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シスターの秘密

 ◇◇◇


 俺はリンザイ・アド・リグリッド子爵。今日も薬屋が俺の屋敷に金を届けに来る。魔力回復薬をまた値上げしたから、俺の方にもその分の金が自動的に入ってくるのである。


 俺はただ権力を使い、他の薬屋に魔力回復薬の材料がいかない様に細工する。たったそれだけで莫大な金が俺の懐に転がり込んでくるのだ。

「子爵様約束のお金をお持ち致しました」


「商人かよく来たな。座れ」

 俺はいつも通り商人をソファに座らせ、渡された金貨の確認をする。


「今回はなかなか多いな」


「はい魔力欠乏症の患者がまた増えましたので、その分多くなっております」


「そうか素晴らしい」


「そこでご相談なのですが、また金貨二枚分ほど値段を上げようと思っているのですが、いかがでしょうか?」


「それぐらいなら問題にならんだろう」


「ありがとうございます。それでは上乗せ分は一個当たりさらに一枚追加でいかがでしょうか?」


「それで構わん」


「ありがとうございます」


「ところでお前にもいい物を見せてやろうか? 俺の金貨がどのくらい貯まったのか。お前も金貨を見るのは好きだろう?」


「もちろんです。でもよろしいんで?」


「俺も誰かに自慢したい気分なんだ。さあついてこい」

 俺は部屋の本棚の本と本の間に別の本を差し込む、すると静かに音を立てながら本棚が右に移動すると地下へと向かう階段が現れた。


「こっちだ」

 商人を連れ階段を降りる。階段を下りた先に扉があり商人に先に行くように促す。


「うわー!」

 扉を開けた商人の感嘆の声が聞こえ、俺の優越感が満たされる。扉を抜けた先には所狭しと金貨が積まれており、金貨の輝きで辺りが照らされるほどだ。商人がごくりと唾をのむ音が聞こえる。

「こ、これはいかほどあるんですか?」


「数えた事は無いが三万枚以上はあるんじゃないか」


「さ、三万枚……」


「ふふふふふ、眼福眼福」

 俺は優越感と満足感の入り混じったいい気分で、自然と笑みがこぼれた。


「けどこれって魔力欠乏症の人から搾り取った金ですよね?」

 商人が俺の方を見もせずに失礼な事を言う。


「そりゃあいつらはそうしないと死ぬから仕方がない」


「治療する方法が見つかったんですよね?」


「本当かどうかもわからん情報を、王に報告するわけにもいかん」


「口封じにシスターを殺そうとしたんですよね?」


「不慮の事故だ。例の毒をあの娘が間違えて飲んだだけだ」


「魔力欠乏症で死んだ者に何を思いますか?」


「お前さっきからなんだ! 意味の分からない質問ばかりして! 無礼だぞ!」

 そう言い俺が商人の肩に触れた途端、商人は金色のドロドロしたものに変わり溶けてしまった。

「うわ!」

 驚いて声を上げると声が反響したのか「うわ!」と俺の声がもう一度聞こえた。


「なんだ一体」そう呟くと、周りの異変に初めて気がついた。

 先程まで金貨が山積みだった部屋に金貨は無く、金貨の変わりに人間の口の部分だけが切り取られたような異形の口が大量に積み重なっている。


「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」

 俺がそう呟くと異形の口が同じ言葉を次から次へと発する。


「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」「これは一体なんなのだ俺の金貨は……」


「うわーやめてくれ耳がつぶれる」始めは小さかった声も徐々に大きさを増していき、とてつもない大きさの声になった。さらに小さな部屋なので反響し、ただの声はもはや凶器となっていた。


 俺が呟いた声はすべて繰り返され、反響し凶器と化す。しかし俺もバカではない、俺が黙れば異形の口は声を発しないことに気が付き慌てて口を閉じ耳を塞ぐ。


 恐怖心がそうさせたのだろう、自身が耳を塞ぐと同時に目もつぶっていたことに気が付く。耳を塞いでいるおかげか、先程の凶器の声は聞こえてこない。恐る恐る目を開けると、俺を囲むように異形の口が浮かんでいた。何とか悲鳴を上げるのを堪えたが、異形の口が何か言っている様に動いている。さらに強く耳を塞ぐが徐々に何か聞こえてくる。


