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決戦

 討伐軍は、街に向けて進んでいた。崩壊した隊を、無事に立て直したのはさすがだ。 俺としては、そこは予想した通りであり、おかげですんなりと合流できた。

 先頭を進む王女の馬車に追いついて、豪華な扉を開けて乗り込む。

「お姉さま」

 王女は、移動中の馬車へのいきなりの訪問者に一瞬驚くが、すぐに俺から意識の無いハーシエル様を奪い取る様に抱き付くと、

「ありがとう、本当にありがとうございました」

 と、心からだろう礼を口にした。涙は、ずっと流していたのか、既に顔はぐしゃぐしゃだった。

「すまない、無事にとは言い難いが……」

「姉さまも、あなたには感謝しか無いと思います。 後は、一緒に介抱してくださいませ」

 後半の言葉の時に、少しだけ笑顔が見えた。安堵だろう。

「ここまでされたのは、きっと俺のせいなのだと思う、その償いはきっとする」

「私は、あなたとの関係があったからこそ、姉さまは命を繋げられたと考えます。人質の価値があったればこそです」

「あんたは強いな。 お姉さんと一緒だ」

 お姉さんと違ってあほだとか思っていた頃が懐かしい。 それを謝ろうと思っていたが、いつかにしておこう。

「こいつはヘタレだからな、責任を感じさせておけ」

 イオルが割り込む。 だが、そう、今の俺は、責めてくれる方がありがたかった。おかげで気持ちが切り替わる。王女も解ってはいるのだろうが、救ってくれた者への感謝が上回り過ぎているのだろう。だからこそ、ここで責める事ができるのはイオルだけなのだ。

「俺は、先に街へ向かいます」

 感傷に浸っている暇は無い、捕虜にされていたエルフさんが気になる。とても酷い扱いをされていそうだった。

「待って、少しくらい休んでいきなさい」

 王女が制止する。

「もう一仕事したら、休みます」

 そう言って、イオルを抱えて馬車を飛び出た。

「待て」

 すぐにイオルが止める。

「どうした?」

「あれを見ろ」

 イオルの目は、進行方向を向いていた。

「ガラダ……」

「やっぱり、あれか」

「王女、全軍止めてっ」

 俺は、王女に慌てて進言した。

「え、なに?」

 王女は、今出ていったはずの俺の言葉に戸惑って、顔を出す。

「正面に、やばいのが居る」

「は、はい。 全軍停止よ」

 それを聞いた馬車横に付いている親衛隊の男が、合図の旗を揚げる。

 間も無く、部隊は停止した。

「他の者には手を出させないで」

 王女にお願いした。できれば逃げて欲しいが、部隊全体を下げるのは難しいだろう。



 俺は、イオルをそっと置いて、ガラダエグザに顔を向ける。

「ちょっと行ってくる」

 と、軽くイオルに声を掛けて歩き出す。

 その途中で、ガラダエグザは後方の飛竜から袋を外して、中から何かを出して放って来た。 俺の前に転がる。 それは、一度だけ会った事のある人物、王の首だった。

 後ろの方で、王女の取り乱す声と、他の者達のざわめきが聞こえてくる。

「なっ」

 驚く俺に対して、ガラダエグザは説明を加えた。

「王都は、占領済みだ。 今頃、竜人どもが楽しくやってるだろう」

 自分は竜人では無いようにも聞こえる。

「貴様」

「お主を待っていると思ったか?」

「くっ」

 ガラダエグザが待っていると言ったのは……当然嘘だったろう。俺がほんとに甘いのだ。

 ハーシエル様一人との天秤で、その答えを出すために、やつの言葉を利用してしまった。

「炎龍は倒したのか?」

「魔将を倒した」

「そういうことか。 手間が省けた。 本体がどこに居るかよくわかったな」

「なるほどな」

 ガラダエグザは、を倒す手間をかけるより、だまして利用していたのだろう。

「まぁいい、お前は、もっと役に立ってもらいたいが、そうもいかない様だ」

「ああ、お前もここで倒す」

「悪いが、お主のために、わしも準備をしてきた。 魔将も死んだなら遠慮なく本気も出せるな」

 さっき会った時と違い豪勢な鎧を見に付けているのが分かる。それか?

