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キャッスル襲撃(中)

洞窟の前に四百人もの兵士が規則正しく並んでいる姿は圧巻だった。皆が見つめる先には熱い言葉を発するマリクさんがいた。


「お前達の使命はなんだ! お前達は何の為に厳しい訓練を毎日受けている! そう! この日の為だ!」

マリクさんはそこで言葉をいったん切ると、兵士達を見回してから言葉を続ける。


「お前達の父、母、妻、子供達、兄弟達。魔物はそれを蹂躙しようとしている! 俺はそんなことは絶対に許さん! お前達はどうなんだ!」


兵士達から熱がこもった「オォー!」という雄叫びが上がる。


「この中の百名程は魔物と対峙しないかもしれない! だが俺達が洞窟に残った者達の心配をせずに、魔物討伐だけに集中できるのはお前達のおかげだ! 留守は任せたぞ!」


再度「オォー!」という雄叫びが上がると、満足そうに頷いたマリクさんを先頭にキャッスル軍は町の南西へ向け出陣した。おれはと言うとマリクさんに遊撃兵という扱いをお願いした。おれは一人の方がやりやすいからな。


エリスは洞窟に残る事となった。光魔法の使い手と言えども、さすがに戦場に連れて行くわけにはいかないとマリクさんが頑なに首を縦に振らなかった為だ。エリスもなかなか納得しなかったが、最後は眠っているリーザさんを守ってくれと言われて、渋々ながら洞窟に残った。


さていよいよこの世界に来て初めての大規模戦闘だな。ただおれは五人くらいまでなら一人でも対応できるがそれ以上になると一度に相手はできない。


幻術も幻術丸を使わないと複数にかけても雑になるだけであまり深くかける事が出来ない。草結びの術もそんなに大勢同時にはかけれないしな。


まあこんなことは言いたくないが多対一は想定してないってことだ。できるだけ一対一になるように立ち回らないと厳しい。



破壊された城壁を横目に南西に向かう。確かに西の森に多数の気の気配があるな。あと他よりも大きい気の反応がある。少し遠いので集団なのか一人なのか判定が難しい。一人としたらあんな大きい気の気配はこの世界に来て初めて感じた事になる。


「よし! ここに罠を張る」

前方に西の森が見える位置に差し掛かった時マリクさんが号令をかける。


兵士達が落とし穴を隠すように前に立ち見えない様にしている。その隙に魔法使い達が大小様々な落とし穴を作っていく。こうして見ているとただ落とし穴を作るだけだが、技量によって深さ、大きさ、早さが全然違うのが興味深い。


丁度落とし穴を作り終えた頃、西の森からぞろぞろと魔物が出てきた。先頭には黒フードの人型がいた。

「魔物が出てきたぞ! 下がれ」


マリクさんが号令をかけると、落とし穴ゾーンの後ろに陣取る。それにしても一部少数だが別行動をとっている魔物がいるな。おれが気を探ると西の森から町の方へ向かっている一団がいる。挟撃するつもりか? しかし動きは遅い。とりあえず目の前の敵が先か。


先頭にいた黒フードの人型が一歩前に出てくるとフードを外した。人型の顔が露わになる、中から現れたのは耳は鋭く尖り鼻が長く伸びた目つきの鋭い小男だった。


エルフではないなドワーフでもない。おれが見た事が無い種族だ。


「ま、魔族!」

どよめきと共に兵士から声が上った。


「そう、私は魔王様配下の魔族エイン。以後よろしく」


「ほう、言葉を話せるのか? 俺はキャッスル領の領主マリク・ジュラフ・キャッスルだ。魔王配下と言ったな魔王の封印は解けていないはず、お前は誰の差し金だ」


「確かに魔王様はまだ眠っておられます。ですがここに魔王様の目覚めを早くできる鍵があると判明しましてね。その鍵を頂きに来たついでに、私が開発した新しい魔物の実験をさせていただきます」


「そんな鍵の話は聞いたことが無いし、もしあったとしてもお前に渡すわけにはいかん!」


「こちらも穏便に鍵を渡してもらおうとは思っていませんのでご安心ください。まずは町を破壊しお次は町を守る兵士達を殺し最後に何の力もない女、子供を殺しましょう。自分達を守るモノが何もないと知った時の絶望の表情がたまらんですね」

そう言うとクックックと愉快そうに笑った。


それで合点がいった。一度目の襲撃で町の人が無事だった理由も、特定の建物だけが破壊されていた理由も絶望を味わわせる為だったのか。まったくどこの世界でもクズ共は自分の欲望を満たす為なら労力を惜しまないな。


