表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森崎1  作者: ブッチャー
25/28

エピソード6 理名

「先輩、好きです! 私と付き合って下さい!」


一か八かの告白。答えは分かってる


でも、告白出来た勇気を自分で褒めてあげたかったり……


「…………」


……うぅ。沈黙が辛いです先輩


「……良いぜ」


あっさり断ってくれた。うん、スッキリです

ありがとうございます、先輩


後は泣かない様に……


「どうした? 理名」


「あ、はい大丈夫です。あ、あの。で、出来ればこれからもお友達として……」


「彼女じゃないのか? まぁ友達からってんならそれでも良いけどよ」


「はい、お友達……か、彼女!?」


「うぉ!? な、なんだよ。俺、変な事言ってるか?」


「か、彼女って理名がですか!?」


「他に居ねぇだろ」


「そ、そんな……そんなのって…………」


……あれ? 先輩がぐるぐる回って……


「回ってます〜」


「り、理名? 理名!? 大丈夫か、理名!!」



初恋は小学校三年生。相手は五年生の先輩


きっかけ? 気付いたら好きになっていた……じゃ駄目?


一目惚れじゃない。でもそれに近いかも


ああ、この人が好き


突然、はっきりとそう感じた瞬間がある


これが恋なんだって感じた瞬間がある


それは、本当に小さい事


きっと先輩は覚えてないぐらい小さい事だけど、私にとっては大切な初恋の思い出



先輩と初めて会ったのは火曜日にあったクラブの時間。

 美鈴に進められて、昔の遊びクラブに入った私に、やっぱり美鈴が先輩を紹介してくれた


最初は怖いなって思ってた


だっていつもムスッとしてるし、あんまり笑わないし……


『森崎さんってちょっと怖い……』


何回目かのクラブの後に、美鈴へそう漏らした事がある


『そう? あ〜でも一也愛想無いからね〜。からかうと面白いよ』


美鈴はそう言って笑ったけど、五年生の人をからかうなんて私には考えられなかったし、面白いとも思えなかった


だけど、クラブの時間自体はとっても楽しくて、缶蹴りにドロケイ、竹馬にかくれんぼ。夢中になってやった


六年生のお兄さんやお姉さん達も優しいし、お友達沢山出来たし、火曜日が待ち遠しかった


でも、私、鈍いから鬼ごっこは苦手……


『なぁ、三年』


『わ、私ですか?』

鬼ごっこの日。開始から30分経った後、先輩が呆れ顔で近付いて来て、私に声を掛けた


『お前、今日ずっと鬼だよね? つか男とか上級生狙わないで、もっと捕まえられそうな相手を追いなよ』


『え? は、はい』


何で知ってるんだろ?