 そして、斧を持って、一振りすると、大きな斧がさらに大きく、倍くらいになった。魔法的に巨大化したのなら、破壊力も倍以上ってところか。

「この装備は、大陸でも並ぶものが無い一品よ。 強度もあるが、耐火耐寒性能もすばらしいぞ」

 その装備自慢、魔法使いだった俺なら致命的だが、今は魔法頼りでは無い。

 そして、ガラダエグザ自身の体が霞んだと思うと一回り大きくなった、あわせて鎧も形を変える。

 おおきな竜人というのはそのままだが、まるで、魔族の様な肌の色に変わった。

「わしも歴史は詳しくない。 お前は人間を元にした魔族、わしは竜人を元にした魔族と言ったところだ。 もう、わししかおらんがな」

「なんだと?」

「さぁ、強さ比べと行こうか」

 後方で見ている皆を気にしている場合では無さそうだ。人の状態では絶対にかなわない。

 俺は、魔族へと変身して対峙した。

「一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「王女様はどうした?」

 城に居るはずの第一王女の事だ。

「ああ、逃げられたなぁ。他にも子供が数人。 人間にしては強い男が連れていった。 竜人達が追っかけていったが、どうなったか」

「シェーンか、なら大丈夫だろう」

 シェーンは、部隊が引き返すことを決めた時に、伝令として一足先に王の元に戻ったのだ。

「ほう、それほどの者であったか。 では、後で、始末するとしよう」

「後が在ればね。 で、せっかくだから、もう一つ」

「死んで行くものが、聞いてどうする。 ほんの少しでも生き延びたいのは分からなく無いがな」

「お前の目的はなんだ?」

「そうだな、魔神石を手に入れて、わしが魔王となり、この世界を支配するだけだ」

「魔王なんて肩書、勝手に名乗ればいいじゃないか。 それに、支配なんてしなくても、友好的な方法があるだろう?」

「魔族、竜人、じゃまな奴らが多かった、そしてこの国は人間も屑だろ? 支配せんと、役に立たん」

「今は、少しおかしいかも知れないが、きっと変われる。 そういう人たちに会ったんだ。 大陸側がどんなに偉いか知らないが、人を支配するとか言うやつらの方が絶対に悪だ」

「そうか。 もういいか?」

「ああ、お前は絶対に倒さないといけない」

 ガラダエグザは、巨大化した斧を軽々と振るう。

「どうした? 武器でも取って来るか?」

 ガーネットを使うべきか、斧が巨大すぎて、剣で戦うイメージが沸かない。

 それよりも、ふところに飛び込んで、殴る。

 そう決めたところで、早速斧が襲ってきた。その斧の一振りをかわした瞬間に懐に飛び込んで、拳を振るう。 だが、ガラダエグザの顔面に入ったと思った瞬間に、みぞおちに衝撃を受けて、後方で見ていた者達のところまで吹っ飛ばされた。 斧の柄をくらったのだ。

「ビス」

 すぐにイオルが近寄ってきて、呼びかけてくれている。名前?

