思いがけないご褒美
それからの討伐はとても順調で、わたくしは回を追うごとに加点を確実に稼げるようになっていった。
ヴィオル様の評価に対する解説がわかりやすいものだから、こちらとしても対策が立てやすいのがありがたい。自分でもメキメキと戦い方が上手くなっているのが分かる。評点だけではなく、なぜ加点されなぜ減点されるのかが明確に示されることが、こんなにも上達につながるなんて。
ヴィーはとても素晴らしい先生だけれど、評価基準にまではここまで精通していなかったかもしれない。
そういう意味では、ヴィオル様に同行していただけてアドバイスをもらえたのは物凄く幸運だったのだと思う。本当にわたくしは幸せだ。
帰路はヴィオル様が隠遁の魔術をかけた状態でスピードアップの魔術まで展開してくださったものだから、驚く程短時間で街まで帰ってこれてしまった。
「大丈夫か?」
「はい、朝と同じように風に煽られて帰ってきたはずなのに、疲れ方が全く違います」
「まぁ、気持ちはそうかもしれないが、体は確実に疲弊しているだろうから、疲労回復だけはかけておこう」
わたくしをソファに座らせて疲労回復の魔術をかけてくれただけでなく、「喉が乾いたな」と呟いて手ずから淹れた御茶を振る舞ってくれるという至れり尽くせり加減に、わたくしは恐縮することしかできない。
ありがたくお茶をいただいていたら、なんとヴィオル様はほかほかのタオルまで用意してくださった。
「土埃が付いているだろうから、顔や手足を拭いておいた方がいい。さすがに年頃の娘にここで風呂に入れとは言えないからな」
「は、はい……ありがとうございます」
気を遣ってくださっていることをありがたく思いながら湯気が出ているタオルで顔を拭くと、確かに土埃で汚れていた。ざらついた顔も腕も、目立たない程度には拭いておかなくては。
「俺は奥の部屋にいる。着替えて帰る準備を整えたら声をかけてくれ」
「何から何までありがとうございます」
ヴィオル様が部屋を出ていくのを見送ったわたくしは、思い切って服を全部脱ぎ捨てて全身をざっと拭く。拭き始めたらざらつきもだけれど汗も気になってしまって、拭かずにはいられなかった。
幸い洗面所はこちらにある。何度かタオルを洗っては体を拭いてスッキリする。着替えて髪もすっきりと纏めあげたら、邸を出てきた時と随分近いわたくしの姿に戻る。時間も前回より掛からなくなったと思う。
着替えやまとめ髪を練習した成果を十分に感じられて嬉しい。
脱いだ討伐用の服をきちんとハンガーにかけて、わたくしはヴィオル様に声をかける。
「ヴィオル様、お待たせしました」
「うむ」
「まぁ……」
ヴィオル様が、部屋着で出てきた。
細身な体にぴったりと合う黒の薄手のインナーは襟ぐりが大きく開いていて、普段は見えない首元から鎖骨のあたりが目に入る。髪をひとまとめに括っているからなのか、走った直後で肌が上気しているからなのか、わたくしよりも余程艶かしい気がして、わたくしは思わず目を逸らした。
「ヴィオル様も着替えたのですね……」
「ああ、さすがにかなり埃っぽかったからな。拭いたら少しさっぱりした」
「私服も黒ずくめなんですのね」
内心の動揺を悟られないようにと思ったら、どうでもいいことを口走っていた。これだけ美しい方だと男性でも色っぽく見えるのだと、初めて知ってしまった。目のやり場に困る。
「黒だと色を気にしないでいいからな。……ところでセレン嬢、褒美の件だが」
「褒美?」
「ああ、討伐もうまくいったら褒美をやると約束しただろう? 討伐も次回は中級に対峙させられると判断できるレベルだったし、魔術自体も随分短期間で上達できていたしな」
「褒美だなんて、そのお言葉だけで充分ですのに」
「そうか? これならば『飛ぶ』魔術の研究を許可してもいいと思ったのだが」
その言葉に、わたくしは文字通り飛び上がった。ヴィオル様の片眉と唇の端が悪戯っぽく上がっているけれど……本当に?
「ほ、本当ですか!? 本当に、練習しても良いのですか!?」
必死すぎるわたくしが面白かったのか、ヴィオル様が破顔する。
「うむ。魔力の制御も見事だったし、その持続も集中力も問題なかった。繊細な魔術も展開出来るだろう。……研究するだけの実力はあると判断する」
「ヴィオル様……! ありがとうございます。わたくし、一生懸命に精進いたしますわ!」
「ああ、頑張れ。だが、無茶はするなよ」
「はい!」
嬉しい。本当に嬉しい。踊り出したくなってしまうくらいに、気持ちが高揚する。飛ぶ魔術を練習できるのも嬉しいし、何よりヴィオル様がわたくしを信じてくださったことが嬉しい。
その信頼を崩さないよう、決して無茶なことなどしませんわ。
決意を固めるわたくしに、ヴィオル様はなぜか、少し困ったように仰った。
「想像以上に喜んでいるな」
「それはもう! わたくし、頑張ります!」
「ああ。……実はその……もうひとつ褒美があるんだが、逆に出しづらくなった」
「えっ?」
そんな、これ以上だなんて貰いすぎでは。そう思ったけれどヴィオル様がとても気まずそうに、それでも何かを言おうとしてくれているのが分かって、わたくしはただヴィオル様のお言葉を待つことにした。




