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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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わたくしは、精一杯戦わなくては。

今日は前回ほどゆっくりとお食事を堪能する時間はない。なんせこの先の森まで到達するならばさらに一、二時間ほどは歩かないとならないだろう。



「今日のも食べやすい料理ばかりで良かったな」


「わたくしが書庫に籠ると言ったら、料理長がおおむねこのような感じの料理とデザートを作ってくれるのです」



料理長の気遣いなんだろう、串ものであったり様々な具材が盛り付けられたカナッペであったりサンドイッチであったり、とにかく片手でつまんで食べられるような工夫がなされているのだ。



「恥ずかしいのですけれど、わたくし書物に夢中になると席についてしっかり食事を摂る時間が惜しくなってしまうのです。なので……」


「ああ、食いながら読むわけだな。俺もよくやる」



貴族の子女としてはかなりお行儀が悪いことなので、言い淀んでしまったわたくしだけれども、ヴィオル様はなんてことない風に流してくださった。


そういえば、ヴィオル様がくれたたくさんの魔術関連の書物、あれもかなり読み込んだ形跡があったわ。きっとヴィオル様も食事の間も惜しむくらい、相当勉強熱心なお方なんだろう。


食事がすんだらお待ちかねのデザートの時間。ヴィオル様がこれを楽しみにしていることは、口にされずともわかってしまう。だってこの時ばかりは明らかに嬉しそうで幸せそうな、蕩けるようなお顔になるのですもの。



「おっ! すごい、これはまた随分と可愛いサイズだな!」


「プチシュークリームですわね。ひとくちサイズだと手も口もさほど汚さずに食べられるでしょう? わたくし、これが大好きなのです」


「セレン嬢は可愛がられているんだな。随所に料理長とやらの気遣いを感じる」


「わたくし、子供の頃とても食が細かったので、いつもこうして心を砕いてくれていたのですわ」


「いい料理人だなぁ」



あまりにも率直に褒めてくださるから、わたくしまで嬉しくなってしまう。


ポイポイと手品みたいにヴィオル様の口の中にプチシュークリームが消えていくのがなんだか面白くて、つい見惚れていたら、ハッとしたようにヴィオル様の手が止まった。



「す、すまん、美味すぎてつい夢中に……!」


「ふふ、お気になさらず食べてください。わたくし今日は既にヴィオル様のフローズンヨーグルトを堪能しておりますし」


「あれは混ぜて凍らせただけだろう。料理長の素晴らしい腕前が発揮されたこれを食さぬのは勿体ない」



表情もさして変わらないのに、なぜか本気で勿体ないと思っているらしいのが伝わってきた。ヴィオル様は本当に甘いものがとてもとてもお好きなんだろう。



「それに、せっかくセレン嬢のために料理長が考えて用意したものだろう?」



そう言われてしまえば、料理長の優しい顔が目に浮かんで食べずにはいられなくなってしまった。けれども実はわたくし、ダイエット中なのです……。



「では、ひとつだけ。わたくし、今は少々食事を制限しておりまして……」



あとはどうぞ、とヴィオル様に勧めておいて、わたくしもプチシュークリームをひとつ口の中へと放り込む。


ひとくちサイズの小さな小さなシュークリームだというのに、中には生クリームと濃厚なカスタードクリームが両方入っているという、これもまた料理長こだわりの逸品だ。


小さい中にもインパクトが消えてしまわないようにという配慮なのだろうか、バニラビーンズの香りが強めで香りまで甘くて濃厚なそれは、ひとつ食べても結構な満足感が得られる。


いつもの、わたくしの大好きな味。



「美味しい……」


「美味いな、セレン嬢のところの料理長は天才じゃないかと常々思っている」


「ふふ、ほめ過ぎですわ」



数回しか差し入れたことはなかったというのに、こんなにも絶賛していただけると、当人でないのに不思議と面はゆい。



「ですがわたくしも、料理長はじめ我が邸の料理人の方々が作ってくれるお料理は絶品だといつも感謝しておりますの」



だからつい食べ過ぎてしまうのですけれど。



「腕のある料理人やパティシエは宝だな。大事にしてくれ」


「はい。もちろんです」



真剣な顔で仰るから、笑いをこらえるのが大変だった。


幸せそうなお顔で残り少ないプチシュークリームを大切そうに食べているヴィオル様の横で、わたくしは手早く後片付けをする。料理長のおかげで片付けすらも簡単だ。


ヴィオル様の言う通り、料理長はわたくしが書物に没頭してもいいように、細やかな心遣いをしてくれていたんだと改めて実感する。機を見つけて料理長に感謝の言葉を伝えようと決意した。



「最高に美味だった」


「お口に合ってなによりですわ」


「よし、行くか」


「はい!」



食べ終わった途端にスッと立ち上がり、まるでスイッチが入ったかのように真剣な表情になるヴィオル様。


わたくしも気合を入れなおして立ち上がった。


迷いなくどんどんと進んでいくヴィオル様の背中を追いながら、わたくしは決意を新たにする。


これからわたくしは、きっとたくさんの魔獣と相対することになるんだわ。



複数の魔獣が出てきても怯えない。


魔獣に距離を詰められても焦らない。


もしも……もしも、わたくしが苦手な、蜘蛛っぽいものが出ても恐慌状態に陥らない。



考えられる恐ろしいことをあらかじめ想定して、自分に言い聞かせる。どんな魔獣と遭ったとしても、わたくしは、精一杯戦わなくては。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] セレンは蜘蛛が苦手だったのか。って、自分でフラグ立ててどうする (^^;。でも、最悪の事態を想定しておくことは大事ですよね。さすがセレン。 [一言] 100話超え、おめでとうございます…
[一言] 100話おめでとうございます! ランチデートほのぼの〜と思ってたけど違うわ魔獣倒しに来たんだったわ
[一言] 流石に料理長もデートで食べられてるとは思うまい(笑) あ。一応修行だったww
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