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逆さ虹と嘘つきの森  作者: 佐倉杏
9/9

だいすき

更新が遅くなって、本当に申し訳ありません!

 女神は、周囲の嘘を呼び集め、アライグマちゃんと相性が良く、なおかつあたしか、あるいはコマドリちゃんとも相性のいい嘘を探し始めた。

 そして数多の輝きの中から、小さくも美しい一つを選び出した。


「最後にもう一度確認するわ。本当に、いいのね? 危ないわよ。私に任せてくれれば、時間はかかるけれど、必ず……」

「くどい」


 私は女神の言葉を一刀のもと切り捨てる。女神は苦笑し、そっと、光を私たちの方へと差し出した。

「あなたたちに、女神の加護を」


 光があたしの中に入ってきた。そしてあたしは……







 また、あの子だ。

 由依ちゃん。ダイゴの娘。あたしは今回も由依ちゃんの中にいる。


「嘘つき! ママの嘘つき!」


 由依ちゃんが叫んでる。ママにすがりついて、滂沱の涙を流していた。そこはあまりに白すぎる部屋。ここがどこなのか、それは由依ちゃんの知識でもわかった。病室だ。六つあるベッドのうち、窓際の一つ、そこに紛れもなくダイゴが横たわっていた。口元を機械で覆い、たくさんの管が体から伸びている。近くであれだけ騒いでも、ピクリとも動かない。

 けれど、ゆっくりと、しかし確実に、その胸は上下に動いている。


「パパはサンタさんのところって言ったじゃない! どうして、パパは目を覚まさないの? パパは、パパは、死んじゃうの?」


 ママは静かに涙を流していた。そして由依ちゃんを抱きしめる。


「ママのバカ! 嘘つき! ママなんて大嫌い!」


 由依ちゃんがそう叫んだ時、あたしの胸の奥にどす黒い感情が渦巻いた。嘘つき。大嫌い。二度と顔など見たくない。


(……違うわ)


 ママが嫌いなんじゃない。パパが大好きだから、いなくなるのが辛いんだ。頭できっと、彼女も理解してる。でも声は、体は、ママの優しい言葉を拒絶する。


 ――嫌いだ。嫌いだ。みんないなくなっちゃえ。


 頭のどこかで誰かが言った。そんなこと、ちっとも思ってないくせに。


 ――そんなことない。本心だ。俺は、お前らが大嫌いだ。

 ――そう? あたしは、アライグマちゃんが大好きだけど。


 頭の中で鳴り響いていた声が、一瞬止んだ。一瞬だけ。


 ――う、嘘だ。

 ――嘘じゃないってことくらい、アライグマちゃんもわかってるはずでしょう。


 あたしはアライグマちゃんの嘘を笑い飛ばす。だって、友達だもの。本心がそこにないことくらい、顔が見えなくったってわかるわ。


 ――もう大丈夫だよ、アライグマちゃん。さぁ、一緒に帰ろう。







「アライグマちゃんは!?」


 目を覚ましたあたしの第一声は、それだった。あたしの顔を覗き込んでいたコマドリちゃんが安心したように肩をすくめた。


 あたしたちは慌ててアライグマちゃんのところへ駆け寄る。しかしアライグマちゃんは眠ったままだ。

 そんな。だめだったの? 絶望して女神を見上げる。すると彼女はあたしの頭を優しく撫でて、

「ううん。成功よ。この眠りは、普通の眠り。すぐに目を覚ますわ」


「……!!」

「やったあっ!」


 あたしとコマドリちゃんは飛び上がって歓声をあげた。よかった、よかった、本当によかった!!


「よかった。おめでとう」


 にこやかに言ったダイゴの顔を見て、あたしは急に夢の内容を思い出した。


「ダイゴ!」

「は、はい?」

「今すぐ日本に戻って!」

「はい?」


 あたしは由依ちゃんの記憶について説明した。白い病室。繋がれた管。動いている心臓。ダイゴは、まだ生きている。幽霊じゃない。生き霊だったのだ!


「今すぐ戻れば、生き返れるかもしれない! 心臓が動いてるうちに、早く!」

「は、早くって言われても、どうやって帰れば」


 あたしの勢いに気圧されたみたいに両手を上げてダイゴが聞いた。


「虹を渡りなさい」

 教えてくれたのは女神だ。

「虹は日本に繋がってる。あなたがまだ生きているなら、虹を渡れば、向こう側に戻れるはずよ」


 でも急いだ方がいい。女神はそう続けた。日本から森にやってくる記憶は、少し前のもの。ダイゴの心臓はいつ止まってもおかしくない状態だった。


 ダイゴは湖の中心から伸びる虹に足をかけた。すると虹はダイゴの足をしっかりと受け止めた。

 愛する娘のところへ、妻の待つ家へ。ダイゴは虹を登っていく。ダイゴが足をかけ進んでいくと、背後の虹はゆっくりと姿を消す。世界は彼の選択に、後戻りを許さない。


 ダイゴは最後に、一度だけ足を止めた。


「リスちゃん! コマドリくん!」


 ダイゴは大きく手を振った。


「色々と、本当にありがとう!」

「こちらこそ、助かったわ!」

「アライグマを助けられたのは、ダイゴのおかげだ」

「またいつか、どこかで」


 逆光で表情はわからないけど、彼は笑っていたのだと、あたしは断言できる。








「アライグマちゃんっ! 覚悟!」


 暗がりの中、あたしは小声で叫ぶ。隣にいたコマドリちゃんがしーっとあたしを叱咤した。


「静かに。来たよ」


 あたしたちは息を潜めて物陰に身を隠していた。そこにアライグマちゃんがやってくる。


「おーい、俺が来たぞ!」


 でもあたしたちは返事をしない。その代わり、アライグマちゃんの目が地面に書かれた字をみつける。


『こっちだよ』

 それはヘビちゃんの筆跡。アライグマちゃんは矢印の方へ進む。


『あっちだよ』

 キツネちゃんの文字。


『ここを右』

 クマちゃん。


『上を見て』

 コマドリちゃん。


 アライグマちゃんが上を見る。するとそこには、明らかに何かに繋がった蔦。そこにはあたしの字で、『危険、絶対引くな』と書かれていた。

 アライグマちゃんは引く。当然引く。すると。


 上の仕掛けがパカッと開いて、中からたくさんの花びらと、あたしとコマドリちゃんが降ってきた。

 他の、サイズが大きくて中に入れなかった子たちは、近くの草陰から飛び出した。


 あたしは空中でクルンと回って、アライグマちゃんの手の中に着地する。


「おかえりなさい、アライグマちゃん!」







 こうして逆さ虹の森に、日常が戻ってきた。これまでと少し変わったのは、森にこんな噂が流れたことかしら。

 なんでも、行方不明になった動物を探したければ、オンボロ橋を超えろ。そこにはどんぐりの女神がいて、助けてくれるんですって。


 本当かしらね。


お読みいただいて、ありがとうございます。


タイトル等からもわかると思いますが、これは冬童話に出すつもりで書いていたんです。

しかし全然書くことができず、結局こんな時期まで伸ばしてしまい……。読んでいただいてる方には申し訳ないことをしました。


このお話はこれでおしまいです。

童話らしい、素直な内容になっていたでしょうか。

楽しんでいただけたなら、幸いです。

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