肘をつく男
コーヒーとミステリー小説
何にも増して、素敵な取り合わせだ。
これを飲みながらそれを読む
男にとって、至福のときだった。
テーブルに右肘をつき
コーヒーを口に運びながら
男は、お気に入りの短編のページをめくった。
いつか自分もこんな小説を書いてみたい。
巧妙な筋立てと、シンプルな台詞の言い回し。
男は、何度も唸った。
コーヒーのおかわりをするため
男は、読みかけの頁に栞を挟もうとテーブルに目をやった。
しかし栞は見当たらなかった。
テーブルの下を覗き込んだが
落ちた様子も無かった。
読みかけの頁に指を挟みながら
男は、不思議に思った。
確かに本を開いた時、栞をテーブルの上に置いた。
何故、忽然と姿を消したのか?
お気に入りの短編のストーリーよりも
栞の行方が気になり始めたその時、
男は、何気なくふと自分の右肘に目をやった。
さっきまでそこにくっついていた栞が
丁度そのタイミングで右肘から離れ
ヒラヒラと舞いながら、男の足元に落ちた。
男は、栞を拾い上げ
いつか、消えた栞を題材にした短編を
書いてみようと思った。