「そんなに金が欲しいか」「金の亡者」「お前のせいで娘は」「クソ貴族」「苦しんで死ね」「死ね」「息子を返せ」「絶対に許さん」「苦しめ」「呪われろ」「地獄に落ちろ」「呪」「魔物にくわれて死ね」「クソ金」「くたばれ」「ごみ貴族」「嘘つき」「人殺し」「末代まで呪われろ」「犯罪者」「嫌われ者」「陰気野郎」「一族の鼻つまみ者」「せっかくの闇魔法なのに」「状態異常魔法だけ?」


「それを言うなー!」

 俺は耳を塞いでいた両手を離し、思わず叫んでしまった。俺は学生の頃から状態異常魔法しか使えなかった。俺の属性が闇魔法とわかった時、喜んでくれた家族すら状態異常魔法しか使えない俺を鼻つまみ者として扱った。


 親父が死に俺が家を継いだ際に、取り巻きの貴族達は一斉に俺のそばを離れた。俺が継いだせいでリグリッド家は終わりだともいわれた。だが俺には金を稼ぐ才能があった。


 しかしいつからか俺は真っ当な方法で金を稼ぐのをやめていた。汚い方法で稼ぎ財を築いたがそれは何になるのだろう? 俺の心は満たされていたか? 今思えばあの商人に出会ってから汚い方法で金を稼ぐようになった気がする。あいつとはどこ出会ったんだ? あいつの名前はなんだったっけな? あいつは一体何者なんだ? あいつは……。



 ◇◇◇


 大分混乱しているようだな。しかしひとつ気になる言葉があったな。シスターを殺そうとした? 間違えて毒を飲んだ? 慌てて部屋を見渡すとシスターのそばにミトさんがいた。


 そして先程までへたり込んでいたはずの商人が消えている。あの商人が何者かも気になるが今はシスターの方が先だ。


 シスターのそばに駆け寄るとミトさんが真っ青な顔でシスターを揺さぶっているが、そこにいたのはシスターではなくソフィーだった。

「あれ?なんでソフィーが」


「お嬢様! お嬢様! しっかりしてください!」


「ミトさんこれは一体? シスターはどこに?」


「詳しい話は後にしてください!」


「お嬢様が目を覚まさないのです! 呼吸も荒く顔色も悪いです!」


「ミトさん落ち着いてください! 毒を盛られたのかもしれません。解毒薬は?」


「すでに上級解毒薬も飲ませましたし念のために回復薬も飲ませました! ですが一向に状態が良くならないのです! 上級解毒薬が効かないことを考えると、毒魔法使いの毒を盛られたとしか……」