 他の者は、この魔族の姿には近づけ無いだろう。

「イオル、やつには勝てないかもしれない」

 素直な感想だが、つい弱音を吐いてしまった。イオルを心配させてしまう、大失敗だ。

「我が覚醒する。 そうすれば……」

 必死の顔で、言ってくれた。あれほど嫌がる覚醒を。

「いや、無理だ。 龍がどうのとかいう強さじゃない。 やつ自身が龍をやらなかったからには、弱点でもあるのかもしれないが、探す余裕がない」

「今は、逃げればいい」

「皆殺しにされる。 それに、奴にこの国を支配させたくない」

「気にするな、お前はこの世界の者では無いだろう?」

「イオル、お願いがある。 俺が、やつの前に立った瞬間に覚醒してくれ」

 やはり、覚醒した力は必要だ。それでも及ばないのは分かるが、試す価値はある。

「それで、どうなる? さっき、覚醒しても無理だと言った」

「いや、思いついたことを試して見る」

「わかった、やる。 だめなら逃げるぞ、いいな」

 いつからだろう、信頼と心配をお互いする様になったのは。ほんの数日しか一緒に過ごしていないのに。

「ああ、それから、ダルちょっと手伝ってくれない?」

 いつの間にか、傍に来ていたダルに聞く。

「いいぞ」

 まだ、お願い事を言っていないのにこの返事だ。一緒に背負ってくれる、俺がもっとも欲しかった仲間かもしれない。

「一緒に、戦ってくれる?」

「ああ、ほとんど役に立たなそうだがな。 なんだ、あの化け物」

「そして、ガーネット、力を貸してくれ」

「頼む、ガーネット」

 イオルも頼んでくれた。

「御意」

 そう言って、すぐに剣化してくれた。握ると刃が伸びる。少し細めを思い浮かべたが、その通りになった。

「ありがとう」

 ガーネットにお礼を言って立ち上がる。

 その時、

「負けないでください」

 マリアデルが居る。

「あなたを信じています」

 アナも居る。

「ビス、がんばって」

 王女が居た。父の死を目の当たりにしても、他を気遣える強さ、ハーシエルの妹なのだ。

「皆を守ってください」

 そして、王女に支えられた、ハーシエルが居る。

 意識の戻った顔を見られてよかった。彼女ならきっと立ち直れる。

「ビス……」

 イオルも何か言いたそうだったが、目を合わせただけで、すぐに逸らすと、それ以上の言葉は無かった。

 数秒だけ待って、言葉を返した。

「じゃあ、行ってくる」

 皆の力を得て、戦う力が沸いて来る。だから、強敵に向けても歩き出せた。

 勝てずとも、絶対に負けはしない。そう決意して。

 ダルは、並んで歩きながら語り掛けて来た。

「俺の命はお前にやる。 魔王様を守ってくれ」

「わしも同じじゃ」

 ガーネットも、覚悟を教えてくれた。

「すまない、二人の命をいただきます。 これしか思いつかない。 一緒に来てくれてありがとう」

 二人へのお礼は自分の迷いを消すためだ。

 そして運命を理解し決意した三人は、ガラダエグザの前に立つ。

 そこで、ダルも魔族化する。

「なるほど、二人がかりか、いいだろう」

「二人じゃない、こいつも居るんだ」

 そう言って、ガーネット剣も見せる。

「何人居ても、変わらんぞ」

 その時、後方でまばゆいほどの光が発した。

 俺に、力が沸く、かつてないほどの。

 (死なないで)イオルの声でそう聞こえた気がした。それは、さっき、イオルが言いかけた言葉だろうか。

 そして、瞬間的に間合いを詰め、ガラダエグザの利き腕、鎧の隙間にガーネットを突き刺す。

「ダル、抑えて」

 指示して俺もそのまま組み付く。

「おおよ」

 ダルは背中側に回って、ガラダエグザを捕まえる。

「離せぇ」

 ガラダエグザは、斧を手放し力任せにもがくが、魔族二人、しかも俺はイオルの覚醒力付きだ。それに押さえられ、利き腕に剣を刺されていては、すぐには抜け出せないだろう。

 しかし、既にガーネット剣にひびが入り始めた。でも、もう遅い。

「みんな悪いな」

 俺が詫びを言ってる時、既に周囲の空間がゆがみ始めていた。

 俺だって、死にたい訳では無い。だけど、こいつが残れば多くの人が犠牲になる。

 最善策では無いかもしれないけど、俺に関わってくれたやさしい人々を守れるなら、本望だ。いや、イオルを守れるなら。

 命を延長してくれた魔神石さんには、頼みを最後まで全うできず申し訳なく思う。

 それにしても、今思い出すイオルとの短い旅は、俺としては悪くなかった。もっと続けたかったなぁ。

 そう思える時間を過ごせたことを幸せに思いながら逝ける。やはり、感謝しかないや。

 そして、今、分かった。俺がこの世界へ転生した運命は、魔王の力を持った運命は、こいつを、この竜を倒すためだったのだと。

 そろそろ魔法が発動する。もう、止まらない。

「貴様、何をする」

 ガラダエグザには、何が起こっているかわからなかったろう。

 これが、風の奥義だ。

 (イオルに、よい母になれよと伝えてください)

 最後の時間で、魔神石さんにイオルへの伝言をお願いした。

 消えゆく俺には、それくらいしか言えなかった。

 そのまま空間のゆがみが大きくなってゆき、ぱっと消えた。 直前、遠のく意識の中でいくつかの俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。


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