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シスター危機一髪

 おれは今日も授業が終わると町に来ていた。


 まだ普通に生活できる分のお金は十分にあったけど、マルコから聞いたギルドで少し稼ごうと思ったからだ。


マルコの話だとギルドは平民街の北西で軍部の門の近くにあるってことだったけど、恥ずかしながらおれは少し道に迷っていた。


「なんかどんどん人気のない方に向かって行っている気がするな……いつもなんとなく道が分かるんだけど、今日はちょっと調子が悪いな」

 そうブツブツと呟きながら歩くが、一向に見知った道にはたどり着かない。


「あの角を曲がったらなんか変わりそうな気がするな」

 思い切って少し狭そうな道へ曲がってみることにした。こういう時は直感に従うと大体正解するものだ。


 角を曲がるとそこには修道服を着た人が倒れていた。

「うわ! 大丈夫ですか!?」

 おれは慌てて駆け寄り助け起こすと、倒れていた人は驚いたことにミトさんだった。


「ミトさんじゃないですか大丈夫ですか?」

 そう言いながらミトさんの様子を見る。息は――しているな。怪我とかは――していないな。血も出ていないし意識を失っているだけだな。専門ではないから詳しい状態はわからないが多分大丈夫だと思う。


「う、うーん」

 よかった意識が戻りそうだ。


「ミトさん大丈夫ですか?」


「あら? あなたはこの間の、ええとシンタロウ様?」


「そうですシンタロウです。ミトさんこんなところで倒れていましたけど、一体どうしたんですか?」


「倒れていた? 私はお嬢様といつもの様に町に出て活動を……! お嬢様が! お嬢様が!」

 ミトさんは記憶を少しずつたどるように呟くと急に取り乱した。


「ミトさん落ち着いてください! 何があったんですか?」

 おれは取り乱したミトさんの肩を掴むと落ち着くように言う。


 ミトさんは少しだけ落ち着きを取り戻すと、何があったのか話してくれた。


「お嬢様といつも通り町に出ていたのですが、いきなり覆面を被った者達に囲まれまして、お嬢様を人質に取られている隙に私はいつの間にか意識を奪われました。貴族街では気を張っているのですが、今思えば平民街だと思って油断していたようです。私ともあろうものが……なんという……すぐにお嬢様をお救いし私は自害致します」


「自害はしなくていいと思うけど、お嬢様を救うのには賛成です。おれも手伝いますよ。お嬢様ってあのシスターの事ですよね」


「そうですあの方です。しかしお手伝いしてもらうわけには……しかし今はそう言っている場合では……う~。仕方が無いよろしくお願いいたします」

 ミトさんは少しだけ悩んだがおれが手伝う事に同意した。


「どこに連れ去られたか目星はありますか?」


「それがお恥ずかしい話ですが、皆目見当もつきません」

 シスターを案じてか強くぎゅっと握った手が震える。


「そうですか……それならシスターのにおいの付いたものありますか?」


「においですか?」

 ミトさんの顔が急に険しくなる。


「変な想像はしないで欲しいのですが、特殊な技を使いシスターを追跡します」


「そうですか。シンタロウ様が変態でなくてよかったです。これなどいかがでしょうか? お嬢様の替えのハンカチで交換済みの物です」


「ちょっとお借りしますね」

 そう言うとおれはミトさんからハンカチを受け取ると、懐から臭視覚丸を取り出し一粒呑み込む。

「ここからは時間の勝負です。おれについてきてください」


 そう言うとミトさんから渡されたハンカチのにおいをかぐ、においをかいだ途端おれの目にはにおいが視覚的に表示されるようになった。おれの目にはハンカチから薄っすらと帯のようなものが空中に線を描いているのが見える。その中でも一番太く濃い線を追う。


