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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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【ヴィオル視点】進捗は上々だ

ギュルギュルと渦巻く風の塊が俺の結界の中央に叩き込まれ、今か今かと力の解放を待っている。


それを制御しているセレン嬢の額には、玉のような汗が浮かんでいた。目を細め唇を引き結んで、暴れる風の塊を必死に抑え込んでいる様子には、まだ余裕など欠片もない。


しかし最初は右へ左へと目まぐるしく跳ねていた風の塊が、今や結界のほぼ中央に留まっているのだから、それだけセレン嬢のコントロールが上達しているということだろう。


ここまで出来れば上々だ。



「よし、放て」



俺のひと言と同時に、風の塊が瞬時に弾けた。抑制する力を失った風の刃は四方八方にえげつない勢いで飛び散り、俺の結界の壁に音を立てて突き刺さる。


俺めがけて飛んできた刃も、鼻先で透明な結界の壁に阻まれた。



「きゃあっ!! ヴィー!!!?」



セレン嬢が血相を変えて飛んでくる。


自分にだって刃が注いでいるのだからそんなに驚くこともあるまい。結界は三重に敷いているし、俺にもセレン嬢にもしっかり防護壁まで展開してある。まったく問題ない。



「よ、良かった。怪我はないみたいだわ」



むしろここぞとばかりに身体中をまさぐるのをやめてくれ。くすぐったくって変な声が漏れそうだ。



「どう見ても当たっていないだろう」


「だって顔に当たったのかと思ったのですもの。無事で良かった」



ぎゅうっと俺を抱きしめたセレン嬢は、決心したように呟く。



「炸裂させた後の刃の軌道も制御できないと意味がないわ……!」


「めちゃめちゃ難易度が高いんだが」



まぁ、将来的には必要なスキルではある。結界を張るにも限度があるし、複数人がいる場所や傷つけたくないモノがある場合、特定の方向にしか刃を飛ばしたくないというシチュエーションは往々にしてある。



「まぁ、それは特級魔術師になってから習得しても遅くないと思うがな」


「ダメよ。ヴィーやヴィオル様にもしもの事があったら、わたくし心臓が止まってしまうわ」



むしろそういう意味ではセレン嬢になにかあった方が俺の心臓が止まると思う。多分社会的にも死ぬだろう。



「では来週はそこまで出来るといいな。もう夜もだいぶ深い。今日はここまでにしよう」



流石に中級の魔術だけあって、四方八方に飛び散る風の刃の破壊力は絶大だ。これを何度も受けた俺の結界もだいぶダメージを蓄積している。ここらが潮時だろう。



「分かったわ。ではデザートの時間ね」



ふふ、と機嫌よく笑って俺をテーブルの上に降ろすと、セレン嬢はいつものようにベッドの方へと小走りで向かう。



「今日は終始楽しそうだな。サロンの運営が上手くいっているのか?」



あきらかに足取りが軽く表情も明るいセレン嬢に、そう声をかけた。


特訓を開始する前から気がついてはいたが、お茶の時間にゆっくり聞き出そうと思って我慢していたのだ。今日の特訓は終わった。もう話を振っても問題あるまい。


ベッド脇のサイドテーブルからデザートバスケットを持ち上げて、セレン嬢は嬉しそうに笑う。



「ええ、とっても! 今日で三人への導入教育は終わったから、明日からは各々別の人からの本格的な指導が入る予定よ」


「別々なことを学ぶのか」


「ええ、リンデ様は財務関連を希望していたからキッツェ様から学ぶのが良いでしょうし、ラーディア様は絶対に海運関連が良いと言っていたから、アンドル様が指導する事になったの」


「昨日確かラーディアという娘は保守派だと言っていなかったか? 海運関係と言えば革新派の巣窟だろうに」


「だからこそいいのですって」


「奇特なことだ。それからリンデ嬢は確かタイド公爵家の娘だったな。財務を目指しているのか」



財務ならば俺たち第三魔術師団も予算どりで熱戦をくりひろげることもある。手強い敵にならないといいが。



「ええ。リンデ様は人と話すより計算をしている方が楽しいといつも言っているから不思議はない選択だわ。一生数字と睨めっこして過ごしたいんですって」


「セレン嬢の友人は変人ばかりだな。ちなみに妹御の指導は誰がやるんだ?」


「わたくしが指導する事になっているわ」


「ふむ、まぁそれが一番無難だろうな」


「マリエッタは特に希望がなかったし、わたくしが特級魔術師になれた暁にはマリエッタが王妃候補になる可能性が高いのですもの。補佐という名目で、わたくしが身につけた事を教えていこうと思っているの」


「そうか」



自分が去った後に支障が出ないように、セレン嬢は着々と準備を進めているわけだ。



「まぁ! 今日は一段と可愛いわ!」



デザートバスケットを開けたセレンが嬉しそうな声をあげる。いつになく大皿がバスケットの中から取り出されたかと思うとふわっと甘い香りがした。


おお。なんという魅惑の香り……。


鼻もヒゲも、ついついヒクヒクと動いてしまう。


どんなお菓子なのかが気になって首を伸ばせば、セレン嬢がクスクスと笑いながら俺の目の前に大皿を置いてくれた。



「おお! なんと華やかな……!」



色とりどりのマカロンだった。



「何色あるんだ、これは!」


「こんなに華やかなのはわたくしも初めて見たわ。素敵!」



よく見るピンクやオレンジ、ブラウンやホワイトだけではない。黄色、薄紅色、紫色に水色、真っ赤にベージュに緑色、若草のように鮮やかな黄緑、深い海のような紺碧、濃いコーヒーのようなダークブラウンに宵闇のような僅かに紺を感じる黒。


いったいどうやればこんな繊細な色を出せるんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 料理長…独立してパティシエへの道まっしぐら?(笑)
[良い点] 夜に見たら、飯テロw いや、オヤツテロ おやつの方がたちが悪いw肥満的な意味でwww [気になる点] マカロンたべたい
[一言] 料理長の腕前どんどん上がってますね
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