十六人目:さっちゃん
「お兄さん、なにそれ?」
部屋へ戻ろうとした途中、いつの間にかトイレへ行っていたらしいニアと鉢合わせてしまった
「な、何でもねーよ」
隠す様に抱えると、ニアは益々興味を持ったらしく、ぴょんぴょん跳ねてのぞき見ようとする
「お、おい! たいした物じゃないから」
「でも見たい!」
「駄目だって!」
廊下でニアと攻防していると、リビングのドアが開いた
「二人とも、お家の中で暴れては駄目ですよ」
「……は〜い」
七海に注意され、へこむニア
「悪かったな七海。……ニア、後で見せてやるから」
別の物を用意すればごまかせるだろう
「ほんと? ありがとう!」
「ああ」
それからそそくさと部屋へ戻り、コンドー野郎を本棚に隠す
「……今日は疲れた」
ベットに座りため息をつく
この後も舞さんや、小夜子とも話さないといけない
つか小夜子の奴、何処に行ったんだ?
んな事を考えているとドアがノックされた
「兄さん、お客さんです」
「ん、分かった」
今日はマジで忙しいな
「よっこいしょういちっと」
恥ずかしながら掛け声をかけ、ドアを開けると七海の姿
「客は?」
「こんばんは、お兄ちゃん」
七海の横に小さい女の子
「さっちゃんか」
「うん」
「それでは兄さん、私はリビングの方へ戻ります」
「ああ……どうぞ、さっちゃん」
「お邪魔します」
さっちゃんを部屋に入れ、テーブルを挟んで座る
「それでどうしたんだ?」
こんな時間にさっちゃんが来るのは珍しい
「うん。ママがずっとお客さんと話しているから、退屈なの」
「……お客さん?」
嫌な予感がする
「それでお兄ちゃんにアンケートしようと思ったの」
「アンケート?」
「アンケート。……してもいい?」
「ああ、いいぜ」
アンケートごっこか。そういや俺も昔よくやったな
「ありがと。……じゃ、第一問。貴方は大きいのと小さいの、どちらが好きですか?」
舌切りスズメか?
「んー小さい方かな、やっぱ」
「第二問。貴方は巨峰とマスカット、どちらが好きですか?」
「マスカット……かな」
ぶどう自体余り好きじゃねーけど
「第三問。貴方は既に完成された物と、自分で完成させていく物。どちらを好みますか?」
? プラモかなんかか?
「どうせなら自分で完成させたいな」
「第四問。後五年待てますか?」
「はい?」
「…………よかった」
ん? 今、答えた事になったのか?
「……最後の質問です。貴方はロリでコンですか?」
「…………はい?」
ろりでこんって何だ? ネクロノミコンみたいな物なのか?
「質問は終わりです。
……お兄ちゃん」
さっちゃんは俺に近付き、四つん這いになる
「満点だよ? ふふ」
そして妖しく笑った
「さっちゃん?」
「満点凄いね。ご褒美……欲しい?」
上目使いでジリジリと俺に迫るさっちゃん
な、なんか悪寒が……
「い、いや、いいよ。気にしないでくれ」
つかアンケートに満点ってあるのか?
戸惑ってる俺に、さっちゃんが指を延ばしかけた時、コンコンとドアがノックされた
「兄さん、お茶をお持ちしました」
そんな七海の声に、さっちゃんは元居た場所へ戻る
「あ、ああ。サンキュー」
よく分かんねーけど、助かった
「失礼します」
ドアを開けた七海の傍に、ニアが隠れる様にして部屋の様子を伺っていた
「もうすぐ夕食ですので、お菓子は余り食べ過ぎないで下さいね」
七海は緑茶と菓子をのせたオボンをテーブルへ置く
「ああ。……どうした、ニア?」
部屋に入らず、ソワソワしているニア
「うん……お兄さん、その子誰?」
「ん? 隣の麻宮さんちの子で桜子ちゃんだ。
で、さっちゃん。こいつニアってんだ。ちょっとした事情で暫く家に居るからよかったら仲良くしてやってくれ」
「麻宮 桜子です。宜しくお願いします」
「ニアだよ! 宜しくね、さっちゃん」
ニアの方が年上だが、さっちゃんの方が大人びて見える。背格好もあんま変わらないしな
「ニアちゃんはお兄ちゃんの親族の方なの?」
部屋に入り、俺の膝上に座ったニアへさっちゃんが尋ねる。つか重いっての
「ううん。お兄さんとは一昨日知り合ったばかり。でも仲良し!」
そう言ってニアは俺の手を握る
それを見ていたさっちゃんは、さっちゃんにしては珍しくムッとした表情を見せた
「……お兄ちゃんと呼べるのは長い年月が必要。一昼夜じゃ駄目」
「でもニアとお兄さんは、一緒に寝たぐらい仲良しだよ?」
「…………………」
「…………………」
俺と七海の時が止まる
「……二日待って。越えるから」
「ちょっと待て、適当な事言うなよニア! つか何を越える気なんだよ、さっちゃんは!! っ、ケホ、ゴホ」
怒鳴り過ぎて喉いてぇ
「……兄さん、後でお話しありますよ?」
ニコニコしている七海。目が全く笑っていない
「いや、だから、確かに寝たけども不可抗力で!」
何だこの冤罪は!? それでも俺はやってないぞ!
