法務大臣と摂政③~ソーワ王国の女性~
人間は珍しい者を好み、珍しい者を拒む。
ドナルド殿は大統領として人気があり初当選から今まで落選することはなかった。任期終了近くなると毎回選挙が行われる。
それに常に当選していた。
今、都市部から離れた郊外に住んでいる様子から恐らく何年も当選していない。勿論、議員も落選しているはずだ。
再度外にいるソーワ王国の女性を見ると女性の近くに彼女と同じ髪色の幼い少年がいた。
使用人が自分の子どもを職場につれてくるか?
それとも奴隷であった彼女を使用人したのではない……?
すると……。
「ソーワ王国の女性はドナルド殿の二人目の妻……?」
口してみたが考えすぎかと思い首をふる。
しかし、ドナルド殿顔をみると目と口を大きく開けて固まっている。先ほどまで険しい顔していた母が大笑いしている。
伯母の表情も先ほどより柔らかくなっている。
「面白いわね。屋敷内の事柄からそこまで導き出せるとは」
大きく息を吐いて椅子に座り直す伯母を見て「更に僕の想像話いいですか?」と前置きをいれるとドナルド殿は何度まばたきをしている。
母は楽しそうだ。
先ほどのように大笑いはしていないが笑いはとまらないようである。
伯母が頷くのを確認すると僕は話を続ける。
愛妻家と話を聞いてたドナルド殿が2人目の妻を貰うということは確実に第一夫人が関わっている。
つまり……。
「奴隷女性を連れてきたのはホワイト夫人ですね」
恐らく、奴隷女性は彼女が助けないと命に関わる状態であったのだろう。
しかし、闇市奴隷の彼女が隣国で生活するのは難しい。我が国ほどではないと思うが島国特有の外部を拒む特性は隣国にもあるはずである。
結婚そして出産が一番早く安全性に居場所を手に入れる事ができる。
しかし、それには信頼できる男性が必要であった。それもこの国の権力者かいい。
それなら誰も女性に手を出ない。
ホワイト夫人はドナルド殿を慕っているはずであるが他の女をあてがうなんて。奴隷女性にそれほどの価値があるのか。
違う。闇市出身の奴隷女性だからこそ価値があるのか。その代償払ったとしても……。
「政の世界から追い出された理由はそれですかね」
ドナルド殿は「参った」と頭をかきながらまた大きなお腹を揺らしている。
母たちは相変わらず楽しそうに僕の話を聞いている。ここまで突っ込んだ事を聞いていいのか迷う部分もあったが雰囲気で話してしまった。
「ほとんど正解だよ。まぁ、もう少ししたら政界に戻るよ」
「ちょうど現大統領のボロが出ている。ドナルド殿以外の大統領は不祥事が多かったな」
にやついた母の顔はなんとも言えない。大人の世界は色々あるのだろう。触っただけで誇りがでる人もいる。
きっと手段を選んでいるとドナルド殿に勝てないのだ。
後は彼女の容姿を受け継いだ子どもが幸せになってるといいと願う。
「ドナルド殿はあの方が好きなんですか?同情ではなくですか?」
ドナルド殿も奴隷女性もお互いに好きあって一緒にいるのか疑問に思った。生活のためとは言っても感情のない結婚はさみしいと思う。
予期しなかった質問であったようで、ドナルド殿は咳き込み頭をかきながら頷くドナルド殿は耳まで赤くなっている。
母たちがニヤニヤしてドナルド殿を見ている。馴れ初めを知っているだろう。
ドナルド殿のその反応で解答はわかったため、もう話はよいかと席を立つ事にした。
僕がいない方ができる話もあるだろうと母の顔を見るが相変わらず、ニヤニヤとドナルド殿を眺めている。
「ドナルド殿、第二夫人とお話してきてよろしいでしょうか」
ドナルド殿の承諾を得るとゆっくり立ち上がり母たちに挨拶をして部屋を出た。
あの三人から離れた事で緊張がとけ、胸をなでおろす。
ある程度この国の事を聞く事ができたし、そろそろ退室する頃合いだと感じた。護衛なしのお忍びでの入国。
恐らく僕に聞かれたくない話もあるだろう。
照れるドナルド殿はなんだか可愛かった。
ドナルド殿はあの女性の事が好きなんだろうが女性はどうなんだろう。
仕方なくドナルド殿と結婚したのなら可哀想だ。周囲の者は丁寧に接しているようであるが第二夫人である。
一夫多妻は我が国では考えられないが、その代わり妾や不倫をするものいるから同じだと思ったが、妻とした方が権利がもらえるから有利だと感じた。
国より規則が違うのがとても面白い。ここにきた意味があった。
屋敷から外に出ると花壇の所に女性とその子どもの影があった。