「こっちです」

 ホントにここからは時間の勝負だ。嗅視覚丸の効果が切れるまで三分、早くしないと間に合わなくなる。


 ミトさんと共に太く濃い線を追う。ミトさんもおれの表情から時間が無い事を察したのか、余計な事は言わず黙っておれの後についてくる。


 どうやら町の外へ向かっているようだな。しかしここは人通りが多い。シスターを抱えていては目立つはずだ。


 こんな往来を目立たずに人を隠して移動できるという事は……商人に化けている可能性があるな。商人の荷馬車なら怪しまれず移動できるはずだ。


 門を抜け町の外へとやってきた。

「シンタロウ様どうですか? お嬢様は近いですか?」

 ミトさんが不安そうな顔で聞いてきた。


「あの森の中へ続いています。多分近いと思います」

 線が先程より濃くなってきているので、多分この近くだろうな。


「わかりました。引き続きお願い致します」

 そう言うミトさんに力強く頷き返し先に進む。


 森に入りしばらく進むと急に線が曲がり、横の道の方に続いているのが見えた。


「ミトさんいよいよ近いようです。慎重に行きましょう」

 おれが小声でそう言うとミトさんもわかったと頷き返す。


 少し進むと土魔法で作ったであろう急ごしらえの小屋が見えた。近くには荷馬車が置いてあり、小屋の入り口にはガラの悪そうな男が二人立っている。


 急に今まで感じていた草や土の臭いを感じなくなった。どうやら臭視覚丸の効果が切れたようだ結構ギリギリだったな。臭視覚丸は臭いが視覚的にわかるようになる効果があるが、副作用として臭視覚丸の効果が切れた途端、しばらく臭いを感じることが出来なくなる。


 ミトさんと作戦を立てる。ミトさんはそこそこの腕前で、冒険者の階級で言うと上級冒険者五人を一度に相手にしても引けを取らないと言っていた。それがどの程度かわからないが多分強いんだろう。それなら見張りは任せても大丈夫だろう。


 まずは見張りの気を逸らし、その隙に気絶させる作戦でいくことにした。小屋の内部が今の所どうなっているかわからないのでとりあえず見張りを倒して近づき小屋の中の様子を見るという事になったのだ。


「おれが敵の注意を引きつけます。その隙にお願いします」


「わかりました」


 小屋の西側の茂みにミトさんが待機するのを待って、おれは術を発動した。


「金遁:鈴虫の術」おれがそう唱えると金属でできた小さな鈴虫が現れ、涼やかな音色を奏でながら見張りの方へ向かって行く。


「ん? なんだあの虫は? 虫なのか? おい、お前あれが何だかわかるか?」


「虫の様に見えるがあんな鳴き声を出す虫初めて見たな、それにキラキラ光っていて捕まえたら高く売れそうだぞ」

 うまい具合に敵の注意を引きつけたようだ。


「うご!」 「うげ!」

 西側からこっそり近づいたミトさんが、音もなく近づき見張りの意識を奪う。


 見張りを縛り上げているミトさんに近づき「うまくいきましたね」と声をかけた。


「これぐらいは朝飯前です」

 ミトさんも心なしか自慢げだ。


「さて中はどうなってますかね」

 壁に耳をつけて中の様子を探るが物音一つしない。


「裏に回ってみましょう」


 ミトさんと共に裏に回ると裏にも扉があり窓もあった。窓から中をのぞくと部屋の中は一部屋だけの簡単な造りで、部屋の中にあまり物は無く、中央にソファが対面するように二台置かれているだけだった。ソファには商人らしき男と貴族らしき男が座っており何やら話し込んでいる。男達の目の前の床にはシスターらしき人物が寝かされている。