不思議に思ったけど、それよりも怖くてどうしていいか分からなくなる


『たく……俺を捕まえてみなよ』


『はい?』


『簡単には捕まらないけど』

先輩は確かに簡単には捕まえさせてくれなかった


と、言うより他の人を捕まえた方が楽だったような……


『はぁ、はぁ……よ、よく俺を捕まえられたな。免許皆伝だ!』


『ふぅ、ふぅ……あ、ありがとうございました』


変な人だなぁ、変わった人だなぁって、その日はクラブが終わった後も、ずっと先輩の事を考えていた


それから私は、何と無く先輩を意識する様になる


廊下で見掛けたら目で追ってしまうし、クラブ中も気になってしまう


それで気が付いたのだけど、先輩の周りにはいつも人が集まって来る


無愛想で、余り喋らない先輩


余り人受けしそうにない人なのに、周りの人はいつも楽しそう


……やっぱり森崎さんは変だなぁ


今度のクラブ時間に、お話してみようかな……


そうは思っていたけど、結局自分からは話せないまま、季節は春から夏へと変わっていった



『ねぇ理名』


明日から夏休み。終業式が終わって教室へ戻った後、美鈴が悪戯っ子の様な表情で、私に声を掛けてきた


『なに? 美鈴ちゃん』


『理名、一也の事好きでしょ?』


『え?』


一瞬何を言われてるのか分からなく、私は言葉に詰まってしまう


『あ〜やっぱり』


そんな私を見て、美鈴は僅かに顔をしかめた後、アハハと笑って、私の顔を左右にギュっと引っ張った


『……そっか』


『べ、別に好きじゃないよ〜。好きな人なんて居ないよ!』


何を言われたのか、ようやく気付いて慌てて否定したけど、美鈴はニヤニヤ笑って取り合ってくれなかった


『じゃ、夏休みに一也を誘ってプールにでも行こうか』


『違うのに〜』


本当に好きな訳じゃないのに。ちょっと気になるだけなのに……


その時はそう思って、美鈴の勝手な思い込みに少し腹が立った



学校が終わって、いつものように真っ直ぐお家へ帰る


『も〜美鈴ちゃんは勝手なんだから〜』


お昼を食べた後、そんな文句を言いながら自分の部屋へと行き、おばあちゃんから貰った桐箪笥の二段目を開けた


そこには何枚かのタオルと、去年お母さんに買ってもらったワンピースの水着


『…………』


水着を取り出し、鏡の前で体にあててみる


『……ちょっとちっちゃいかな』


着れない事はなさそうだけど……


『……新しいの買おうかな』


フルートが欲しくて貯めていたお金もあるし、水着一着ぐらいなら……


『理名〜。美鈴ちゃんから電話よ〜』


『はーい』


お母さんに呼ばれ、リビングへ行く


『はい』


『ありがとう。……もしもし?』


『あ、理名〜。ちょーっす!』


お母さんから電話を受け取って出ると、妙に明るい美鈴の声


『どうしたの、美鈴ちゃん?』


『プール明日に決まったから!』


『えっ!?』


『明日、九時に一丁目公園に集合!! じゃ、そゆ事で』


ガチャ


『み、美鈴ちゃん? 美鈴ちゃん!?』


ツーツー


『ひ、酷いよぉ』


受話器を充電器に戻し、もう届かない文句を言う


壁時計を見ると、もうすぐ三時


水着を買いに行くなら、二つ隣の駅にある、大きなデパートまで行かなくちゃ欲しいのは買えない


出掛ける準備をして、電車に乗って、買い物……


『五時までには帰って来れない……』


門限は五時。それを今まで一度も破った事が無い私は、水着を諦めるしかなかった


『……美鈴ちゃんのバカ』


そしてプールの日。ゆうべは余り寝れなかったのに、いつもより早起きをしてしまう


自分でも何でそんなにソワソワしているのか分からず、何度も鏡を見ては無意味に髪を直したりした


『…………』


男の子とプール。それも年上の人と……


胸がドキドキして、何だか息も苦しい


『ふう……はぁ……』


プール……行きたくないな


気持ちはどんどん沈んでいって、雨でも降って中止にならないかなと、つまらない事を願った


でも、外は快晴。


『……準備しなくちゃ』


何度も溜息をつきながら着替えて、お母さんが用意してくれた朝ご飯を食べ終えると、時計は八時を超えていた


『……ちょっと早いけど行こ』


ゆっくり歩いていけば、ちょうど良い時間になるかも


『行ってきます、お母さん』


『はい、行ってらっしゃい』



駅前には九時二十分前に着いた


早く来過ぎたかな、なんて思っていたけど、噴水前で大きく手を振る美鈴と眠そうな先輩の姿を見て、私が一番最後だったのを知る


『お、遅れてごめんなさい!』


慌てて小走りで二人に近寄り頭を下げると、美鈴は


『遅れてないって。こっちが早く来過ぎただけ』


と言って笑った


『それでも理名が一番最後だから……ごめんなさい森崎さん』


『遅刻じゃないんだし、気にしなくて良いって。美鈴なんか一時間平気で遅れた事あるから』


『あ〜も〜一回だけじゃん! しつこいな』


『ああ確かに一時間の遅刻は一回だけだったよ。だけど二時間遅れや、すっぽかしは何回あったと思ってる!』


『う……で、でもそれを言うなら一也だって!』


『お、落ち着いて二人とも』


口喧嘩を始めてしまった二人を、何とか仲裁しようしたけど全然駄目だった


『み、美鈴ちゃん』


『大丈夫です』


『え?』


後ろから声を掛けられ振り返ると、大きな白いリボンをしたセミロングの女の子が、私を見上げて微笑んだ


そして喧嘩をする二人へ近付き、その真ん中に立ってキッと二人を睨む


『美鈴、一也お兄さん、喧嘩は駄目です!』


可愛いらしい容姿からは想像出来ないぐらい、しっかりした声と口調


それもビックリしたけど一番ビックリしたのは、


『お、お兄さん?』


先輩に凄く可愛い妹が居た。その事


『う……ごめんね七海』


『ご、ごめんな七海。それと高梨』


『あ、いえ……』


七海先輩に怒られた二人は、急に大人しくなって素直に謝った


『……凄いなぁ』


年下なのに……。なんて思ってしまった私


『あ、自己紹介が遅れてしまってごめんなさい。私、一也お兄さんの妹で森崎 七海と言います』


私よりも一回り小さな体で、ぺこりとお辞儀をする七海先輩


その仕草がとっても可愛くて、思わずギュっと抱きしめたくなってしまう


『は、はい! 高梨 理名です、よろしくです。ええと…………七海ちゃんは、何年生ですか?』


『あはは! 七海は一也と同じ五年生よ』


『え!? ご、ごめんなさい!』


『いえ、良いんです。気にしないで下さいね』


そう言って七海先輩は再び微笑んだけど、背が低い事を気にしているのは何と無く分かった


『七海が小さいのは昔からだから。本当に気にしなくて良いよ』


『……一也お兄さんに言われると腹が立ちます』


そう言って七海先輩は、ちょっと先輩を睨んだけど、何て言うのかな? 凄く優しげな目だった


『いつまでもこんな所に居てないで行こ〜』


『そうだな。行こうよ七海、高梨』


『はい!』

『はい!』


声が重なってしまって、七海先輩と苦笑い


『ハモっちゃいましたね森崎さん』


『七海で良いですよ、高梨さん』


『あ、じゃあ私も理名って呼んで下さい』


『はい、理名さん』


『はい! 七海さん!』


そんな会話が何だか可笑しくて、二人でクスクス笑っていると、美鈴の声が響く


『お〜い。早くいくべがな〜』


もう駅に入っていた美鈴と先輩。私達は慌てて後を追う


今日は楽しくなりそう


眩しい太陽を目を細めて見上げながら、そんな確信めいた予感を私は感じていた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