サロンにて
ヘリオス殿下のあとについてサロンに入り、一息つきたくてお茶を淹れていたら、ヘリオス殿下からお呼びがかかる。
「セレン、君もこっちにきて話に入ってくれないか?」
振り返って見てみたら、このサロンのメンバー全員が円卓についている。ついでに皆の分のお茶も淹れてしまおう。
「お茶をご用意しますわ。先に始めてくださいませ」
そう答えて、わたくしは急いでお茶を淹れる。わたくしまで含めて九人分。まとめて運ぶには少々腕力が要る。……と思ったら、さりげなく横に立ったリース様が「重いから僕が運ぶよ」と手伝ってくれた。
いつも思うけれど、リース様はこういうところがとても紳士だ。
円卓に近づいたら、ヘリオス殿下が早速さっきの話をしているところで、わたくしは話の進みが早いことに少し驚く。
お茶を配りながら、わたくしはさりげなく皆様の表情を窺った。
円卓にはマリエッタをサロンのメンバーへと推したマシュロ様たち四人とリース様の他にも二人、名家の方が着席している。このサロンでは最年長でどちらも伯爵家のご出身のアンドル様とキッツェ様だ。
マシュロ様達は推してくれたくらいなのだから問題はないと思うけれど、このお二人の反応が心配で、わたくしの目はついお二人の表情を追ってしまう。
「へえ、サロン参加資格の拡大か、その考え自体には賛成だ」
「この頃は平民や女性も結構王宮内で活躍してるみたいだもんねぇ。ま、将来がほどよく約束されてるやる気のないぼんくらボンボンよりは、女だてらに仕官を目指すようなやる気に満ちあふれた女性の方がそりゃあ結果を出すだろうしねぇ」
「そういう人物となら喜んで共に励もう」
アンドル様とキッツェ様の反応に、ヘリオス殿下も嬉しそうに微笑む。マシュロ様たちも顔を見合わせて嬉しそうだ。
「僕も同意見なんだけど……ただ、マリエッタだというのが気にはなるかな」
そこに一石を投じたのはリース様だった。
「そうだな」
「だよねぇ」
アンドル様とキッツェ様が即座に同意する。アンドル様の視線が、お茶を配り終え着席したわたくしへと注がれる。
「セレン、君は将来王妃になるのだからこのサロンに参画するのは当然だ。しかしマリエッタまでとなると君たちキュミルディ公爵家ばかり優遇されているように誤解を与えかねないのではないか?」
「まずはそれだよね。でもそれならタイド公爵家やハピスエリ伯爵家にも声をかけたらどうかなぁ。どちらの令嬢もなかなかの才女って聞くけど。セレン、リース、君たちと同学年だよね?」
やはり最年長のお二人がお話に加わってくださると、安定感がぐっと増す。危惧される部分を拾える幅が増えるのがありがたい。お二人のお話には完全に同意するので、わたくしも素直に反応できた。
「わたくしもそれを危惧しておりました。たしかにタイド家のリンデ様とハピスエリ家のラーディア様なら適任ですし、ご本人も興味を持たれると思いますわ。お二人とは仲良くさせていただいておりますが、切れ者ですし、さっぱりした方達です」
二人とも、できることなら文官になりたいと言っていた。ご家族のお考えもあるだろうけれど、本人たちはお声がかかればきっと喜ぶだろう。二人が文官になってくれたら、私が皇太子妃として政務に携わるときに心強いと思っていた方達ですもの。
「近頃は結婚よりも自身の力で職に就くことに魅力を感じる女性が多いとは聞いていたが、実際にそうなんだな」
「その子達が王宮でそのまま勤めるようになれば、サロンの役割がまた変わるかもしれないよねぇ」
「そうなってくれれば、サロンの意義も高まる。分かった、二人にも声をかけよう」
アンドル様とキッツェ様の話をうけて、ヘリオス殿下が即決した。こうやって少しずつ、制度というものは変わっていくのね。
「セレンがいる前で言うのもなんだが、問題はマリエッタだな」
「んー、彼女がいるとこいつらが働かなくなるって言いたいんでしょ? いいんじゃないの? 王宮に入ってから実害出るより、今の時点でこいつらにバツがつけば、ライバル減るし人事の担当者も選別が楽だろーし」
「こら、はっきり言い過ぎだ」
「申し訳ありません……」
「セレンが謝る事じゃないでしょー。非は全面的にこいつらにあるんだし。この前オレらが七限まであって遅かった時もこいつらがサボった分手伝ってたの知ってるんだからね」
お二人の危惧もよく分かる。ただ、マリエッタがサロンに入るのならば、わたくしもそこはしっかりとマリエッタに注意しておくつもりだ。ヘリオス殿下の妃になるのであれば、今までのようなことは許されないのだから。
「あれは招いた以上もてなしていただけで、サロンの一員になったら特別扱いはしません」
マシュロ様がそう言い返せば、他のお三方も次々と追従する。
「そうですよ、いいとこ見せないと」
「頑張るって約束したんで」
「俺たちのせいでマリエッタが悪く言われないようにちゃんとしますから!」
そして、四人してヘリオス殿下に「殿下、お願いします!」と声を揃える。
「どうだか」
「いいんじゃないの? やってみたら」
「僕は反対だ」
アンドル様とキッツェ様、それにリース様のお三方が端的に意見を述べる。ヘリオス様の視線に促され、わたくしも端的に述べた。
「マリエッタの指導はわたくしが行いますわ。わたくしからもお願いいたします」
そうして最終決断はヘリオス殿下に託された。




