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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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こんなに楽しいのは初めて

ヴィオル様に手を取られてダンスフロアに進めば、気を利かせてくれたのか周囲の方々が空間を作ってくれる。わたくしとヴィオル様は、ごく自然にその空間へと滑り込んだ。


わたくしはいつもヘリオス殿下としか踊らないものだからあまり体感したことはないのだけれど、ダンスはたくさんの方が踊る中で場所の確保も意外と難しいと聞く。すんなりとフロアに入れたのは有難い。


ヴィーの口ぶりから察するに、ヴィオル様はダンスが苦手のようですもの、初っ端からフロアに入れずに戸惑う、なんてことにならずに済んでよかったわ。


そう思いながら見上げたら、ヴィオル様もどこかほっとしたような顔でわたくしを見ていた。



「良かった、手を取ってくれて」


「わたくしの方こそ、誘っていただけるなんて光栄ですわ。実は、こんな風にダンスに誘っていただけるの、これが初めてなんですの」


「そうか、だが、その」



なぜかヴィオル様の眉毛が若干下がって、とっても気まずそうな顔になる。どうしたのかしら? と思ったら。



「実はその、誘っておいてなんだが、ダンスはうまくなくてだな……」



わたくしは思わず笑ってしまった。あんなにたくさんの方々の目も気にせず、飄々とした様子で誘ってくださったのに、今頃になってそんな困った顔をなさるなんて。


なんだか可愛らしい。



「お気になさらないで。わたくし、こう見えてもここ二年ほど、妃教育の一環でダンス講師の補助を務めたことも多いんですの。踊り慣れない男性とのダンスは慣れておりますわ」



確かにヴィオル様の動きはまだぎこちなくて、緊張で硬くなっているのも感じられる。ヘリオス殿下に比べるとリードも自信なさげだ。


けれど。



「楽しい時間になるように精一杯努力するが……足を踏んだら済まない」


「お任せください。避けるのも得意です」



こんなに真摯な目で見つめられて、嬉しくないわけがない。少々技術が及ばなくても、そんなのは小さなことだわ。



「頼もしいな、セレン嬢は」


「慣れの問題ですわ。何千回と踏んできたステップですもの。ヴィオル様が魔術のことではこの国で最も頼りになるのと同じことでしょう?」



そんな事を言っているそばからヴィオル様がステップのタイミングを誤ってわたくしの足を踏みかける。わたくしはさっと足を抜いて、危機を素早く回避した。



「今のは、危なかった……! よく避けたな」


「コツがあるのです」



そう言って笑えば、ヴィオル様は感心したように頷いてくれる。



「緊張なさらないで。せっかくですから楽しみましょう? ダンスなんて究極、楽しく踊れればそれでいいのですもの」


「そうか、ちょっと気が楽になった」


「それにヴィオル様とこうして踊ることができるだなんて……わたくし、たとえ足を踏まれたとしても、今日は最高に楽しい思い出になる自信がありますもの」


「そ……そう、か」



急にヴィオル様の声が小さくなったと思ったら、なんだか照れておいでのようだった。視線を逸らしているヴィオル様の耳の端がちょっと赤い。じっと見つめるのも申し訳ない気がしてヴィオル様の肩越しに周囲に目をやれば、わたくし達が驚くほど注目を集めていることに気がついてしまった。


近くで踊っている方々はもちろん、テーブルについている方々は食事の手を休めてわたくしとヴィオル様を注視している。ヘリオス殿下と踊る時でもこんなに注視されたことはないのに。


わたくしも少々気恥ずかしくなってしまって、そっと視線をヴィオル様の喉のあたりに固定した。



「……」



少しの間黙ってステップを踏んでいたヴィオル様の手に、少しだけ力がこもったのを感じて、ふと目をあげる。ヴィオル様がわたくしを見つめて、口元を綻ばせた。


周囲でまた、息をのむ気配がする。



「ようやく、少しだけ落ち着いてきた」



優しい目元でそう言って、ヴィオル様はわたくしの腰に回した腕に力を込める。


さっきよりも近くなった距離に、わたくしは急に心臓が強く打ち始めた。


あっ……ヴィオル様の瞳、真っ黒でとても綺麗。こうして近くで見ると、虹彩と瞳孔の別もつかないほどに漆黒で、本当に吸い込まれそうなほどに黒い。その瞳に、自分が映っているのが見えて……。


なぜかしら。


さっきまでは余裕だったのに。


ヴィオル様と視線を合わせるのがなんだか恥ずかしい。


気を抜くと赤くなってしまいそうな頬に、恥ずかしくて下がってしまいそうな目線に、ともすれば周囲に聞こえてしまうんじゃないかと心配になる心臓の音に、わたくしは内心翻弄されていた。



「大丈夫か?」


「……え?」


「いや、先ほどよりもちょっと、なんかこう、元気がない気がした。もしかして俺の下手なダンスに付き合って疲れたか?」


「まさか!」



思いもかけない言葉に、全力で否定した。こんなに心躍るダンスは初めてだというのに、変な誤解だけは与えたくない。



「とても……とても楽しいです」



なんとか、それだけを口にした。



「良かった、俺もだ」


「……!」



本日初めて、ヴィオル様が破顔した。


周囲ではまたも、キャーッと歓声があがっている。正直、わたくしも叫びたかった。

昨日はたくさんのl感想・評価ありがとうございました! 行け行けヴィオル派のパワーに圧倒されました(^^)


今日のダンスシーンどうかなぁ。ヴィオル様の精一杯なんですが。


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[良い点] 謙虚なイケメン(^_-)-☆ [一言] もう踊らないぞ、ゴミ、、、名前忘れた、、、ヤバい!
[良い点] まだまだ序盤までの拝読ですが、行け行けヴィオル派です!ダンスシーン最高です(泣) 殿下は悪い人ではないので気の毒にも思いますが、ゆらぎません! そして赤毛の小僧滅びろ派でもあります(笑)…
[良い点] さ、さいこうでした…誘っておきながら自己申告してくるの偉い…そしてそれがたどたどしいのかわいい…そこからのセレンちゃんの笑顔とかもだけど、この親密そうな空気は絶対会場の人に伝わってますよね…
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