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グランコさんの酒場

 相変わらず酒場は繁盛していた。テーブル席は満席で、カウンター席も奥の方が少し空いている程度だ。まだそんなに夜な時間ってわけでもないのにこの賑わいは何なんだろういつもこうなのかな。

 おれが入り口でまごまごしていると、丁度厨房から顔を出した酒場の店主であるグランコさんと目が合った。


「陽気なおやじ亭へようこそ! ってシンタロウじゃねえか! いらっしゃい。ポイ先生なら来週まで薬草採取に出かけてるぜ」


「はい、ポイさんの店で書置き見ました」

 ってかここ陽気なおやじ亭っていうのか、ぴったりなネーミングだな。


「お~そうだったか。せっかく来てくれたんだ奥に座ってってくれ。そうだ娘もお礼を言いたいって言ってた。お~いミラ~」


「そんな、おれはお役に立ってませんから、お礼ならシスターとポイさんに」


 そう言ったおれに顔を寄せるとグランコさんは小声で囁く。

「あの後、毒魔法の使い手が捕まったらしいぜ。詰所の前に縛られた状態で見つかったってな、そんで背中に天誅と書いた紙が貼ってあったらしい。シンタロウだろ? 見ていた奴がいてな、覆面はしていたらしいが服装を聞いたらあの日のシンタロウそのままだったぞ。ぷぷぷ」


「なっ」

 おれが驚いた表情をすると、

「大丈夫だ。誰にも言ってねえ。オレは恩人の秘密をべらべらしゃべるなんてことはしないぜ」


 おれは否定も肯定もせずに黙り込んでしまった。確かに覆面はしていたが服装はそのままだったな……暗かったから大丈夫と思ったんだけどな。


「お父さん呼んだー?」

 丁度そこへ茶色い髪をポニーテールにし、頭にバンダナを巻いたかわいらしい娘がやってきた。

「こちらシンタロウ君だ。お前が毒にやられた時に手伝ってくれた」


「グランコさんおれは何も」


「へぇーあなたがシンタロウ君ね。あの後、店の片づけを手伝ってくれたみたいね。綺麗になっていて驚いたわ。父さんだけではああはいかなかったでしょ。ありがとう。今日は私のおごりだから好きなだけ食べて行ってね」


 う~ん。せっかくだしこのお礼はまた何かで返せばいいかな。

「ありがとう、それじゃ遠慮なくごちそうになるよ。実は今日平民街に来たのはこの店が目当てだったんだ」


「嬉しい事いってくれるじゃねぇか! よし、じゃあ飛び切りうまいの作ってやるぞ! お任せでいいだろ?」


「お願いします!」


「ふふふ父さん張り切っちゃって」


「おーいミラさーん! お酒おかわりー」

 別の客から声がかかる。

「はーい、今すぐー。それじゃシンタロウ君ゆっくりしてってね」


 改めて店内を見回す。テーブル席が六つに十人は座れるカウンター席、そんな広い店内をミラさんともう一人のウェイトレスで回している。二人ともテキパキ動いていて見ているだけで気持ちいい。テーブル席の客はおいしそうに料理を頬張り、身振り手振りを交えて話をしていてすごい楽しそうだ。そんな光景をぼーっと眺めているとミラさんが料理を運んできた。


「はい、お待たせ~父さんのお任せ定食だよ。熱いうちに召し上がれ」


「待ってました! いただきます」

 運ばれてきた料理はから揚げにハンバーグ、エビフライまでついてきた。このエビは正確にはエビではなく川に居るエビに似た魔物だ。イセエビぐらいのサイズがあってものすごくおいしい。おれはそんな子供が好きそうなメニューばかりの定食をたっぷり堪能した。




「お店はいいんですか?」

 店も落ち着いてきたのか、グランコさんがおれの目の前に来て晩酌を始めたので声をかけた。


「ああ、もう今日の注文は終わりだ。明日の仕込みの前に英気を養ってから仕込みをするのがオレのやり方でな」


 そう言いながらうまそうに酒を飲む。おれも勧められたが未成年なのでと断ると、この国ではみんな十から飲んでるぞと豪快に笑われた。しかしこの間のようなことがいつ起こるかもわからないのでやはり断ることにした。


「そういえば今日シスターに会いましたよ」


「シスター様か、来てくれればごちそうするのになかなか来て下さらねぇんだよな」


「ところで、シスターの名前って知ってますか?」


「そういえば知らねえな。いつもシスター様って呼んでるな」


「今度聞いてみよう」


「それにしても強欲な教会にあんな方がいらっしゃるなんてなあ。いや酒場の店主として恥ずかしいが知らなかった」


 王都の教会はキャッスル領の教会の印象とずいぶん違うな。キャッスル領の教会はまさに弱者の味方といった感じで、北に病気の者がいれば薬を渡し、南にケガをした者がいれば回復魔法をかけ、東に孤児がいれば引き取り、西に将来に悲観した者がいれば悩みを聞きと、教会のおかげで町のみんなが健やかに暮らせていると言っても過言ではない。


