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勝利への最長ルート

作者: 夜雲月

これは、俺が人生を通して将棋の道をあるき続ける物語。

未熟な思考を、闘いに闘いを重ねて自らを完成に近づける物語。

喜びを知り、悲しみを知り、成功を知り、失敗を知り、そして最後には自らの願いを完遂する物語。

 才能がものを言う世界。

 俺はそんな世界が嫌いだ。

 いくら努力しても、産まれながらにして優れた才能持つ者に叶わないなんて理不尽が嫌いだからだ。いや、負けを知っていて戦いに行くことが嫌いだからか…………。

 高校2年の夏、ふとそんな事を呟いた。

 目の前で汗水垂らして大声を張り上げ続ける野球部を尻目に、木陰で一人スマホを弄る。見ているのはニュース欄だ。内容は将棋界について、誰々が4連勝だの、挑決決定戦だのと色々な記事が乗っている。

 そしてまた俺も、アマチュア棋士の端くれである。今は部活動を抜け出して絶賛サボりの真っ最中だ。

「あちー…………こんな暑いのになんでうちの部はエアコン一つないんだよ。」

 持ち時間4時間で、更に風が吹き抜けると集中力が削がれるという理由から窓も開けず、扇風機もつけずに対局って。

「灼熱地獄もいいとこだ。なぜあれでまともな対局になるのか…………。」


「あっ!見つけた!!」

 ん………見つかったか。

「先輩!何してるんですか!主将達もカンカンですよ!!」

「あー不戦敗って事にしといて。よろしく〜」

「よろしく〜じゃないですよ!今日は大事な調整の日でしょ!!」

 あ?調整?…………あーそういえば、明後日はこの学校に名人が来るんだっけか。

「どうせうちの兄さんが卒業校に訪問するだけなんだ。どうでもいいよそんなこと。」

 そう、うちの兄貴はプロの将棋棋士であり、しかも順位戦の最高峰、名人の位を持つスーパー兄貴である。更に年齢が20歳でイケメンと言うんだから、ここらの地域どころか日本中でスーパースター扱いなのである。

「何不貞腐れてんですか!さぁ早く行きますよ、先輩!!」

「煩いなぁ。わーったよ………。」


「このドアホが!!いくら名人の弟で腕っぷしが強くても、いい加減私の堪忍袋の尾が切れたわ!!!」

 相変わらずこの部は煩い女しかいないな。

「すいませんね。こんなサウナみたいな場所で対局はしたくなかったもんでね。」

 勿論本音だ。皮肉たっぷりのな。

「それなら場所を変えて対局しようじゃないか。頼むからサボることだけはやめてくれ。」

「そう思うなら部員を生死の危機に陥れないでくださいよ。」

「生意気な…………今日こそは負けないからね!!」

 バトル系ゲーム定番のセリフと展開だな。とメタイ事をあえて言っておこう。

 断ると後々面倒だし、一局は指さないとまた兄貴に小言言われるからな。受けるとしよう。

「分かりましたよ………別にここでいいので換気と指しやすい環境さえ整っていれば俺はそれでいいんで。」


 私立神代育英高校 将棋部

 主将 南雲 姫乃

 この人は一応俺の幼馴染で、兄貴の事をとても尊敬している。

「神代 勝通! 今日こそは超えてやるわ!!」

 フルネームで呼ぶなっての。

 そう、名前の通りこの学校は俺の一族の息のかかった学校だ。だからと言って不正はしていない。ちゃんと受験に合格して入学したからそこは疑わないでほしい。

「分かったから早く駒を振ってくれ。対局が始めれないぞ。」

「後輩が振りなさいな。私は先輩よ?」

 ……………穴熊から受け潰しでプライド木っ端微塵にしてやろうかなな(キレ気味)

「分かりましたよ。」

 自陣の歩兵を5枚つまみ、両手で包み込み盤上に振った。

(裏の「と金」が4枚、俺が先手か………。)

 強引に下座にされたのが功を奏し、俺が先手になった。まぁ位としては南雲の方が上だし歳も俺の方が下だしな。

 将棋は先手が少し有利とされている。

 俺はどちらでもいいが、南雲から先手を取れたことに若干の愉悦を感じた。

 不意に彼女の表情を見ると、少し歪んだのが見えた。

 駒を並べ直し終えて、脳の思考回路を対局モードへと移行させる。そして、

「「よろしくお願い致します。」」

 頭を下げて相手方と盤と駒に挨拶をする。

 さぁ、戦の始まりだ。



 将来はプロの棋士を目指して、全国でも将棋で有名なこの学校に入学した。

 将棋の強豪校だけあって、将棋部の人数は学校の一クラス分の人数はいた。しかも皆奨励会でも戦える程の実力の持ち主ばかりだった。

 奨励会と言うのは、簡単に言うとプロの棋士を育成するための教習機関と言えばわかるかな。

 中にはホントに奨励会員もいると言う噂も聞く。

 そんな僕、紫月 夏鈴がこの部に入れたのは奇跡も奇跡だった。

 女子が男子と混ざって将棋を指すのは珍しい………のかな?