「あれがシスターですか?」


「そうですね。顔は見えませんが、あの服は間違いなくシスターの物です」


「了解です。さてこれからどう助けるかだな」

 おれが思案していると、部屋の中から男の興奮した声が聞こえてくる。


「この魔道具は素晴らしいな! こんな魔道具がこの世に存在しているとは。まさか魔力欠乏症の治療方法を発見したシスターがこんな物を持っているなんてな」


「全くその通りでございます。わたくしも商いを始めてずいぶんと経ちますが、こんな珍しい物は初めて拝見いたしました」


 貴族の男が持っている指輪を二人とも珍しそうに見ている。


 驚いたことに、貴族の男が指輪をはめると四十は過ぎている男の容姿が二十歳前後に急に若返る。

「どうだ? 若返って見えるか?」


「わたくしの目には二十歳前後にしか見えません!」


「うむ、魔力もほとんど消費しないし素晴らしい品だな」


 ミトさんの怒りを抑えきれない呟きが聞こえる。

「あいつらお嬢様の指輪を……許さん。早くお嬢様をお救いしなければ!」


「部屋も狭いしあいつらも指輪に夢中だから、隙をついて一気に行きます。カウントしてから行きますが用意はいいですか?」

 ミトさんは怒りを堪えているのか静かに頷いた。


 素早く裏口に近づきカウントを始める。

「サン、ニー、イチ、行きます」


 おれは裏口の扉を勢いよく開けると、中にいた男二人に向けて素早く棒手裏剣を放ち「動くな! ここはすでに包囲されている」と脅しをかける。


 商人の男は驚きのあまり腰が抜けた様子で床にへたり込んでいるが、貴族の男は素早くシスターの方に駆け寄ろうとするが、ミトさんがその行く手を阻む。


「貴殿はリグリッド子爵! 教会を管理する貴殿がどうして!?」


「ん? お前は……王家の――なるほどそう言う事かこれで合点がいった。しかしそうなるとあの娘は……。まずいぞもう毒を盛ってしまった! ……仕方が無い証拠を全部消して手を引くしかないか」


「リグリッド子爵これはどういうことですか?」


「ん? ああ、このシスターが魔力欠乏症の治療法を見つけたと言って教会に報告したのでな、俺がもみ消しに来たというわけだ」


「もみ消し? なぜそのような事を」


「当たり前だろう? 魔力回復薬は金を生む。魔力欠乏症の者は一生魔力回復薬が無いと生きていけない。例えそれが高額になろうが命には代えられない。そんな金を生む魔力欠乏症の治療方法が広まってしまっては困るのだよ。治らないから需要は増える一方だ」


「なるほど。薬屋と結託して魔力回復薬の上前を撥ねていたのですね」


「その通り! 薬屋は魔力回復薬を高い値段で売る。俺は他の薬屋に魔力回復薬の材料が行かない様に細工する。そして薬屋から上前を頂くお互いこれほど楽な商売はない!」


「魔力欠乏症の治療方法は司祭様にしかお話していないはず! という事は教会の司祭様もグル!」


「確かにあいつは欲深い男だ。平民には無償で回復魔法を使っていると言っているが、実は貴族しか相手にしていないことも知ってるし、その謝礼を自分の懐にしまっているのも知っている。だがあいつは何も知らんよ。教会と国のパイプ役は俺だからな」


「それでは国に報告すると言って貴様が……」

 ミトさんがあまりに自分勝手な物言いに怒りに震えている。


「おっとあまり時間をかけていられないなこの辺でお開きにしよう」「昏倒臭。深く深く眠れ眠れ」

 リグリッド子爵はそう言うと魔法を詠唱した。


「ま、まさかそれは状態異常魔法の昏倒臭。シンタロウ様、息を止めて! この魔法は臭いで意識を刈り取る魔法です」


「ほー昏倒臭を知っているとはなかなかやるな。この魔法の欠点は昏倒するまでに時間がかかる事なんだが魔法耐性も無意味だし普通の睡眠魔法より深い睡眠なのが特徴だ。ちなみに今唱えたのはフェイクだ。すでにお前達が部屋に侵入してきた段階で魔法は発動しているからそろそろ効果が出てくるはずだぞ」


「クソ! 眠気が! しかし眠るわけにはいかない!」

 そう言うとミトさんは自分の太ももに刃物を突き立てる。


 苦痛に目を見開き昏倒臭の効果に抵抗できたかと思ったが、ミトさんは次第にトロンとした表情になりそのまま眠ってしまった。


「無駄無駄。普通の睡眠魔法とは違うって言っただろう? それにしてもお前はなぜ起きていられるおかしいぞ」


「多分おれには効かないぞ。いま鼻が利かないからな。状態異常魔法ってことは闇魔法の使い手か。最近闇魔法の使い手と対峙することが多いな」


「鼻が利かないだと! 鼻づまりか何かか、クソ昏倒臭にそんな弱点があったとは盲点だった。これから気をつけなければ」


「お前にもうこれからは無い」そう言うとおれはリグリッド子爵に近づき、リグリッド子爵の片目を塞ぐように手を添える。近くで幻術をかける場合は相手の目を見なくても、相手の一部分を見る事が出来れば幻術をかける事が出来るが、より強くかける場合はこうして相手の片目に手を添えて片目を塞ぐのだ。


「幻術:天国から地獄の術」

 この幻術は相手の望む幻を見せてから絶望を見せる術だ。その名の通り天国から地獄。さて今回もどんな幻を見ているか覗いてみようか?


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