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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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【セレン視点】魔術が使えないだなんて

 その割には部屋に侍女が控えているわけでもない。


 ここは、どこ?


 わたくしはなぜここにいるのかしら。


 改めて不思議に思って自身の服を見下ろして見れば、黒のマントとローブを着込んだままだ。ということは、やはり帰宅の途中で倒れてしまったのかも知れない。


 いずれにしてもこのままここにこうしていても仕方がない。


 わたくしはベッドから起き上がり、ベッドから足を降ろそうとして驚愕した。


 わたくしったら、靴を履いたまま……!!


 こんなに綺麗にベッドメイクされているのに、ローブをきたままどころか靴まで履いたまま寝ているだなんて、いよいよ倒れた説が濃厚になってきた。


 わたくしを助けてくれた方は本人が気を失っている状態でローブや靴を脱がすことを躊躇ったのかも知れない。リネンを汚してしまって本当に申し訳ない。


 体調はいいと思っていたけれど、こんな風に前触れなく倒れてしまっては、周囲の方にも迷惑をかけてしまうしもしかしたらお腹の子を危険な目に合わせてしまうかも知れない。


 今後はひとりで外出しないようにしよう。


 そう強く反省しつつベッドから離れ、ドアの方へと歩き出す。幸い足元がふらつくこともない。


 助けてくれた方へお礼とお詫びをして、邸へ帰らなければ。そろそろ皆、心配しているかも知れない。


そう思って扉のノブに手をかけ、わたくしは首を捻った。


「……開かない?」


 ガチャ、ガチャ、と音は鳴るけれどどうもこの音の感じは鍵がかかっている気がする。


 わたくしが勝手に出歩いて、また倒れたら……と心配されているのか。


「あの、すみません。どなたかおいでですか?」


声をかけてもなんの反応もない。


「すみません。あの……」


 間を置いて声をかけてみるもやはり反応がなくて、わたくしは徐々に不安になってきた。


 これだけの立派な邸でこれだけ呼んでも侍女が来ないというのもなんだかおかしい。


 わたくしは先日ヴィオル様から習った『拡声』の魔術を展開しようと試みて……声を失った。


「発動、できない……」


 こんなことは初めてだった。


 魔力は練れるのに、術として構築できない。


「そんな……」


 そんな筈はない、と使い慣れた『飛行』を展開しようとしても体はこれっぽっちも浮かない。風魔術の初歩の初歩、ウインドカッターですら発動しない。


 さすがにわたくしも内心焦り始めた。魔術が使えないだなんて。


 不安と焦燥感が湧き起こってきて、わたくしは震えた。しばらくそのまま自分の身を抱きしめて……そして、ふと我に返る。魔術を使えないというだけで、まさかこんなにも不安になるだなんて。


いつの間にかわたくし、すっかりと魔術に頼り切ってしまっていたのね。


 そう言えばここ数年は、何か困った事があればすぐ魔術で解決しようとしていた。そんな自分に気がついて、少し反省する。


 魔術が使えるようになるまでは、色々な工夫と努力でなんとかできていたのだから、そう焦る必要などない。


 落ち着いて。


 大丈夫。


 自分に言い聞かせながら深呼吸する。


 そうしているうちにやっと頭が働くようになってきた。


 そもそもわたくしはなぜ、ここにいるのか。


 そう言えばわたくし、今日は邸に帰る途中に買い物をしようと思って市場に立ち寄ったんだったわ。長くは歩けないから、少しずつ少しずつ、生まれてくる子のための物を揃えている。


 もちろんヴィオル様と一緒に買い物に行ったり、リンス達やお母様やマリエッタと一緒に買い物に行ったりもするのだけれど、特級魔術師になってからたまにこうしてひとりで見て歩くのも楽しいものだと知ってしまったわたくしは、時々一人歩きをするのが趣味になっていた。


 市場の賑わいを楽しみながらゆっくりと歩き、誰かに呼び止められた気がして振り返って……。

 そこから、覚えていない。


 思い出してもやっぱり体調が悪くなった覚えはない。そんなに急激に、倒れるほど体調が悪化するものだろうか。


「……」


 違和感を感じて胸の中に不安が渦巻く。


 さっきまでは帰宅の途中で気を失って誰かに保護されたのではないかと考えていた。けれど。


 邸の人も見当たらず、扉も開かない。


加えてわたくし自身、魔術が使えないようになっている。


気を失った経緯も違和感しかない。


いくら豪華な邸でふかふかなお布団に寝かされていたとしても、けして安心できる状況じゃないと思い始めていた。


 ……こうしてはいられない。


 今のわたくしにできることが、何かないかしら。


 ヴィオル様はまだお仕事中だと思うけれど、常なら帰宅している筈のわたくしが戻らない事で、リンス達は心配しているかも知れない。なんとか連絡がとれればいいのだけれど。


「……あっ」


 そこで思い出した。


 耳たぶをそっと触って、ちょっとだけホッとする。ヴィオル様にいただいた誕生日プレゼントのピアス。通信機になっていると言っていた。


 まだわたくしがお仕事に通えているからまだ日常的に使ってはいなかったけれど、まさかこんな場面で役に立つとは。


 ヴィオル様に感謝しつつ、ピアスへと魔力を送り込む。ヴィオル様が今会議中でないことを祈りながら、わたくしは小さな声で空間に話しかけた。

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