 部に入るには入部テストがあり、新参者達と先輩達が、事前に決めた予定で10回対局し8勝した者が入部できる条件があった。

 僕はギリギリ8勝して、入部できた。

「あの時はホントに地獄だったな…………。」

 たった4ヶ月そこらしか経っていないのに、昔のように思えて仕方ない。

 後、この部で一番人気なカードは主将の南雲先輩と、あの若き神代名人の弟、勝通先輩の対局が学校全体で大反響を呼んでいる。

 生徒達の中ではその数多の対局を、

「巌流島の戦い 二刀流神代勝通vs燕返しの南雲姫乃」

 と呼んだ。

 …………凄く厨二臭いし、何回巌流島で戦ってんだってツッコみたくなるけど…………。

 けど、生で初めてみたときの衝撃は凄いものだった。

 さっきまで、木陰でサボってた先輩があそこまで殺気立つなんてって恐怖したよ。

 今も、別室で仲の良いグループで検討をしていても背中がゾクゾクするのがよく分かる。

 そして、勝通先輩の初手、最初に動かす駒を二本の指で摘み上げた。


 俺にとって、将棋は兄さんに近づく唯一の手段だ。

 落ちこぼれと天才の差を改めて思い知らされた。

 アマチュア新人戦での決勝で戦ったあの日、見るも無惨な盤面を目の前にして、まだ幼かった俺の傲慢なプライドは粉々に砕かれた。

「先手、神代真王 7六歩」

 読み上げの後輩が初手の棋譜を読んだ。

 真王ってのはこの部活内でのタイトル名。

 部活でもタイトル戦を実際に行い、タイトル保持者を目指すと言う取り組みがなされている。

 三つあるタイトル 「名跡」「玉将」そして、「真王」

 そんで俺は、一年の最初の真王戦で見事タイトルを奪取したってとこかな。

 んで、三つのタイトルの最高位、名跡のタイトルを持つのが目の前の対局相手って訳だ。

「後手、南雲名跡 8四歩」

(さて、今日は何の戦法で行こうかな。)

 ノータイムで角行側の銀将を摘み上げた。

「先手、6八銀」

「後手、3四歩」

 角換わりは今回は遠慮するかな。

「先手、6六歩」

 よし、宣言通り受け将棋にするかな。


(勝通は二刀流、つまり居飛車振り飛車どちらも指しこなすオールラウンダー。6六歩と言う事は普通なら雁木に囲うか振り飛車だけど……………。とにかく今日は今まで練習してきたアレを試してやるわ。)

 私は、ここの名跡として、部最高のタイトルを持つ者。なのに幼馴染とは言え、後輩相手に3連敗するなんて屈辱以外の何でもない!!

 今日こそ勝つと言う意志を強く抱き、力強く、用意してきた作戦を打ち出した。

「後手、6二銀」「先手、6七銀」「後手、6四歩」

「先手、7五歩」「後手、5二金」「先手、7六銀」

「後手、6三銀」「先手、7八金」「後手、4二玉」

「先手、7七角」「後手、3二玉」「先手、6八飛」

(少し形は異様ではあるが、四間飛車vs対振り持久戦模様の将棋にはなってきた。私が想像していた形ではないけど、ここからが勝負よ。)

(本来、奇襲やカウンターが得意戦術である南雲にとって、持久戦はいつも使っている手であるのだが、今回はそこに、ある作戦を持ってきた様だ。…………って、アニメとかならナレーターが入るんだろうなこれ………。)

「後手、5四銀」「先手、4八玉」「後手、6二飛」

「先手、3八玉」「後手、3二玉」

(船囲いか。オーソドックスな受けだな。それじゃこちらも遠慮なく囲わせてもらおうか………。)

 そして俺は玉を一筋の一番下に玉を移動させ、銀で蓋を閉じて穴熊に囲った。まさに有言実行である。

「………まさか貴方が穴熊を指すなんてね。」

「丁度穴熊で受け潰ししたかったからな。」

「性根の悪い事で………。」

(バカ正直に指してるだけでは、勝てないのは周知の事実。罠を張り合って相手を動揺させてミスを誘い込む。それが将棋の醍醐味だ。)

