【9巻発売記念SS】黒猫は今日も大奮闘
「よし、分かった。セレン、レアリーをベッドから下ろしてやってくれるか?」
「はい! 良かったわね、レアリー。ヴィーが遊んでくれるそうよ」
ニコニコの笑顔でセレンがレアリーを抱き上げている間に、素早く床に薄くてふわんと柔らかな風壁を展開しておく。
このところレアリーは行動範囲が驚くほど広くなっているからだ。
つかまり立ちを覚え、伝い歩きも徐々にできるようになってきたが、ハイハイの速度に至ってはこっちが驚いてしまうほどで、ちょっと目を離した隙にびっくりするくらい移動しているから困る。
レアリーがケガをしたりすることがないように、ちょっとでも危険を減らしてやりたかった。
セレンがそっとレアリーを床におろしてやると、レアリーは猛烈な勢いで俺の方へとハイハイしてくる。
あまりの勢いに驚いて、ついぴょん、と避けてしまった。
「あうぅ」
小さな唇をちょっぴり尖らせて不満そうな顔をするレアリーが可愛い。
目の前でしっぽをふりふりと振ってやったら、掴もうとして身を乗り出してくる。掴まらないようにぴょんと跳ねては逃げて、時々飛びかかるフリをしたり、レアリーの頭上をぴょんと飛び越してみたり。
俺が変わった動きをする度にレアリーはきゃっきゃと笑い、セレンは幸せそうに微笑み、リゼは自分も、と一緒になって飛び跳ねて遊んでくれる。
ひとしきり遊んでやったら、レアリーがうとうとし始めた。
傍によってスリ……と頬ずりしたら、レアリーの身体はぽかぽかと温かくなっていて、ああ、おねむだな、とセレンに目配せする。
セレンが腕を伸ばすと素直に抱っこされたレアリーは、セレンの膝の上でうとうとと居眠りし始めた。
そして、それを察したリゼがセレンとレアリーに寄りかかるように丸くなって、一緒に目を閉じる。
こんな時には眠るまでそっとしておくほうがいい。
セレンがゆりかごみたいにゆっくりと身体を揺らし、レアリーを眠りに誘っていて、その光景がなんとも優しくて癒される。
今日はあまりぐずることもなく眠ってくれたレアリーをベビーベッドにそっと寝かせたのを見て、俺も音もなく変化をといた。
レアリーの寝顔を見ているセレンの傍にそっと寄って、その肩を抱き一緒にレアリーの寝顔を見つめていると、幸せだ、と改めて思う。
セレンに出会うまでは、自分がまさか誰かを恋しく、愛しく思い、生涯を共にしたいと思うようになるだなんて想像したこともなかった。魔術が恋人で、一生研究して暮らすのだと思っていた。
なのに、こんな幸せがあるなんて。
今でも時々、都合のいい夢をみているんじゃないかと思うことがある。
皆にもよく言われるが、セレンと出会ってから、俺は変わった。
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