 そんな教会の力になりたくて町のみんなも進んで寄付をする。お金が無い者は野菜や日用品を寄付するので教会も孤児達も助かっているはずだ。


「キャッスル領の教会のイメージとは違いますね」


「教会は司祭様によって変わるからな」


「司祭様に?」


「ああキャッスル領の司祭様は有翼人じゃなかったか?」


「そういえば有翼人でしたね」


「だろ? 王都の司祭は人族だ。人族でも才があればセス教皇国で洗礼を受ければ神聖魔法が使えるようになるからな。そんな奴が司祭として王都に戻ってきたら……あとはわかるな? やっぱり元からセス教皇国で育った有翼人の司祭様とは違うんだよ。王都もセス教皇国から司祭様が派遣されればよかったんだがな。ああ、けどあれか一応あれでもセス教皇国から派遣されている事にはなるのか人族だが」


「そんなにひどいんですか?」


「まあな。まず平民に回復魔法をかけることは無いし、教会に行ってもいつもいないな。貴族のとこにでも行ってんじゃないか。とりあえずオレは教会で司祭を見た事は無ねえな。ま、あんな奴の話は胸クソ悪くなるからやめようぜ」

 王都の司祭はかなり嫌われているんだな。キャッスル領の司祭様とはえらく違う。


「それに比べてあのシスター様は――なんでも神出鬼没でいつも教会にいないらしい。オレも教会で見かけた事は無いな。だが時々町に現れては神聖魔法を無償で使ってくれるらしいぜ。まさに聖女様だな」


「綺麗な人ですしね、聖女のイメージにぴったりだ」


「確かにな、年の頃は二十前後くらいかな綺麗な長い銀髪に青い瞳とスラリと伸びた脚がたまらんわな。いやイカンイカン、シスター様にそんなこと言うなんて罰当たりだな」


「あの銀髪がすごい綺麗なのよね。手入れがきちんとされていて、良家のお嬢様の出じゃないかしら」

 仕事がひと段落したのかミラさんも話に加わる。


「良家のお嬢様ですか。確かに品がある感じはしますね」


「あたしも銀髪に憧れはあるけど、似合う人じゃないと老けて見えちゃうからなぁ」


「ミラさんは茶髪が似合いますよ。元気で可愛い感じが」


「可愛いなんて、シンタロウ君そんな事さらっと言えるということは、あなた女の子にそんなことをしょっちゅう言っているわね」


「そんなことないですよ。思ったことを言っただけで」


 おれ達の会話を遮るようにドン! とジョッキが勢いよく置かれる。

「お前ら親父の前でそんなちょい甘な会話よくできるな。なんだシンタロウ、ミラの事狙ってんのか? ん? ん?」


「そんな事無いですよ! 確かにミラさんは可愛いですけど……おれは修行中の身で色恋沙汰にかまけているわけには」


「そうか、まあこんな商売してると酔っ払ってミラを口説こうとする奴もいるからな」


「こっそりお尻を触ろうとする人なんかしょっちゅうよ!」

 確かにミラさんはスタイルが良い、胸も大きいしお尻はプリっとしていて魅力的だ。スカートの丈も短めで修行中のおれでも思わず目がいってしまう。


「なに! 尻を触るだと! どこのどいつだ! こいつで触った手を切り落としてやる」

 グランコさんは何処から持ち出したのかいつの間にか肉切り包丁を手に持っている。


「大丈夫! そんな場合はこうしてあげるのよ」

 そう言いながらおれの手の甲を思いっきりつねる。

「いたた! ちょっとミラさんそれおれの手!」


「あらごめんなさい。いやらしい視線を感じたものだからつい」

 見ていることがばれない様に見ていたはずなのにばれていたとは、女の人ってそういう視線にはすぐに気がつくよな。


「ごめんなさい」

 おれは弁解もできないので謝るしかなかった。


「ふふふ、シンタロウ君も男の子だから仕方ないわよね」

 そう言いながら笑うミラさんがとても妖艶に感じた。



 グランコさん達との楽しい時間は名残惜しかったがそろそろ帰らないと明日も学校がある。

「それじゃあ、そろそろ帰ります。今日はごちそう様でした」


「おう! またいつでも来てくれや」


「シンタロウ君またね~」


 二人にお礼を言うとおれは店を後にした。

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