 何かの本の標語で載ってたな。これを考えた人か…………嫌な予感しかしないな…………。

 そんなどうでもいい事を想像しながら指していると、終盤に差し掛かった。念の為、自陣にも気を配りつつ、相手の玉にジリジリと圧力をかける。


 最初は嫌々ながらも勝負を受け気が進まないまま指していく。しかし、一つの駒を打つ毎に段々と熱が宿りのめり込んでいく、なんとも不思議なもんだ。


 どんな強敵だろうと、どんな時でも忘れない勝利への意識と自分が信じた正しい努力、仲間と積み上げてきた経験値があれば勝てる。それを勝通、貴方に今一度教えてあげる。


 4時間あった持ち時間は、両者共に持ち時間を使い切り、一分将棋に突入していた。

「強い………。」

 検討室の空気が、序盤とは明らかに違う重い空気になっていた。皆が腕組みをして次の手をひねり出してはことごとく外していたからだ。

「こんな型破りな戦法が通じるなんて………。」

 常識的には、棋士達は皆定跡から将棋のいろはを覚える。

 だけど今の将棋は、定跡を大事に思う者もそうでない者も、はっきり言って外道な将棋だと口を揃えるだろう。これがマトモな形になっていなければ罵詈雑言の嵐だった。

 自分のペースを乱された事は、薄々気づいてはいた。それを相手に悟らせずに指すことはプロ同士でも、中々難しい事だろうと思う。それでも勝負師の身であるのならば、無理と言われてもやるしかない。だが、今回はそんな事頭の隅にすら存在しなかった。

 そして、遂にその時が来た。

 数手を指した後、最後に自玉を前に突き出し相手の手番が終わると、駒を投じた。


「………参りました………………。」



 投了の瞬間、誰もが一度固唾を呑み込んだ。

 戦いを制したもう一方の棋士は、自らの勝利に奢らずの姿勢で、だが、勝者の威厳を見せ付けるかのように、

「ありがとうございました。」

 堂々と礼を返した。

 数秒後、

「お、終わった〜」

「ハラハラした〜」

「総対局時間数13時間26分! 恐らくこの学校史上最長記録だぞ………。」

 いつの間にか学校中に放映されていたこの対局の終結に、校内の誰もが長時間張り詰めていた緊張を解いていった。

 さっきまで蝉がうるさかった筈なのに、いつの間にかカエルとコオロギ達のコーラスが始まっていた。


 〜対局室〜

 惜敗を喫した名跡、南雲 姫乃は言葉も無く呆然としていた。

 自分で練り上げた自信作で追い詰められなかったことか、それとも考え過ぎて脳がクールダウンしてるからか微動だにしない。

 勝利した俺はと言うと……………笑っていた。石像のように固まった南雲を罵るわけでもなく、勝利の余韻に浸るわけでもなく、ただ今までの対局であそこまで熱くなったのはいつぶりかと思うと、その嬉しさからか自然と笑みが溢れ出たのだった。

 周りで新聞部の奴らが色々聞いてくるが、全く耳に入ってこない。ただ「あぁ、そうだな」とか「そうじゃない」とかしか言葉が出てこない。ただ一言、

「これが脳に汗をかくってことか…………。やってみないと解らないこともあるんだな。」

 そう呟き、仰向きに倒れ失神した。



 片付けをする為に、僕は対局室に向かった。

 中に入り最初に目に入ったのは、人形の様な容姿を持つ主将がまんま人形になったような姿と仰向けで万歳したまま気を失ってる神代先輩の姿だった。一言で言うなら、殺○現場である。

「え、え〜!? 先輩方!!これは、どういうことです!?」

 思わず絶叫してしまった。

「対局終わりの挨拶を終えたらこのザマよ。まさか二人揃って失神するとは……………。」

 どうやら、主将の方は目を開けて正座したまま失神(?)していたようだ。

「と、とにかく二人を医務室へ!!」

「そ、そうだ。誰か担架を持ってきてくれ!!」

「こりゃ、また生徒会からこっ酷く叱られるな………ハハw」

 たった一局の将棋でここまで消耗するなんて…………。


 このやり取りを見ていた人影が二つ、

「楽しそうだな。」

「そうですね会長。」

「これは読んでいた展開なのか?」

「えぇまぁ、次期ライバル候補であり、愛弟子でもある彼の手は解りやすいのでw へそ曲がりではありますがね。」

「相変わらずだな。だが、これからが楽しみだ。」


 あれ程まで成長していたとは………。これは楽しみが増えたね。いつか会える日を楽しみにしておくよ。神代 勝通真王。いつか……………


 こちらの世界で会おう。

人生と掛けまして、将来の夢と解く………。

その心は、お先真っ暗!

ってのは冗談で、ちゃんと目標目指して歩き続けております。お初にお目にかかります。夜雲月と申します。

今回初の投稿と致しまして、何を喋ればいいのか分からないデスねw

取り敢えず一言だけ添えておきます。

将来の夢は料理人です。

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