【リース視点】これは面白くなってきた
「マシュロ……君は驚嘆に値する馬鹿だな」
「うるせえよ!俺だってそう思ってるよ! つーかわざわざ難しい言い方でバカにすんのやめろ」
僕のベッドで勝手に大泣きしている真っ赤な髪の友人を、思わず冷めきった目でみてしまった。幼い頃から態度が悪いクソガキだったが、そのまま大きくなってしまったらしい。
とりあえず人のベッドで泣かないで欲しい。湿気るじゃないか。
「で? セレンと殿下が一緒に出かけるって聞いて動転した挙句に、セレンを睨みつけて……それからどうしたって?」
「マリエッタの誕生日プレゼントだから、殿下が選んでくれた方が喜ぶ。セレンだってマリエッタに喜んで貰いたいだろう、って」
「言ったのか。イヤなヤツだな!」
「ヘリオス殿下にも、卑怯だと叱られた」
「殿下が叱責するってよっぽどじゃないか」
「俺だって……酷いこと言ったと思ってる」
また泣きだした。真っ赤な髪に真っ赤な瞳なんて派手派手しい見た目のくせに、ウジウジ情け無いったら。自分の感情に素直だと言えば聞こえがいいが、感情の制御がこれっぽっちも出来ていない単なる阿呆だ。
はあ、とついため息が出る。
「つーか今どき婚約者なんて古くさいんだよ。セレンが可哀想じゃねえかよ、ガキの頃からあいつ、ずーーーーーっと頑張り通しだぜ? この間だってあんなにフラフラになって」
「……」
「な、なんだよその目は」
「……いや、君の口が素直にそう言えたら違う未来もあったかも知れないのにな、と思っただけだ」
「うるせえよ」
こいつの普段の態度を見て、誰が想像できるだろう。こいつがほんの子供の頃からセレンひと筋で、素直になれないだけだなんて。
僕はまぁ、たまたま知ってしまったわけだけど、応援するつもりなど毛頭ない。こいつのセレンに対する態度は照れ隠しだとしても目に余るから、全て自業自得である。
「ただ、婚約者なんて古くさい、という意見には僕も賛成だけどね。今は自由恋愛が主だしその気持ちは分からんでもない。婚約者がいるのなんて、将来国を担う皇太子だけだもんな」
「だろ? 思うよな! セレンが可哀想だ」
本当に、その気持ちが素直に出せればなぁ。残念過ぎるヤツだ。
ちなみに僕は、セレンが殿下の婚約者でなかったなら、本気で恋人に立候補したいくらいには彼女に好意を持っている。
僕は彼女の側で話を聞き、仕事ができるアピールをし、共通の話題を探しては存在感を保つという地道な努力をしてるし、もしもなにか不測の事態でセレンがフリーになるようなことがあったら、距離を一気に縮められるようなポジションにいるんじゃないだろうか。
少なくともマシュロのような下手はうっていない。
「兄も時代錯誤だ、次代は婚約者など不要なんじゃないかと言っていた。皆そう思ってるんじゃないのか?」
「リースの兄さんって、あの切れ者だって噂のボーデン宰相だろ? なんで今進言してくれないんだよー!」
「するわけないだろう。兄だってセレンのことは絶賛してるからな。セレンが妃になるのは大歓迎、むしろ早く結婚して戦力になって欲しいってぼやいてた」
「ちくしょー! ヘリオス殿下が血迷って他の女に惚れねぇかなー」
「それでさっきマリエッタがどうのとか言ってたのか。本当に見た目に反して姑息なヤツだな」
「うるせー、放っとけ」
あ、やっと起き上がった。まだ鼻は赤いが涙も止まったようだし、なんとか落ち着いてきたんだろう。
「帰る。どうせお前、慰めてもくれないし」
「慰める要素がないからね。君の子分に言えばいい、全力で慰めてくれるだろう?」
「言えるかよ、格好悪い。あいつら、俺がセレンのこと好きだとか知らねえし」
「そういえば彼らはマリエッタのことを好きだったんじゃないか? 殿下にマリエッタをアピールするだなんて何を考えているんだ」
「あいつらのはなんかこう、女神のように崇めてるっつうか。マリエッタがこの国で一番輝いてるのがいいんだって言うから。マリエッタも満更じゃなさそうだし」
「君も大概な馬鹿だと思うけれど、彼らもなかなかだな」
僕はまた大きなため息をつく。扉から出て行こうとするマシュロの後ろ姿をぼんやり見ていたら、ふと兄さんの忠告を思い出した。
派手な赤髪のくせに妙に寂しそうな背中に、僕は言葉を投げた。
「そうだ。君たち四人に兄さんから伝言だ。『自分の割り当てられた案件くらい自分で処理しろ』だってさ。『筆跡が違うのだから貴様達の実力は正しく把握している』ってかなりお冠だったよ。あの様子だとこれまでのも全部把握してるんじゃないか?」
「マジか……そんなのまで目を通してんのかよ、あの人」
「使い物になりそうな人材がいるのかはいつもチェックしてるみたいだね。このままいくと君たち、そのうち平民に指示されることになるぞ」
「チッ……」
腹立たしそうに舌打ちをして、マシュロは無言のまま出て行った。
反省の色もない。あれじゃあ二、三年もしたら閑職へまっしぐらだろう。わが国は王政はしいているけれど、能力さえあれば平民でも文官や騎士、魔術師に取り立てられる。実力が無ければどんどん蹴落とされていくだけだ。
やれやれ、勝手に人の部屋に押しかけてきて泣きわめいたあげく、帰り際にお礼すら言わないし。扉も閉めて行かないし。
若干イラつきながら扉を閉めて、一人になった部屋で俺はやっとゆっくりした気持ちで考える。
しかしついに殿下が動いたか。婚約者なのに一緒に出かけたこともない二人を心配していた王家にとっては喜ばしい進展だろう。
あの人の良さそうな王と王妃が「良かったねぇ」と笑い合う姿が目に浮かぶようだ。
それに、急にセレン嬢が魔術に興味を示し始めたのも面白い。僕としては他の人にはない共通の話題が増えたからそれだけで嬉しいし、何と言っても日に日に目を見張るような速度で成長しているのが見て取れて、それを見ているだけでもワクワクする。
あんな進化の仕方、魔術学校でも見たことがない。ヴィオル様はそれこそ、いったいどんな魔法を使ったんだろう。
次の休みにでも、諸々報告がてら兄さんに会いに行って、話でもしておくか。
ちょっとネタバレと世界観説明の回です(^^)
私は大変楽しんで書けました!
以前にも出てきましたが、この世界は王政はしいているものの、だいぶ民主化が進んでいる国が舞台です。
なので違和感を覚える方も多そうだったので、ここでいったん説明を入れてみました。
ここから先は隠していた部分をちょこちょこ小出しにしていきますよ(^^)




