その2
九十九が電話をに出るところからです。
「はい、もしもし。こちら、九十九データ解析研究所です。」
「夜分遅く失礼します。私、内閣銃器・薬剤取締特別室室長の東崎と申します。」
「あ、どうも、手紙のほうは拝見させていただきました。」
「ありがとうございます。本当に突然のお知らせで申し訳ございませんでした。」
「いえいえ、こちらこそ仕事のご依頼はいつでも受け付けておりますので。」
「で、ご協力いただけませんでしょうか。」
「そうですね、今は、別ののデータの解析がありますので、本日中にお伺いすることはできませんが、明日にもお伺いさせて頂きます。」
「本当にありがとうございます。ご迷惑をおかけします。」
「いえいえ、では明日宜しくお願い致します。」
「では失礼させていただきます。」
少し、いらだった九十九は乱暴に子機を充電器の上に置き席に戻る。
「さて、急いでプログラムを組んでしまわないとなりませんね。」
さっきよりももっと速いペースでキーボードを打つ音が聞こえる。それとともに地下1階から重く低い音がし始める。処理が本格的に始まったということである。
処理のプログラムも終わりあとはコンピューターにまかせっきりになったところで、九十九はふとさっきの東崎からの電話を思い出して考える。
「拳銃ですか、難しいテーマですね。データを集めるためには行政だけではだめですからね。どうするとデータを集められますかね、ちょっと頼んでみますか。」
九十九は電話の子機のワンタッチダイヤルボタンを押して、電話を掛けるとき、不気味なほどの静寂が家に訪れる。
「はい、こちら情報システム監視制御システム管理センターです。」
「あ、どうも、九十九です。仲田さんをお願いします。」
「かしこまりました。そのままでしばらくお待ちください。」
電子オルゴールの無機質なきらきら星がスピーカーから流れる。
「お待たせしまして申し訳ございません。情報システム監視制御システム管理センターセンター長の仲田盛優です。」
「ご無沙汰してます。九十九です。」
「あ、どうもいつもありがとうございます。そういえば、私コンサートのチケットをもらったんですよね。どうですか?」
「いただければ嬉しいです。」
「わかりました。では、郵送しておきますね。で、ご用件は何でしょうか。」
「少し、いろいろあって、拳銃の闇取引に関する、データがほしいんですよ。」
「わかりました。何か月前のものからが良いでしょうか。」
「23ヶ月前のものからお願いします。」
「わかりました。センターの方でまとめておきますので。」
「明日中には取りに伺います。」
「では、チケットもその時お渡しますね。」
「お願いします。」
九十九は子機を置くと、仲田が話していたチケットのことを考える。仲田がコンサートのチケットをくれるときは、仲田が2枚組でチケットをもらったときである。そのため、仲田と一緒にコンサートに行くことになる。その道すがらの会話は、九十九が考えておいた最先端の物理理論の話と、仲田が調べておいたこれからの演目についてになることが暗黙の了解で決まっている。
そのため九十九は、コンサートの詳細について一切調べずに行く。そして、仲田からの情報のみを頼りに、作曲者の意図などをくみ取ろうとする。
また、物理理論については九十九もうろ覚えの部分を確かめる必要があるので時間がかかる。しかし、今日は九十九も疲れ切ってしまったので、また明日にでもしようと思い、一階の寝室へと階段を下りて行った。