【ヴィオル視点】初報酬で買うものは
良かった、楽しそうだな。
俺はセレン嬢の後ろをゆったりとついて歩きながら、彼女があちらこちらの店に興味を持つのを見てちょっと微笑ましい気持ちになった。最初は戸惑いがちだったが、今やさほど緊張する様子もなく露天の店に目を向けたり、店の中に入ったりもしている。問題なさそうだ。
「買わないのか?」
「そんなにたくさんお金があるわけではないのですもの。大切に使わなければ」
店には入るのになかなか散財しないセレン嬢に何気なく問えば、真剣な表情でそんなことを言う。公爵家の令嬢だというのに、なんと慎重な。買えないものなどないだろうに。
しかしあまりにも慎重に品物を吟味している風のセレン嬢を見ているうちに、その考えも少しずつ変わってきた。彼女自身が買い物をする機会は少なかったのかも知れないし、そういえば先日話した時にも「自分が自由になるお金はない」と言っていた。
彼女にとって今手にした金は本当に貴重なものなのだろう。
そう思うとさらに微笑ましくなってくる。俺にもあんな頃、あったなぁ。せっかくならもっとあれば良かったんだろうが、低級魔獣の討伐報奨金じゃそう色々は買えないだろう。
気が済むまで悩めばいい。
そう思って俺もセレン嬢の横に立つ。買うのを待たれているというのも気まずいものだろう。
周りには冒険者風の男たちも立っているし、店主も若干ガラが悪い。冒険者用のアクセサリーを扱う露店なんだろう。見れば、意外にも品はいい。
「ほう、ちゃんと加護もついているのが多いな」
「おっ旦那、目が肥えてるねぇ。こっからこっちは加護付きだよ」
「分かるので……いえ、分かるものなのね」
なれない言葉遣いを実践しようとしている。ちょっと面白い。それでもまだ丁寧なことには気づいていないようだが、これくらいなら問題ないだろう。
「ああ、力を感じる」
そういえばローブの留め具が甘くなっていたな。中級程度までの魔獣相手ならそんなに激しい動きもしないだろうが、戦闘中に外れるとことだ、せっかくだから見ておくか。
露店の割には意外と品数が多い、というかデザインも豊富だ。
「色石は結構種類があるから、決まったら言ってくれよ」
「だそうだ」
「ええ、あの、師匠は色は何色が好きですか? 黒が好きなのは知っているけれど、他にも好きな色がありますか?」
「俺か? 黒はまぁ好きだが……ああ、服が黒ばっかりだからか。どちらかと言えば色を合わせるのが面倒だから黒に統一している感じだな」
「そうなのですか!? あ、ええと、じゃあ好きな色は?」
「銀も好きだ。落ち着いた華やかさがある」
「そうですね。先日も刺繍は銀で……銀だった……もの、ね」
言いにくそうで笑う。そのうち慣れるだろうから、この感じも今だけなんだろうと思うと貴重な時間だ。
先日、というのに今ひとつ思いあたらなかったが、記憶を遡ると夜会での服にはシルバーの刺繍が施されていたんだった。よくあんなの覚えていたな。
「それは?」
「ローブの留め具だ。留めの部分が甘くなっていたからな、戦闘中に外れるとまずいから、ついでに見ておこうと思ってな」
「銀なら沢山あるわ。これなんて素敵。でも石はついていないのね」
「俺ほどになると別に石の有無はさほど問題はない。しかしこれはまた細工がえらく細かいな」
いつもだったら黒一択であとは留め具の使い易さくらいしか気にしたことがなかったから、細工を真面目に見たことなんかなかったが……これは本当に細工が美しい。
「おお! こっちの嬢ちゃんもなかなかの目利きじゃねえか! 嬉しいねぇ、これは腕利きの細工師が新しい技法に挑戦した習作でよ、細工の出来の割に安値なんだよ。ミンカランって知ってるか?」
「まぁ、優秀な細工師が多い事で有名な北の方の村だわ」
「ふーん、そうなのか」
なるほど、習作か。確かにこれまで見たことがないような精緻で美しい細工だ。さぞ腕のある人物なのだろう。これも縁だ、これだけの品、手に入れなければ失礼だろう。
というか単純に気に入った。留め具の使い易さも確認してみたが、これなら問題ないだろう。
そのうちこの細工師がこの新しい技法を極めた頃にまた買いたいものだ。
「細工師の名前が分かるか?」
「お、気に入ってくれたみたいだな! ロートっちゅう名でよ、まだ若い兄ちゃんなんだが腕はこの通りたいしたもんだろう? アイツは名の知れた細工師になるぜぇ」
「覚えておこう」
美しい銀の留め具を手に取ろうとした瞬間、セレン嬢が俺の手を上から押さえた。
「わた…しが買います」
「いや、これは俺の買い物だから気にするな」
「いいえ、最初から私、師匠へのお礼の品を探していたのです。店主さん、これを」
「まいど。いやー、旦那、羨ましいねぇ」
「おいおい、待てって。そんなの買ったらせっかくの金がほとんどなくなってしまうだろう」
「ギリギリですが、買えるものでよかった」
「……!」
あまりにも嬉しそうな顔でセレン嬢が笑うから、俺はなにも言えなくなってしまった。
店を後にし、街を出る前に留め具を付け替えた俺を見て、セレン嬢はまた満面の笑みを浮かべる。
「すごくお似合いです!」
「そうか、ありがとう」
いつも黒の目立たない留め具ばかり使っているから、ちょっと目立ちすぎる気もするが、とにかく細工が素晴らしいし、セレン嬢が嬉しそうだからまぁいいか。
せっかくの金を俺のために使いきったというのに妙に満足そうな顔のセレン嬢を見下ろして、俺は少し苦笑した。
書籍化作業もあいまって毎日更新が厳しくなって参りました。楽しみにしてくれている方には申し訳ないのですが。しばらく2日に一度の更新にさせていただこうと思います。
これからもよろしくお願いします!




