記録玉は恥ずかしい……!
「セレン嬢、ご機嫌だな」
「えっ」
振り返って見上げたら、ヴィオル様が目を細めて微笑んでいた。
確かにちょっと浮かれていたかもしれない。だってヴィオル様がさっきの戦闘をいっぱい褒めてくださったんですもの。
「そんなに分かりやすかったでしょうか」
「足取りがはねるようだった。まぁ、さっきの戦闘はなかなか見事だったからな」
わたくしったら、恥ずかしい……。
嬉しいのがまるわかりなくらい行動に出てしまうだなんて、子供みたいだわ。社交の場やアカデミー、サロンでだってちゃんと自制できるというのに、どうしてヴィオル様の前だと簡単に赤くなってしまったり、行動に隙が多くなってしまうのかしら。
確かにヴィオル様はとても信頼できるお師匠様で、だからわたくし、少し甘えてしまっているのかもしれない。
赤くなったり挙動不審になってしまうのは別な理由が大きいと本当はわかっているけれど、わたくしはそう考えることで自分をなんとか納得させた。
「ちなみにセレン嬢、戦闘後にちゃんと記録玉に魔力を送ったか?」
「あっ! いえ、忘れていましたわ」
「そうか、では今もずっと記録を続けているんじゃないか? 再び魔力を送らないと、永遠に記録するぞ」
「今も?」
「そうだな」
「まあ……! ではすぐに記録を解除いたします」
確かにヴィオル様から魔力を通して、次に魔力を通すまで記録するのだと説明を受けていた。けれど記録していることをすっかり忘れていた今もなお記録されているのだと思うと途端に恥ずかしい。
胸元を見下ろせば記録玉はまだ白くほのかに光っている。慌てて記録玉を握りしめて魔力を通せばチカチカと明滅して光が消えた。
これで解除できたのよね?
「セレン嬢、記録の確認の方法を教えよう。いったん記録玉を預かってもいいか?」
「はい、もちろん」
首から記録玉のペンダントを外してヴィオル様に手渡したら、ヴィオル様はどこからか小さなまあるいレンズのようなものを取り出した。
「これを記録玉に接触させた状態で魔力を通すと、記録が再生される」
レンズっぽいものと記録玉をひとまとめに持ったヴィオル様が魔力を通すと、空中に映像が映し出された。
いきなり空中に描き出されたのは、大写しになったウインドボム。ギュルギュルと音を立てて激しく動くさまは再生された記録なのだとわかっていても恐ろしいくらい。そしてそれを必死で制御しているわたくしの震える手までが見えて、わたくしは少し驚いた。
これ……もしかして、わたくしの目から見ている角度ではないかしら?
どうみてもウインドボムを見下ろしているような角度で、わたくしは首を傾げた。記録玉のペンダントトップの位置から見たとはやはり思えない。
そう思っているうちに、暴れて今にもわたくしの手から逃げ出しそうなウインドボムが一気に小さくなっていく。
ああ。グレイトボアに向けてついに放たれたのね、と理解したと同時に、ウインドボムが風壁を飛び越えグレイトボアの巨体のすぐそばで炸裂したのがはっきりと見えた。
おなかのあたりにいくつもの刃がめり込み、グレイトボアが土煙をもうもうと上げながら鈍い音を立てて倒れふしていくさまも、グレイトボアの断末魔も忠実に再現され、わたくしがさっき見たばかりの戦闘の光景が繰り広げられていく。
グレイトボアがやけにくっきりと見えて、周囲はぼやけて見えるのが不思議だ。
「た……倒せましたわ!」
興奮したようなわたくしの声が響いて、視界が急にぐるんと回った。
「ああ、見事だった」
振り返ったらしいわたくしの視界には、ヴィオル様の優し気なお顔だけが大きく映し出されている。
僅かに口角が上がって、目じりが柔らかい雰囲気を醸し出している……わたくしが一番好きな、ヴィオル様の表情。
か、恰好いい……!
眼福過ぎる記録の中のヴィオル様の表情に、記録だとわかっていてもついつい見惚れてしまう。
大写しだから、実際のヴィオル様よりも表情が大きくはっきりと見えてあまりにも麗しい。知らず胸の前で指を組み、祈るような姿勢で魅入ってしまっていた。
こっちを見て微笑んでいるヴィオル様の表情を存分に堪能していたら、ふと照れたように視線をそらされてしまう。
ああ、そのお姿も素敵。さらりと頬に落ちた黒髪が、余計にわたくしの胸をざわざわさせる。
でも確かにさっきもそう思ったわ。こうして見るとわたくしったら、こんなにもずっとヴィオル様を凝視してしまっていたのね。申し訳ない……という思いでヴィオル様を見たら、大写しで照れて顔を背けているヴィオル様の横で、逆方向に顔を背けて照れていた。
それでも記録玉をかざす手だけは揺るがないところがさすがだ。
「記録で自分の顔や声が出てくると、いたたまれないな……」
小さな声でそうおっしゃっているのが聞こえて、わたくしは急激に恥ずかしくなってきた。
こんなにヴィオル様に見惚れてばかりいるのが知られてしまったら、わたくし、恥ずかしすぎて死んでしまいそう……!
魔獣を倒したら即! 即、記録を切らないと!
わたくしは頬に熱が集中するのを感じながら、そう固く決意した。