「出来るものならやってみろこのクズが! 俺の魔法剣ヴィブラツィオーネで全員ぶった切ってやる」

今にも一人で飛び出しそうなマリクさんをラシャさんが抑える。

「マリク様、作戦通りに」


「そうだったな。つい頭にきてしまった。魔法使いは魔法の用意を! それ以外のものは作戦通り一体につき三人で当たれ」

マリクさんの号令と共についに戦闘が始まった。



落とし穴ゾーンを挟んで魔物軍と対峙している。「放て―!」マリクさんの号令で魔法使い達が魔法を放つ。


「遠距離攻撃ですか、厄介ですねしかしこいつらはその程度では死にませんよ」

魔物達もエインの指示でこちらに突進してくる。遠距離攻撃を想定していたのか、赤鬼が巨大な盾を持ち、仲間をかばいながら突進してくるのであちらにあまり被害はないようだ。


「チッ、やはり統率された魔物は厄介だな。普通はあんな盾でガードする知能は無いはずなのにな。皆ギリギリまで誘い込め! 歩兵は盾を避けるように矢を放て」

こちらも盾を避けるように矢を放つがやはり普通の武器はあまり効果が無いようだ。


ついに赤鬼を先頭にした魔物達が落とし穴ゾーンに到着する。

ここからどうなるかみんな固唾をのんで見守っていたがマリクさんの狙い通り、魔物達は警戒することも無くその勢いのまま続々と落とし穴に落ちていった。

「よっしゃー!」「うまくいったー!」歓声が沸くと同時にマリクさんの号令が響く。

「よし今だ! 前進して残りの敵を打ち取れ!」


「落とし穴ですか姑息な真似を、お前達は落とし穴に落ちた者を足場にして進みなさい」

エインはさすが魔族というか人間離れした思考で、落ちた者を足場にしてそのまま魔物をこちらに進撃させるようだ。


そこからは意外と一方的な展開になった。戦力が万全なキャッスル軍と仲間が減った魔物軍とでは勢いが違った。魔物一体につき作戦通り三人で対応し、魔物が減った分対応する人数も増え効率よく魔物を殲滅していった。


「マリクさんここは大丈夫そうですね。おれはエリスが心配なのでそちらに向かいます」


「そうかすまんが頼む、俺もここを片付けたらすぐに向かう。あとは魔王の配下だけだが、あれ? あいつどこ行った?」


「先程までそこにいましたけどね」

そう言うとおれはエリスの方へと急いで向かった。先程感じた大きな気の気配がエリス達の居る洞窟へと向かっていたからだ。



建物の陰から陰へ音も気配も殺し移動する。先程感じた大きい気の気配が近づいてきている、おれは呼吸を整え慎重に近づいていった。


大きい気の気配の正体は魔物の集団だった。先頭を歩いているのは先程見かけた魔王の配下エインだ。いつの間にこんなところまで来たんだ? エインの後ろからついて来ている魔物は赤鬼八体と青鬼二体だけだった。これなら不意を突けば何とかなりそうだな。


まずおれは魔物の集団の前方に向けて「鐘囮の術」を唱える。すると前方の方でゴーン、ゴーンと鐘を突く音が聞こえた。魔物の集団は立ち止まり鐘が鳴った前方に注視している。その隙に後ろにいた五体の魔物に対して「根縛りの術」を使う。根に絡まれた魔物は口を塞がれ声を上げる間もなく干からびて死んでしまった。


これで残りは五体とエインか。異変に気が付いたエインがおれを見つけ叫ぶ。

「き、貴様何者だ。それに俺の傑作達が……ゆるさんぞ! お前達いけ!」


「根縛りの術」エインが魔物をけしかけようとする前におれは先手を打ち術を発動させた。全員にかけたつもりが三体にしか掛からなかった。やはり同じ術を続けて使うと何故か精度や威力が落ちる。青鬼と赤鬼が一体ずつ残ったか。


赤鬼が何やら叫びながら自慢の金棒をおれに向けて振るう。さすがは赤鬼と言ったところか、そのはち切れんばかりの筋肉に見合う動きで木の棒でも振るうかの軽さと速さで金棒を振るう。


おれの目の前を黒々とした武骨な金属が通り過ぎる。何とか赤鬼の金棒を躱しこの間マルコに作ってもらった棒手裏剣に気を送ると赤鬼のこめかみに向けて放つ。


「セィ!」おれの放った棒手裏剣は、赤鬼の眉間に音もなく突き刺さると「ア゛」とだけ声が漏れ崩れ落ちた。

息をつく間もなく背後から濃い魔力の気配を感じたおれは、躱すのではなく大きく避けるように横に飛んだ。飛んだ瞬間おれが居た位置に何かが飛んできてそのまま倒れていた赤鬼の体を真っ二つにした。


