少女の過去
『否、行かないが。』
『俺、人間嫌いだし』とアストラエが更に言葉を重ねる。
少女とて快く『一緒に行く』と言って貰えるとは思っていなかったが、そう……即答で返されてしまうと少し傷付く。
「うーん……」少女がどう説得しようか悩んでいると、アストラエは首を傾げた。
『…何故、お前がそんな事を言えるのかが俺には不思議だ』
少女の表情が固まる。
次に言う言葉が自分にとってどれほど重いか、彼にも解っているのだろう。
『人間に捨てられた癖に、何故助けてやろうと思えるのだ?』
少女が何故、影に飲まれなかったのか?
─それは当時、少女は神の加護を受けた神殿の聖櫃で寝ていたからだ。
何故、神殿で寝ていたか?
─其れは、少女が捨てられた先が神殿だったからだ。
……少女─フラン─は忌み子であった。
産まれた時には祝福こそされたものの、物心ついた時から周りの目は一気に変貌した。
何も見えないところで、何かと話をしていたのだ。
実際には、精霊達が見えていたのだが。
他の者からしてみれば、見えないのが普通で、見えている彼女が異常だった。
同年代からは石を投げられたり川に突き落とされたりといった虐めを受け、大人からは無理な重労働をさせられたり罵声を浴びせられた。……泣きながら家に帰ろうとも両親共に「近寄るな」と言われ、彼女は家の外の馬小屋で生活させられた。
そして、ついに9歳の頃、闇商人に売られてしまった。
物好きに鑑賞用として買われたり、狂った科学者に実験体にさせられたこともあった。が、どこへ売られても好奇心は長続きせず異常さに恐怖され次の人に売られていった。
遂には買い手がつかなくなり、街から外れた神殿に捨てられた。 そこで死んでしまえ、と。
彼女は生きることを諦めはせずに、「居場所が無いなら作るまで」と神殿に住むことにしたのだ。
─アストラエとは、そこで出会った。
そんなフランが何故、人を救いたいと思えるのだろう。
「……いじめるの好きね、アストラエさんも」
『虐めて見えるようなら心外だな、純粋に疑問なだけだ』
「なるほど」
フランは強ばった顔を手で解して頬を勢いよく叩く。
(何故、私が人を救うか、か)
「目の前で不幸が起きてる人を見捨てるのは、胸糞悪いから、かな?」
(これが、私の住んでいる星とは違う星なら私は助けようとは思わない。 私は勇者とか英雄になりたいわけじゃない。 ただ、目の前で起きたことを見過ごせないだけだ。
それだけ)
「それじゃダメ??」
アストラエがフランの意を測るようにじっと見つめている。
しばらく見てからため息を吐いた。
『…………分かった。着いていこう』
パァァっとフランの顔が輝く。
アストラエがその顔を見てそっぽを向いた。……耳が少し赤いのにフランは気付かなかった。
「ありがとう!頑張ろうね!」
まずは作戦会議だよ!と、アストラエに説明するため再度魔石を再生に取り掛かった。
まだ救いに行きません。
なかなか先に進みませんがよろしくお願いします。