プロローグ 始まりまでの前日譚
ノアは今、ギルマスのアデリン・ドイルがいる、ギルドマスター室に呼び出された。
「おお、ノアくんか、よく来てくれた。座りたまえ」
そう言われたので会談用のソファーに腰をかける。するとアデリンが指を立てながら「君をここに呼んだ理由なんだが」と前置きする。
「ノアくんはギルドの総務課の一員として毎日頑張っているようじゃないか」
「はい。その通りです。それがどうしたんでしょうか」
「それを踏まえてなんだが、君は明日から、いや今からここを辞めてもらう事になった」
「は? どういう事ですか!」
突然の追放宣言にノアは一瞬呆けながらもすぐに意味を理解して驚いた勢いでアデリンに問い返す。
「そのまんまの意味さ、ギルドは総務課の縮小を計画していてね。その一環で君を辞めさせるする事になった。いわゆるリストラって言うやつだよ」
「そんな計画があったなんて。でもなんで俺が、総務が縮小の理由は」
「縮小の理由は単に総務課は雑務しか出来ないゴミの吹き溜まりだからさ。積み上がったゴミは捨てに行くだろ? それと一緒なのさ」
「雑務しか出来ないゴミの吹き溜まりってそんな」
「そうさ、雑務しか出来ない雑魚共が集まっているからさ! 今は個人の得意分野を伸ばして行ってみんなで支え合う時代。君たちのような縁の下の力持ち見たいな存在はお呼びでないのだよ」
アデリンのその言葉にノアは一瞬カッと怒りが出てきたが、あくまでも冷静に握った拳を震わせながら無理やり落ち着かせる。
「分かりました。縮小する理由は分かりました。ですがなぜ俺なのでしょうか? くじ引きかそんな感じですか? それとも俺が転移魔法しか使えないからでしょうか?」
そうである。ノアは闇魔法の最高峰、転移魔法しか使えないのだ。それ以外が全く使えない訳ではないが、使える魔法の全てが転移魔法の応用という制限付きである。
ノアがギルマスに対して質問するとギルマスの護衛らしき騎士達が下向きながらニヤリと笑っている。
なんだコイツら、ギルドってこんな奴が居たのか。
「そんなつまらない理由じゃないよ。そうだな気分という言葉が一番あっているかな?」
「気分だと?」
「そうだとも気分だ。人間は行動する時にきっかけは二つある。一つは感情。もう一つは気分だ。今回は気分によって決まった事だ。おわかり?」
「そんな意味もなく一つのチームを壊し続けたら絶対にギルドは崩壊しますよ」
「なんて寝言を言っているだ? この私が間違えるとでも? 今や王族よりもこの国の上に立つ存在であるこの私が間違えて今まで積上げていたのが簡単に壊れるとでも?」
「えぇ、そう言っています」
「そんなことは無いんだよ!! お前はバカか!? いいバカだ!! この私がこの国でいや、この世界で一番正しくて一番の正義なのだ!! 分かったか!!」
アデリンはテーブルに拳を叩きつけて顔を怒鳴りつける。
「そうなんですか。話にならないな」
「理解ができないならしょうが無い。いつか気づく事を祈っておくよ。それでなんだが、出て行ってくれるよね。なぁに、国のため何よりギルドのためと思えば簡単じゃないか」
「そんな、俺はこれからどう生きていけばいいんですか!?」
「そんなこと知らないよ。好き勝手に生きていけばいいと思うけど? まっ、私に迷惑かけなければの話だけど」
ノアはギルマスを睨みに近い視線を送りながら下唇を強く噛み締める。じんわりと血の味を感じながらこらえる。今ここで暴れてもいい事なんて無いからだ。
あくまで冷静に。それをノアは貫く。
「分かりました。あなたと分かり合える日は一生来ません。要求通り今すぐ出ていかせてもらいます」
「おうおう!! 意外とあっさりと助かるよ。ありがとさん」
「いえいえ、それとこんな所さっさと出て行きたいので早く手配してください」
「そうか、まあいい。手配は既に終わっている。そこの彼について行くといい」
そう言うとアデリンはさっきから髪ばっか触っている騎士を指差す。典型的なナルシスト貴族だ。平民のノアの事を部屋に入って来た瞬間からあざ笑っていた人物の一人である。
「分かりました」
「フッ、君ごときが私と隣に歩くなんてありえない話なのだが、アデリン様のお願いとあらば慎んでお受けしましょう」
「相変わらずお前は一言多いな。そこが見物として興が乗るのだが」
「お褒めのお言葉、この我が身に余る光栄に至り」
「なんだそれ?」
「アデリン様からもらったお褒めのお言葉で喜んだ心を表しただけの一文に過ぎません」
「あまり多くの単語を使うな。頭が混乱する」
「それは失礼」
ノアはまるで茶番のような光景を見せられて怒りが湧いてくる。ノアは早くこんな場所から離れたいのだ。
「おい! いい加減に俺をここから出してくれよ!」
「おやおや、君は自分の立場が分かっていないようだね。ならばこの慈悲深い私が君のような愚物に教えてあげよう」
「ずいぶんと大層な物言いだな。一体どんな暴論が飛んでくる事やら」
「なぜ暴論前提なのかは理解できないな。いやわかるぞ、君が愚者だからなのだろう」
「そういう御託はいいから早くしてくれ」
「ならば教えてあげよう。それは君はギルドから追放された、ただの一般平民だからだ。一般平民にはそれ相応の権利しか与えられない。だからこそ君には我が貴族たちの前で許しを乞う以外の発言権を持たないのだよ」
「許しを乞うってどんな感じ?」
「愚者にしてはいい質問だ。そうだな、全裸で全身を地面に擦り付けて初めて考え始めると言ったところだ」
「とんでもないな」
ノアは許しを乞うという事を鼻で笑いながら顔をアデリンに向ける。
「今までお世話になりました。いや、お世話しました!!」
「お世話しましたというのはどういう意味だろうか? とても癪に触るのだが」
「さあね」
ノアはアデリンの質問を短く返すと騎士と共にギルドを出るその瞬間に一言告げる。
「絶対に後悔させてやる」
この日、ノアはギルドと縁を切り、新たな人生を始めるのだった。
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