二度目だから
今日も前回と同じく約束の十の鐘とともにおいでになったヘリオス殿下は、やっぱりとても格好良かった。
白いシャツに紺のベストが映えて、ヘリオス殿下のすらりとした長身にとてもよく似合っている。
けれども今日はせっかくの輝くような金の短髪はもう帽子で隠してしまっているのね。
少し残念に思ったけれど、あのつばの短い帽子はお忍びのお出かけには必須だと仰っていたから仕方がない。
わたくしは微笑んでヘリオス殿下をお迎えする。前回と違って、こうして落ち着いて対応できるようになったのは進歩ではないだろうか。
「ヘリオス殿下、本日はお誘いいただきありがとうございます」
前回同様感謝の意をお伝えすると、ヘリオス殿下はハッとしたような顔をして、次いで珍しい、はにかんだような笑顔を見せてくれた。
初めて見る表情に、わたくしも瞠目する。こんなお顔をなさる時もあるのね。
「今日もとても綺麗だ」
「……あ、ありがとう、ございます」
照れたような笑顔でそんな事を言われると、さすがにわたくしも体温が上昇してしまう。前回もほめてくださったけれど、女性を誘った時のエスコートの場合は、こうして褒めるのも男性としてのマナーのひとつなのだろう。浮かれ過ぎないようにしないと。
自分を落ち着かせるためにそう考える。それでもヘリオス殿下の言葉も表情も嬉しくて、わたくしも口元がほころんだ。
「前回は可愛らしい印象だったのに、今日は上品で清楚だ。女性は毎回こんなにも印象が変わるものなんだな」
ヘリオス殿下がそう思うのも無理はない。わたくしも鏡に映る自分を見てそう思ったのだから。
前回は髪もふんわり巻いて動くたびに軽く揺れていたけれど、今回はむしろ編み込んだところ以外はストレートに整えられて、さらりと流れるような髪になっている。
メイクや口紅も薔薇色の頬とプルンとしたチェリーの唇というピンク系から、肌の白さを際立たせた中に目元や頬、唇といった要所要所にオレンジ系を配する透明感重視のものに変わった。
顔の素地は変わらないというのに、印象がまるで違う。リンスの手はまるで魔術のようにわたくしの姿を変化させていた。
「リンスの手腕のおかげなのです。ヘリオス殿下にこうして褒めていただけると、わたくしでも少しは自信が持てますわ。ありがとうございます」
「わたくしでも、って。セレンは綺麗だよ」
「ありがとうございます」
そうね、マリエッタには遠く及ばないとしても、リンスが腕によりをかけてくれたのだもの。今日のわたくしは前回を上回ってわたくし史上最高の出来だ。自信を持っていいと思う。
わたくしはにっこりと笑って見せた。
「ヘリオス殿下もとても素敵です。やっぱり今日は前回よりもラフな装いなのですね」
観劇などがないのだから、とわたくしも前回より随分と華美さを抑えたけれど、ヘリオス殿下も同じ考えでよかった。それにしてもヘリオス殿下はさすがだわ。町の方たちと似たような装いをしても、ひときわ目立つであろうことは否めないと思う。
お顔がとても精悍で凛々しいのもあるけれど、立ち姿がとても綺麗だというのもあるかも知れない。すらりとした長身なのだけれど、剣術、馬術で鍛えられているからなのか、それともダンスで姿勢が良くなっているからなのか……その佇まいが持つ美もあるのだと感じた。
「ありがとう。実はあのあと何度か城下へ下見に行ったんだ。町の者たちの服装を少し参考にさせてもらった」
「まぁ。さすがヘリオス殿下、勉強熱心なのですね。とてもお似合いですわ」
「行った甲斐があったな」
何事にも手を抜かないヘリオス殿下らしい。
「下見の成果はそれだけじゃないぞ。面白そうな店も色々と見つけたんだ」
「楽しみですわ」
「ああ、時間がもったいないな、そろそろ行こうか」
「はい」
差し出された手をとって馬車へとエスコートされるのもとてもスムーズだ。もはや前回のようなぎこちなさは感じない。わたくしもヘリオス殿下も、少し慣れたということなのだろう。
ドキドキバクバクと終始心臓が跳ね、緊張の連続だったあの時とは違う。浮かれ過ぎてもいないし、落ち着いてヘリオス殿下とこうしていられることにわたくしは安堵した。
「そういえば、以前令嬢たちをサロンのメンバーに加えるための打診をしただろう?」
馬車での雑談の中で不意に殿下の口からその話題が飛び出した。声掛けした三人の令嬢がご両親と相談して参加意思を確定するのを待っている状況だけれど、マリエッタとリンデ様は既に参加するとの意思を表明している。残るは保守派のラーディア様だけだ。
「今朝、ラーディア嬢も参加すると連絡をもらったんだ」
「まぁ! 良かった」
「ああ、ほっとしたよ」
肩の荷が下りたような顔でヘリオス殿下が笑う。
「今週中にアカデミーや王宮で告知して準備を整え、来週にはサロンでの実務に入ってもらえるように準備していこうと思っている」
「分かりました。わたくしも、精一杯お迎えする準備をいたします」
「頼むよ。……と、休日だというのに、つい仕事の話をしてしまった。すまないな」
申し訳なさそうに眉を下げるヘリオス殿下に、わたくしは笑って首を横に振った。
久しぶりの殿下のターン!




