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分かる人には分かるもの

「どうしたの、驚いた顔して。セレン嬢、さっきからずっと回復系の魔術、展開してるよね?」



唖然として、そして思い出した。



「そういえばリース様は、魔術に造詣が深いお方でしたね」


「深いってほどじゃないけどね。二年ほど魔術学校に通ったから、ここにいる皆よりは魔術のことを知っているだけさ」



確かにリース様は一時は特級魔術師を目指して魔術学校に通っていて、途中から王立アカデミーに編入したのだと聞いたことがある。魔術を習得している方には、わたくしが魔術を四六時中使い続けている事が分かってしまうという事なのかしら。


だとしたら、うまい言い訳を用意しておかないといけなくなってしまう。あまり質問されても困ってしまうし、逆に出来るだけ情報を引き出したくて、わたくしは質問に転じることにした。



「魔術を展開しているって分かるものなんですのね」


「そりゃあ分かるよ。でも一定の強さで魔法を展開し続けるのはかなり高度な技じゃないか」



高度な技だとは知りませんでした……。確かにとても難しいと、今現在実感しておりますけども。



「まだまだセレン嬢の魔術は安定してないから強さがまちまちだけど、それでも安定させようとしてるのは分かるよ。でもセレン嬢はたしか、魔術学校には入学しなかったよね?」


「ええ、わたくしは王立アカデミーだけしか通っておりません」



答えながら、わたくしは途方にくれてしまっていた。


安定しなくて四苦八苦しているところまで、分かる人には分かってしまうのだわ。


内心ため息をつく。つっこんで聞かれたら、どう答えるべきかしら。前から使えたというのも、自然に使えるようになったというのも説得力がない。なんせ安定させようと努力していることまでお見通しなのだから。



「……あ」



言い訳を頭の中で巡らせていたら、急にリース様が立ち止まる。視線の先を追えば、廊下の向こうからヘリオス殿下が歩いてきているのが見えた。



「ふふ、ヘリオス殿下、何かセレン嬢に話したそうな顔だね。僕は先にサロンに入っておくよ」


「あ、リース様」



言うが早いか、リース様はもう目前だったサロンへの扉の中へスルリときえていった。魔術について変に問い詰められなくて良かったけれど、なぜか機嫌が悪そうなヘリオス殿下と二人っきりにされるのもそれはそれで気まずい。


それでも、わたくしをまっすぐ見つめたまま近づいてくるヘリオス殿下を無視するわけにも行かなくて、サロンの扉の前でヘリオス殿下の到着を待った。



「ずいぶんと楽しそうだったな」



若干イラついた声。やっぱり機嫌が悪いのかしら。


ヘリオス殿下は基本的に陽気で明るい方だけれど、時々こんな風に不機嫌になってしまう事がある。



「なんの話をしていたんだ?」


「……以前、リース様が魔術学校に行っていた、というお話ですわ」



話していた内容の中で最も言いにくくないものを選んでお答えする。直前まで話していた内容はこれだし、嘘ではないので問題ないだろう。


そしてすかさずサロンの扉を開けた。正直今はヘリオス殿下とお話しするのが気詰まりでならないのですもの。サロンへ顔を出すのすら億劫だった。昨日サロンへ戻った時にも感じたけれど、あの時の皆の会話が思い出されて、どうしても心穏やかでいられない。


自分の心の弱さが恨めしかった。



「ああ、リースは魔術学校へも通ったんだったな。だがそれが何か……」


「ヘリオス殿下、お待ちしておりました」


「相談したい案件があって」



わたくしが扉を押し開いた瞬間、サロンの中にいた殿方達が一斉にヘリオス殿下に声をかけてきた。その勢いに、ヘリオス様も思わず言葉尻が浮いてしまったようだ。



「……悪い」


「いえ、相談に乗ってあげてください」



少しだけ笑んで、ヘリオス殿下が彼らの元へ行くのを見送る。わたくしとの会話が遮られてしまったからか物問いたげな目をしていたけれど、わたくしはあえて気づかないふりをした。



「……お茶を、淹れますね」



何か落ち着かなくて、わたくしは備え付けのキッチンへと立った。この空間はこんなにも居心地が悪かっただろうか。


皆の態度が変わったわけではない。見慣れたいつもの光景で、自分が勝手に疎外感を抱いているだけだ。分かっているのに、ここはもう自分の居場所ではないと感じていた。



「……!」



皆にお茶を出し終えて自分の席につこうとした時、サロンの窓の外に黒い影が見えた。


ヴィーが来てくれた!


わたくしに一瞬だけ視線を合わせると、ヴィーはついて来いとてでも言いたげにすぐに窓から消えてしまう。気がついたら立ち上がっていた。



「セレン?」


「申し訳ありません、少し急用を思い出して……すぐに戻りますわ」



ヘリオス殿下が声をかけてくださるけれど、それだけを返す。できるだけ落ち着いた様子を装ってサロンからでると、そこからは一目散に駆け出した。


走るわたくしの目の前に黒い小さな体がひらりと舞い降りる。



「焦るな、魔術が切れているぞ。走らなくていいから、魔術の維持に集中しろ。この前、主と話したベンチで待っている」



それだけ言い残して、駆けていってしまった。


本当だ。いつのまにかまた魔術が切れてしまっている。今朝からずっとこうだわ。意識し続けないとすぐ切れてしまう。魔術を展開し続けるというのは、思ったよりもずっとずっと難しいことだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここのページ!すっごくそわそわしちゃいます。かわいいとはおもいつつも、じつはセレンちゃんのことずっと好きだったむっつりさんだといいな…それとも所有欲と勘違いしててあとあとで泣きを見るタイプ…
[一言] あれ? ヘリオス殿下ったら嫉妬してますかね(笑。 ここまで見てきたところ、ヘリオス殿下はちょっと八方美人っぽいというか、目の前にいる人たちに迎合してしまいがちなところがあるように思います(…
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