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その1

規則的に物を切る音が台所に響く。この音を立てているのはこの家の主、九十九剛人つくも たかと。そして今作っているのは、炊き込みご飯と、筑前煮、里芋の煮っ転がし。今日の夜ご飯だ。奥からは、今日あった事故のニュースをラジオが騒ぎ立てている。

「…この事故で、東京都在住の公務員、河辺久理子かわべ くりこさん27歳が意識不明の重体です。…」

止まることがないのかと思われるほど長く続いていた音がラジオが被害者の名前を告げたときにふと止まった。

「ん?聞き覚えのある名前ですね。河辺、河辺…うーん。誰でしょう。知っている気がするのですが…。小学校の友達でしょうか?」

 しかし、それも一瞬のことですぐに米をとぎ始めた。九十九は基本無洗米を使うが、ご近所さんからのおすそ分けがある時には米をとぐ。台所に響く音は、この家に住んでいる人が一人であることを毎日、実感させる。

 米をとぎ終わった九十九はこれまでに切った食材や調味料の確認をして米を炊き始めた。

 今日の夜ご飯は、10:00過ぎであろう。いつも、九十九の夜ご飯の時間は、11:00であることから考えると、少し早いかもしれない。

「今日は、少し早く仕事が終わったので、ご飯が早いですね。もう一品つくりますか。」

 台所の横にある冷蔵庫を開けて中をみる。これといって特殊なものはないが、九十九が整理好きなこともあり、冷蔵庫の中は一瞥しただけで今あるものないものがわかるようになっている。

 もう一品、イカを使って作るようだ。九十九の仕事は、データ処理と、プログラミングである。家でできる仕事であるため、基本、九十九は家で仕事をしていることが多い。

「何か仕事を忘れているような気がしてなりませんね。」

 台所に包丁を置いて、小走りに台所のドアの方に向かう。

 九十九の家のドアにはタブレットが埋め込んであるものがありそこで、メールや仕事の確認ができる。しかし、九十九は基本まわりとの関係を強く持とうとしようとしないので、仕事の確認に使うことが多い。

「あー、そうでした。WMAP衛星から来たデータの処理を頼まれていたのでした。これは、徹夜になりそうですね。」

 九十九のデータ解析能力には、定評があり、各国の天文機関がデータ解析を頼んでくることも多い。このWMAP衛星とは、宇宙マイクロ背景放射をこれまでよりも細かく撮影するためにアメリカが打ち上げた人工衛星である。

 そのとき、突然家中にけたたましい電子音が鳴り始めた。

 九十九の家には、料理の途中でいなくなると家中のアラームが鳴る仕組みがある。

「ササッと食べて、分析をしましょうか。困りましたね。」

 しかし、こんな日に限ってうまくいかないことは重なるものだ。インターホンの電子音がダメ押しをするように家中に響く。

「はーい。」

「郵便でーす。」

「遅いですね。もう10:00になろうとしているのですが。」

「こちらになります。」

「ご苦労様です。」

「失礼します。」

「何何。突然の夜遅くの手紙、無礼をお許しください。私は、貴男あなたと小学校の時、同級生だった、東崎太吾ひがしさき たいごです。本日、貴男に会いに行こうとしていた、美海さんが行けそうにないとの連絡を受けましたので、筆を執らさせていただきました。…」

「なんだかめんどくさそうな手紙ですね、後で読むことにしましょう。さて、早くご飯を食べてしまいましょう。いただきます。」

 九十九は、まだ結婚していない。しかし、自身のデータ解析技術によって、ほどほどの富を持つようになり、独身男性にしてはとても広い家を持っている。

「さて、食べ終わったことですし先ほどの手紙の続きを読んでみますか。」

…実は、日本の国の中には、拳銃を取り扱っている市場が現在も存在し、その規模はだんだんと拡大しています。このたび私たちは、このような市場の現状を調べることを秘密裏におこなっております。このたびその市場規模につながる膨大なデータを入手いたしました。それにつきまして、データ解析のプロフェッショナルである、九十九様にこのデータを解析していただきたい次第であります…

「やれやれ、また仕事の依頼ですか。後で返事をするとしますか。まずは、WMAP衛星のデータ解析が優先ですね。」

 九十九の家の一階は、居住スペースになっていて、二階が仕事のスペースである。また、地下一階には、サーバーがおいてあり、二階で命じた処理を行う部屋となっている。

 九十九が階段を上る時、足元の感圧板が反応して上の仕事部屋の電気が自動でつく。そのため、一番最初の踏み板を踏むときだけ家にスイッチを踏んだような音が響く。

「さて、やりますか。」

 家にキーボードを打つ断続的な音が響き始める。

 九十九の仕事は始まると4~5時間は続く。

 しかし、九十九の仕事を邪魔するかのように始まって15分もしないうちに電話の着信音がなる。九十九はしぶしぶ、仕事の手を止め電話機の子機に手を伸ばす。

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