もご近所での被害がパタリとなくなったって言ってたし、それでみんなは猫がよその土地に行っちゃったんだって考えているみたい。
私の頑張りを知られないのはちょっぴり寂しいけど、平和なのはいいことだよね!
それに頑張ったのは、主に雅貴な気がするし。