「神聖魔法で解毒するしか?」


「そうです。それと毒魔法使いが作った解毒薬も効きます」


「毒魔法使いの解毒薬か……たしかあの時のやつが」

 おれはマジックポーチの中を探す――あったジャニスの解毒薬だ。


「ミトさんこれを、毒魔法使いの解毒薬です」


「一応鑑定させてください……たしかに解毒薬のようですね。お嬢様いますぐ!」

 ミトさんはおれから解毒薬を奪うと、すぐに鑑定しソフィーに飲ませた。


 おれとミトさんが固唾をのんで見守っていると、ソフィーの呼吸が落ち着いたものになり顔色も赤みを帯びてきた。おれとミトさんは互いに顔を見合わせ喜んだ。


「よかった」「シンタロウ様ありがとうございます!」


「それにしても毒魔法使いの解毒薬もっててよかった」


「シンタロウ様には何とお礼を言っていいか……本当にありがとうございます」


 お互いひとしきり喜んだところで、ミトさんにソフィーの事を聞く。

「ミトさんシスターがソフィーだったのは一体? 年齢も容姿も違いますよね? 髪の色は一緒ですが」

 ミトさんが言いづらそうに黙ってしまった。


「ミト、私から話すわ」


「お嬢様! 意識がお戻りに!」


「あなた達が騒がしいから起きてしまったわ」


「よかったです」

 ミトさんがソフィーに抱き着き涙を流す。


「ソフィーったら大げさね。さてシンタロウありがとうお礼を言っておくわ。あなたには大きな借りを作ってしまったわね」


「借りとかそんなの気にしなくていいよ。ソフィーが無事でよかった」


「そう、まあこの話は後にでも。シスターと私の話よね。これを知ってしまうと、他言した場合は罪に問われるわ。それでも聞く覚悟はあるの?」


「すでに片足突っ込んでるしね。それにおれは口は堅い方だ」

 ここで聞かなくても気になって自分で調べると思うしな。


「わかったわ。シスターは私の大人になった姿なの。そこで苦しんでいるリグリッド子爵が持っている指輪に秘密があって、その指輪は王家の秘宝の魔道具なの。装備した人物の姿を二十歳前後の姿に変化させる指輪なのよ」


「なるほどそれでリグリッド子爵が若返ったのか」


「この指輪の事も重要な秘密だけど、もっと重要なのが私が神聖魔法を使える事なの」


「シスターが使っていたって事はそう言う事なんだろ。才ある者がセス教皇国で洗礼を受けたら使えるようになるって、この間授業で習ったばかりだ」


「私、洗礼は受けていないの」


「ん? なら神聖魔法は使えないんじゃ?」


「普通は使えないわ」


「それならセス教皇国にとっては常識を覆す存在ってことかセス教皇国にソフィーの存在がばれたらまずいから秘密に?」


「セス教皇国も私の存在を知っているわ。今までに無い事だからこちらから問い合わせたそうよ。そ、そしたらね……」


 今までスラスラと事情を説明していたソフィーの顔が赤くなり恥ずかしそうに言う。

「そ、そしたら聖女としてセス教皇国に来て欲しいって……」


「せ、聖女!」


「なんでもセス教皇国には、洗礼を受けずに神聖魔法を使える者の事を聖女と言って、いつか平和をもたらすという伝説があるらしいの。各国に無償で教会を建てている理由の一つがその聖女を探す為でもあるそうよ」


「なんかすごいな。聖女って……」


「まだ聖女と認定されたわけではないわ。聖女と認定されるには、十五歳を過ぎてからセス教皇国へ行って、認定の儀を受けないといけないわ」


「でもなんで秘密にしてるの?」


「聖女の話はセス教の裏の教義なの。ごく一部の者しか知らないわ。万が一魔王の手の者に知られたら?」


「なるほど、平和をもたらす者は魔王にとっては危険な存在だな」


「そう言う事」


「なるほど、だったらなんでばれる危険を冒してまで町で神聖魔法を?」


「それは神聖魔法と言えども、普通の魔法と一緒で使わないと成長していかないからよ。それに都合よくこんな指輪も王家にあったし」


 そう言い指輪をつけるとソフィーからシスターの姿に変わる。

「ふふふ。これが二十歳くらいの私よ」


「ソフィーが成長したらその姿になるのか……ハッキリ言ってめちゃくちゃ美人だな」

 感嘆したおれは思わず本音をこぼしてしまった。


「び、美人だなんて……」

 おれのその言葉にシスターが赤くなる。その姿を見たおれもなんだか照れてしまう。


 お互い照れて言葉少なになったところで、ミトさんがおれ達に切り出す。

「お二人様そろそろ本題に戻ってください。このことを早くグランス王家とセス教皇国に知らせませんと」


「そうね。リグリッド子爵もこのままにしていられないし」

 リグリッド子爵は膝をつき両手で耳を塞いだまま白目をむき小刻みに震えている。あと半日はあのままだろうそのくらいで術の効果が切れる様にしてある。


 そのあとすぐに親衛隊がやってきて、リグリッド子爵を拘束し連れて行った。辺りを捜索したが商人は結局見つからなかった。あの商人が黒幕に違いないが一体何者なんだろう。


 ミトさんにしっかりと口止めされたおれは、今日はもうギルドに行くのは諦め、ごちゃごちゃの頭を整理しながら寮へと戻った。

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