【ヴィオル視点】穏やかな昼食
何とか、乗り切った……!
門が目前に迫って、俺は密かに息をついた。
いや緊張した。まさか服の選択を迫られる羽目になろうとは。色の合わせを考えるのが面倒で黒しか着ないようなセンスの欠片もない俺に選択を任せようだなんて、セレン嬢はなんとチャレンジャーなんだ。
しかし俺なりに全力で選んだ。今日イチで疲れた気がする。
俺の目の前を門に向かって小走りで駆けていくセレン嬢がめちゃめちゃ可愛いから、結果的にはあの服で良かったと思う。これまで見た服はドレスも部屋着もシンプルで色も白やシルバーなどの淡めの色が多かった。それからしたら、若草色は結構はっきりした色で、セレン嬢の顔をより明るく見せていると思う。
単純に似合う。
そして、俺は地味に困っていた。実は腰のベルトにつけたウエストポーチの中に、さっきセレン嬢が試着している間に買っておいた髪留めとイヤリングがあるのだが、渡しそびれたままどうすべきかと迷っている。
髪留めは大きなリボンの中央に大きめの緑の石がついていて、風魔術の出力を高める効果があると記載があった。イヤリングは少し淡い緑の石がついていて、こちらは魔力の出力を安定させるとあったものだから、どちらも今のセレン嬢には必要だろうと思って待っている間に買ってしまったわけだが。
じゃらじゃらつけるのは好みではないと言うのを聞いて、つい最適解を提示しようと別のアクセサリーを薦めてしまった。いや、あれが一番満遍なく守れるから結果正しいわけだが、前もって買ってしまったこれを今更出すに出せなくなってしまっている。
しかし俺が持っていても仕方が無いものだしなぁ。うーむ、どうすべきか。
「お師匠様?」
おっと、考え込んでいたせいで少し足が鈍っていたようだ。
少し大股で歩くとすぐにセレン嬢に追いつく。門の前に立ったセレン嬢は、期待と不安、緊張と喜びが混ざったような複雑な表情をしていた。
俺にとっては行き慣れた草原も、セレン嬢にとっては未知の場所なのだと改めて思う。
草原は初級の魔獣と概ね二~三回遭遇する程度の超初級の討伐スポットで、少し腕に覚えがあるなら町民でもピクニックやら薬草取りやらで訪れるような場所だ。大きな危険がないため、新人冒険者の最初のお使いクエストで利用されることが多い。
とはいえ、もちろん魔獣が相手。油断は禁物だ。
俺は自身に言い聞かせながら、セレン嬢に強固な防護壁を張る。
「行こうか」
「はい!」
セレン嬢にはここで俺が戦う姿を見て、『魔獣と戦う』覚悟を持って貰うのが狙いだった。危険なく、しかし危機感は持てるようにしなければ。
***
「風が気持ちいいですねぇ」
「そうだな」
あれほど固い決意を持って草原へ足を踏み出したわけだが、どうしたことか全然魔獣が出てこない。草原の緩やかな斜面を登っていくうちに、ついに小高い丘の上まで到達してしまった。
日当たりのいいこの場所は一面花畑になっていて、数本の大木が点在するためほどよい木陰もある。見た目的にも文句なくのどかだ。通常ならばここに来るまでに一回や二回は戦闘に発展するんだが、なんの山場もなかったな。
「はい、どうぞ」
そして今俺たちは木陰でバスケットの中身を広げ、昼食モードに入ってしまっている。これでは本当に単なるピクニックだ。
しかしサンドイッチを手渡してくれるセレン嬢に罪はない。俺はありがたくサンドイッチを受け取った。
美味い……! 料理長、サンドイッチも最高……!
「ええと、具材も色々用意してくれているみたいですわ。お肉が入っているものも、お野菜が主体のものも、あと卵……、あっこれクリームとフルーツが入っていますわ。まるでスイーツですわね」
「なんだと!?」
「食べます?」
「い、いや……最後にとっておく」
「では、残しておきますわね」
楽しそうにセレン嬢が笑う。日差しがさんさんとさす花畑を背景に、セレン嬢とこうして昼食を共にすることになるとは……人生はなにが起こるか分からないものだな。
「あら、困ったわ」
「どうした」
「紅茶を入れたポットを用意してくれていたのですけれど……カップがありませんわ。いつもは書庫にもカップを用意してくれているからかしら」
「あーなるほど」
俺は土魔法でささっとコーヒーカップの形を造り、結界の中で業火で焼き上げ即席でコーヒーカップを作り上げた。ティーカップは薄くて繊細だからそこまでする気は無い。この状況なら飲めれば充分だ。
「使ってくれ」
ひとつをセレン嬢に渡したら、目をまん丸にして驚いていた。
「ま、魔術って……こんなこともできるんですのね……」
「まぁ、使い方次第だ」
そんな事をしている間にバスケットの中身が全部出されていた。
「豪華だ……!」
「いつもはこんなに沢山ではないのですけれど……多めに用意して欲しいと言ったからでしょうか、確かに豪華ですわね」
セレン嬢も驚いているようだが、あんなに小さなバスケットに入っていたとは思えないくらいに品数が多い。どれも少量だが、肉料理からサラダ、チーズの盛り合わせ、スクランブルエッグやリゾットなどまで小さな器に可愛らしく盛られている。
しかもデザートも小さなものを何種類も。まるで夜会かと思うレベルだ。
「なんだか楽しいですわね!」
セレン嬢の幸せそうな笑顔も手伝って、その日の昼食は信じられないくらいに美味かった。