俺が七海に言い訳をしている間、ニアとさっちゃんの言い争いは激しくなっていた
「ニアちゃんは、他の人をお兄さんって呼ばいいと思う。私にとってお兄ちゃんはお兄ちゃんしかいない」
「ニアだってお兄さんしかいない! お兄さん以外をお兄さんって呼ばない!」
「私もお兄ちゃん以外の男をお兄ちゃんなんて呼ばない。豚野郎とは呼ぶけど」
「じゃお兄さんに決めてもらおう! お兄さん、この中でお兄さんって呼んで良いのは誰!?」
俺の前に、さっちゃんとニアが詰め寄る
「誰って……」
「……誰? お兄さん」
ニアが泣きそうな目で俺を呼ぶ
「お兄ちゃん」
さっちゃんはやっぱり微妙に妖しい
「……兄さん」
七海は何か言いたそうな目だ
「お兄様」
突然メイドが廊下から現れた
「あんちゃん!」
幽霊も天井から現れた
「……ちょっと待て、頭が混乱して来た。えっと、取りあえず七海は別に良いだろ、本当に妹なんだし。それと舞さん、みんなに合わせなくていいですから……」
「失礼しました。それではリビングの方で待機しております」
「ええ、お願いします」
リビングへ戻る舞さん
……で、小夜子! てめぇ何処に行ってやがった!!
空中に浮かぶ小夜子を睨みつける
「怖いなぁ……退散でござる!」
小夜子は天井を通り抜けていった
「たく……。ニア、それとさっちゃん。呼び方なんかどうでも良いだろ? 要は俺が二人をどう思ってるかだ」
「でも……」
さっちゃんは、これまた珍しく弱気な表情を見せる
「さっちゃんとは長い付き合いだからな。俺や七海にとって大切な子だ。
だからさっちゃんに何かあったら俺達は全力で助けるし、さっちゃんを守る」
「…………お兄ちゃん」
「それとニア、んなしょぼくれるな。付き合いは短いが、そりゃしょうがないだろ? これから積み重ねていけば良いし、俺はお前の事嫌いじゃない。
お前にも何かあったら、守ってやっから」
二人の頭を撫で、約束する
「……兄さんは面倒臭さがりやさんですから、大切な方じゃないとそんな事言いませんよ」
七海もニアの頭を撫でながら微笑んだ。……余計な事言いやがって
「……ま、そう言う事だ。呼び方ぐらい好きにしろよ」
「……うん。ごめんなさいニアちゃん」
「ニアこそ……ごめんなさい」
お互いに頭を下げあう二人どうやら大丈夫そうだな
「……しかし呼び方一つで喧嘩なんて二人ともまだまだ子供だな。ほほえましいぜ」
二人から離れ、七海に話し掛ける
「……兄さんが1番子供だと思いますよ」
七海は呆れた様に呟き、リビングへと戻っていった
「…………俺の何処が子供だよ」
超立派な大人じゃねーか
「お兄さん!」
「お兄ちゃん」
憮然としていると、ニアとさっちゃんが俺を挟んで腕に飛び付いた
「な、何だよ?」
「……大好き」
「ニアはちょっと好き!」
「……そりゃありがとよ」
それから夜飯が始まる迄、三人で茶を呑んで過ごした訳だが……
「二人ともあんま引っ付くなよ!」
暑苦しいな!