ヴィオル様の採点は
概ね作戦どおりにことが運んだことに、知らず、安堵のため息が出ていた。
ウルフみたいに俊敏な敵は、避けることすらできない状況を作り出してしまえばいい、そんなわたくしなりの考えはそう間違ってもいなかったらしい。
緊張の糸が一気に切れて、わたくしはその場に座り込んだ。
両手をついた時に感じた湿った土の感触と、落ち葉のガサガサした感触になぜか安堵を感じる。すぐそばでガサ、と音がして黒い靴先が視界に入る。
見上げたら、ヴィオル様は穏やかな表情でわたくしを見下ろしていた。
「ヴィオル様……」
「惜しいな、九十点」
「良かった、前回からしたら随分と点数が跳ね上がりましたわ」
ホッとしてそう言えば、ヴィオル様は「そうか? ちょっと勿体無かったが」と少し残念そう。前回は三十点で悪くないと言っていたのに、今回は九十点で勿体無いだなんて、今ひとつ基準が分からない。
つい首を傾げてしまったら、ヴィオル様はわたくしに手を差し伸べて助け起こしてくれながら、総評を言ってくれた。細くて繊細に見える手が意外と力強いことに密かにときめいてしまったのは内緒だ。
「言っておくがそもそも今の戦いぶりは、前回からしたら驚くほど進歩している。戦術を考えた甲斐があったな」
「そ、そうですか、良かった……」
「試験官としてコメントするなら……そうだな、防護壁で受け止めるのではなく風壁で弾き飛ばしたのがまず良かった。距離も稼げるし相手にも多少なりダメージが与えられるからな」
咄嗟にやったことだったけれど、確かにそう言われればそうかも知れない。良い点だと言ってもらえるとは思わなかったから、少し安心する。
「次に、闇雲に攻撃するのではなく相手の動きを見極めようとした点も評価できる。こちらが仕掛ければ相手も反応して戦局が激しく動くからな。急襲された時ほど落ち着くことが重要だ」
「はい……!」
「操風でウルフたちを巻き上げて、攻撃、逃走手段を奪う戦術は素晴らしかった。個々と戦うとスピードで負けたり前回のように撤退されてしまうからな。それを阻止しようという作戦なんだろうが、あの数を一網打尽にするとは思わなかったぞ。あれはポイントが高い」
嬉しい……! 口元がニヤついてしまうのを抑えられない。
前回の反省を元に考えたことを、ちゃんと汲み取って貰えているのだという事実がわたくしを歓喜させる。
「そして最も良かったのは、最後にウィンドカッターで確実に仕留めたところだ。あのままウルフを地に落としても相当なダメージは与えられただろうが、俊敏な個体は体勢を整えることもある。その隙を一切与えずに仕留めた点は大きく加点を与えたい」
「本当ですか」
「無論だ。ここまでなら百点満点だとして、加点含めて百二十点与えてもいいくらいだ」
「……というと、三十点分何かで引かれているということですわね」
「うむ、そこが惜しい」
自分なりに少し考えてみたものの、思い当たる節がない。なんせ、自分では最良だと思ったことをほぼ実行できているのだから当然だ。あわよくば最初に飛びかかられた時点でウインドカッターを放射状に撃ちたかったとは思うけれど、ヴィオル様の評価を聞くと、どうやらそこではない何かが引っかかっているのだろう。
「どこが減点になったのですか?」
「ひとつは使用する魔術のレベルが低い事だ。これは正直仕方がない。セレン嬢には初級魔術しか教えてないからな。これがおよそマイナス十点。これから中級の魔術を覚えてもいいが、セレン嬢なら他にいくらでも加点できる」
それを聞いて私の心は大いに揺れた。十点ってかなり大きいと思うのですけれど。使う魔術のランクでも配点が変わるのならば、中級魔術も取り入れたい。
帰ったらヴィーに相談してみよう、そう思いつつわたくしはヴィオル様の説明を一生懸命に聞き取る。
「最大の減点は……戦闘直後に座り込んだだろう? それがマイナス二十点だ」
「マイナス二十点!?」
「ああ。戦闘直後に他の魔獣に狙われない保証などない。最も危険な行為だ。あの時は防護壁もゆるんでいたしな、戦闘後も決して油断してはならない」
「本当にその通りですわ……」
「落ち込むな。つまり、そこさえ気をつければ充分に加点で終わっていたという事だ。素晴らしいと手放しで褒めたいのに、なんとも惜しいだろう?」
声に悔しそうな色が混ざったのがわかって、わたくしは少し笑ってしまった。褒めたいのに、なんて……ヴィオル様は本当に優しい方なのね。
「あと、さらに加点が欲しいなら、地の利を生かした戦いをすると有利だぞ。想像力や応用力を評価される」
「森という環境を戦術に取り入れる、という事ですか?」
「そうだな。例えばウインドカッターで切った枝をさっきの旋風に混ぜればどうなる?」
「……切り口が鋭利であれば、殺傷能力が高まりますわね」
「そういう事だ。魔術学校の出身者はこういうテクニックも授業で一応教えられるからな、そいつらより抜きんでたいなら、そういう応用も視野に入れた方がいい」
「はい! 次からは戦術に組み込みますわ」
「期待している」
「はい!」
ふつふつと闘志が湧き上がってきた。
なぜかしら。ヴィオル様の「期待している」のひと言で、こんなにも力が湧いてくるだなんて。
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