危ない軽く避けるのではなく大きく避けてよかった。あれは確か「線水」という魔法だったな。水魔法では珍しく破壊力の高い攻撃魔法で切断することに特化した魔法だ。


「線水」が飛んできた方を見ると青鬼の後ろにエインが隠れるように立ち何やら集中していた。おれは青鬼を「火球の術」で始末するとエインに向け叫ぶ。


「お前以外は全員倒したぞ! 大人しく投降しろエイン!」


目を瞑り何やら集中していたエインはその言葉ににやりと笑った。

「エイン? ああ兄貴の事か。俺はビルツ。エインの双子の弟だ。それにしてもお前面白いな、その赤鬼は特に頑丈で魔法も効きにくく、普通の武器では体に傷をつけることもかなわないはずなのに一撃で仕留めるか」


「弟がいたのか」

ビルツはさらっと言ったが双子だったのか、そっくりすぎてどちらがどちらか見分けがつきそうにない。


「それにしてもお前さっき俺以外は全員倒したって言ったな? 残念! 俺達双子だけが使える魔法があってね」

ビルツが「ゲート」と唱えるとビルツの隣の空間が割れ、漆黒の闇が現れた。


あの空間はなんだだろう不気味な気配がして、今にも吸い込まれそうな漆黒の闇が渦巻いている。おれがその漆黒の闇を見つめていると、漆黒の闇からのそりと赤鬼が現れた。


赤鬼を皮切りに青鬼、鉄喰い蜘蛛などもあの空間からぞろぞろと現れた。


「はーっはっは、これが俺達双子だけが使える魔法「ゲート」だ。兄貴と俺がいる空間を繋げ自由に行き来することができる」


なるほど、前に聞いた校長室にある転移陣のような魔法か。便利な魔法だがおれにとっては非常にマズイ状況だ。いったん引いてマリクさんと合流した方がよさそうだな。


おれが撤退の算段に付いて考えていると後ろから「オオー!」という鬨の声が聞こえる。

「シンタロウー! 加勢に来たぞ! 皆の者! 先程と同じ要領で行くぞ!」

どうやらマリクさんが加勢に来てくれたようだ。


おれはマリクさんに声をかけた。

「マリクさん助かりました。ちょっと魔物の数が多くて」


「そうみたいだな。あっちはもう片付いたから安心しろ」


「ありがとうございます。どうやらあの漆黒の闇から魔物が送られてくるようです」


「「ゲート」か初めて見たな。あの魔法は術者が二人必要な魔法でかなり相性のいい術者が二人いないと使えない。術者間をあのゲートで行き来で切るようにする魔法だ。」


「そんな便利な魔法があるんですね。それとどうやらあいつはエインではなく双子の弟のビルツという魔族のようです」


「なるほど、合点がいった。双子なら「ゲート」が使える可能性はあるな。という事は片割れの居る方に魔物が大量にいるか。近くに転移門があるかだな」


「転移門?」


「ああ転移陣とはまた違う仕組みの魔道具だ「ゲート」と違い長距離も繋ぐ事が出来る。転移門の近くに片割れがいてそこから「ゲート」を繋いでいるんだろう」


「なるほど。しかしそれじゃ元を絶たないときりがないんじゃ?」


「その通りだ。どちらか片方の術者を倒せればゲートも消えるからあのビルツとか言う魔族を集中的に狙えればいいんだが……」

そう言ってビルツの方を見るが漆黒の闇から魔物がどんどん出てきて、出てくるたびにビルツを守るように囲みとてもビルツだけを狙えそうにない。


「もう片方の術者をやるしかないか。おれが行ってきますよ」


「エインの方か。しかしシンタロウ一人に行かせるわけにはいかん」


「あいつ一人なら大丈夫ですし、魔物が大勢いるようでしたら様子見だけして撤退します」


マリクさんは少し考えた後、ひとつため息をつき許可を出す。

「それしかないか、しかしシンタロウくれぐれも安全第一でな」


「大丈夫です。忍者は遁走にかけては随一ですからね」


「こちらも洞窟の守備に当たらせている者を半数ほど呼んでおく。シンタロウがエインの居場所さえ押さえてくれれば、そいつらと共に向かう」


「わかりました。では早速行ってきます」


「頼んだぞ!」


おれはマリクさんに後を任せるとエインを探すことにした。

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