早く話したいと急ぐ気持ちを我慢してなるべく相手に警戒されないように声をかける。
「ドナルド殿の奥方でしょうか」
二人がこちらを振り向いた。大声出さず会話ができるくらいの位置で足を止める。
あまり近づきすぎると怖がられるかと思った。元奴隷との接し方がよく分からないが、警戒されないようなるべく優しく挨拶をすることにした。
「お初にお目に掛かります。隣国パレスの摂政グレース・アレクサンダー・エドワードの息子、アーサー・アレクサンダー・グレースです。先ほど案内して頂きましたのに大した挨拶もせず失礼致しました」
あの時は彼女を侍女だと思っていた。本当に失礼な事をしたと反省する。
僕が名乗ると女性は姿勢を正しスカートを持ち深々と頭を下げる。少年も頭だけ一瞬下げた。
「お初にお目にかかります。ドナルド・ホワイトの妻、リン・ホワイトでございます。こちらは息子のオリバー・ホワイトでございます。娘と第一夫人の子どもは只今不在で挨拶できず申し訳ありません」
僕が王族とわかっているはずであるが堂々した態度は流石、元大統領の夫人であると思う。
ホワイト第二夫人は美しい女性である。黒髪に黒い瞳は珍しいがとても美しいかった。
更に注目すべきはオリバーだ。
夫人の腰くらいの身長であるオリバーも夫人と同じ黒髪に黒い瞳をしてる。
ドナルド殿の血が入ってるせいか肌はホワイト第二夫人より白く透き通るようである。
島民の肌も白いが太陽に負けてしまうようで年齢と共に染みが増えていく。しかし、ホワイト第二夫人もオリバーも染み一つない肌をしている。
オリバーの黒い瞳がチラチラと僕を見る。不信に思われているのかもしれないが、そんなオリバーの表情も可愛くて堪らない。
是非とも声聞きたい。
「何かご用意でしょうか」
ホワイト第二夫人に声を掛けられて、自分が挨拶後何も言っていないことに気づき焦った。
オリバーに魅入ってしまいホワイト第二夫人の存在を忘れていたのだ。
息子を余りにじっくりと見てしまったせいか、ホワイト第二夫人に警戒されたかもしれない。
「失礼致しました。ホワイト第二夫人。少しお話をしたく伺いました」
「リンで構いません。私の祖国の事でしょうか?」
優しく微笑む彼女からは少し疲れを感じた。
ソーワ王国特有の容姿を持つ彼女はよく質問攻めに会うのだろう。
勿論僕もあの国の事を知りたいと思った。しかしそれ以上に今はオリバーを知りたい。
せめて声を聞きたい。
さっきまで瞬きせずに僕を見ていたオリバーだが目が乾いたようで瞬きをして目をこすっていた。その愛らしさに思わず顔緩む。
「オリバーと話したいのですか?子どもが好きなんですね」
返事をせずオリバーに夢中になっている僕に気づき口手を当てて苦笑した。
そしてオリバーをつれて手を伸ばせば触れる距離まできてくれた。僕は慌ててホワイト第二夫人に視線をうつす。
「申し訳ありません。えっと、僕に敬語は不要です。リンと呼びますからアーサーと呼んで下さい」
リンにそう告げるとリンは目を大きくしたがチラリと上を見るとすぐに、微笑んだ。そして頷く。
僕はリンが頷いたのを確認すると、オリバーと視線を合わせるようにしゃがんだ。オリバーは緊張しているのか母のスカートをキュッとにぎっている。
「勿論オリバーもそう呼んでくれると嬉しい」
オリバーは戸惑った顔をして母のスカートにぎった小さな手に力をいれた。怖がらせてしまったと思ったが、恥ずかしそうに目をキョロキョロさせたオリバーの小さな口から可愛らしい声が聞こえた。
「アーサー」
天使。
可愛らしい容姿に愛らしい声の為思わず叫びそうになり、胸を押さえる。僕の呼吸が荒くなった。
「あ、大丈夫?苦しい?」
オリバーは母から手を離すと、顔を傾け僕の顔を心配そうに覗いてくる。
顔が近い、今にも鼻同士がくっつきそうだ。
僕の様子からオリバーは体調が悪いと思ったらしく背中をさすってくれる。
「大丈夫。ありがとう」
無理やり気持ちを落ち着かせ、オリバーに礼をいいながら顔あげるとリンが上を見て口を動かしている。
視線の先に先ほどいた部屋の窓がある。
そこにいたのは母だ。母は口の動きだけでリンと会話している。
そして、はっきり『ほっとけ』とリンに伝えていた。リンは頷くとまだしゃがみこんでいる僕と心配そうにしてるオリバーに「ごゆっくり」と言って去って言ってしまった。
か弱い元奴隷の女性と言う印象は崩れた。リンは母と同じニオイがする。
今、僕の横で不安そうに眉を寄せる少年だけが味方な気がした。




