飛び級のソフィー
逃げた先には例の飛び級の女の子が、メイドと共に実技訓練を見学していた。
確かこの子王族だよな。なんだかめんどくさい予感がするけどさすがにここまで近くに来て挨拶せずに立ち去るのも感じ悪いか。
「こんにちは。おれはシンタロウ。君も見学かい?」
そう話しかけると明らかにメイドが警戒した様子で前に出ようとするが女の子がそれを制す。
「メイ構わないわ。私はソフィーよ」
「そうか。ソフィーも見学かい?」
おれがソフィーと言った途端、メイドの顔色が変わり怒りの目線をおれに向けるとソフィーを守るように前に出てきた。
「貴様調子に乗るなよ! 話しかけてもらえるだけでもありがたいのに呼び捨てだと! ソフィー様と呼べ」
「メイ! 構わないわ」
「しかし姫様」
「今は私も一生徒よ」
「わかりました。出過ぎた真似をして申し訳ございません」
そういったメイさんに対してソフィーは優しく微笑んだ。
「シンタロウ、ごめんなさいね。けどメイを悪く思わないでね。メイはメイの仕事をしただけだから」
「構わないよ。メイさんもよろしく」
「姫様を呼び捨てで私をさん付けとは変わった奴だな」
「ソフィーは同級生だから」
「フン、まあいい。くれぐれも姫様に無礼なことはするなよ」
そう言うとメイさんは元の位置へ戻った。
「さて自己紹介が済んだ所で話を戻すわね。私は見ての通り見学よ。体が弱くて魔法の使用に耐えられないの」
「そうか、そいつは悪いこと聞いたな。ごめん」
「いいのよ皆知っていることだし。それよりあなたやっぱり魔力を感じないわね。魔力が無いの?」
「未開人だから魔力は無いみたいだよ」
「未開人は魔力が無いのが普通なの?」
未開人についておれは詳しくないからな。どう答えようか迷うな。
「どうなんだろうな。とりあえずおれに魔力は無い」
「魔力が無いだなんて考えられないわね」
「生まれてからずっと無いから特に何も感じないな。そりゃ魔法を知ってからは使えたらいいなとは思うけど」
「ふぅん、そういうものなのかしらね」
「そういうものだよ。ところでソフィーは今いくつなんだい? 幼く見えるけど外見通りの年齢じゃないのかい? 大人と話してるみたいだ」
「九歳になったわ。それにそんなこと今まで言われたことなかったわ。幼い頃から周りには大人しかいなかったからこれが普通だと思っていたわ」
「おれの知り合いの子の妹も九歳だけど、そんな大人のような話し方じゃないな」
「そうなのね。変かしら?」
「いや、変ではないよ。外見との差があるってだけで」
「そう」
そんなたわいもない話をしながらおれとソフィーは実技訓練を見学していた。
「みんなーそろそろ実技訓練を終わりにしますー各自自主練習も行う様に!」
先生が皆に号令をかける。どうやら実技訓練はここまでのようだ。
「それじゃソフィーにメイさんまた!」
「ごきげんようシンタロウ」
ソフィーが優雅にお辞儀をして去る姿とは対照的に、メイさんは舌打ちをしおれを一睨みするとソフィーの後をついて行った。
「メイさんにはえらく嫌われてしまったな。日本だとツンの後はデレがあるはずなんだがなあ」
おれが少し気落ちしながら教室に向かっていると、エリスが興奮した様子でおれに迫ってきた。
「シンタロウ! あなたソフィー様とお話していたわね! いったいどこでお知り合いになったの?」
「今さっきだよ。さっき初めて話した」
「ソフィー様がメイドや生徒会長以外とお話されているのを初めて見たわ」
「おお~じゃあ結構レアだったんだなー」
「レアってあなた。それにしてもシンタロウ、ソフィー様にずいぶん気に入られたようね。あんなに楽しそうにされているソフィー様は初めて見たわ」
「そうかな? ずっと無表情に見えたけど。それに気に入られたっていうよりは魔力が無い事に興味があったって感じだったな」
「シンタロウあなたまだまだね。乙女の微妙な表情の変化に気が付かないなんて」
エリスが呆れた顔で言う。
「人の表情を読むのは得意な方なんだけどな」
「ともかく仲良くしてあげてね。なんだか寂しそうな顔をされる時もあるし」
「エリスも仲良くしたら良いじゃないか」
「それが出来たらいいんだけどね。話しかけてもメイに追い払われるから、いつの間にか誰も話しかけなくなったわ。ソフィー様は王族だから特定の人物と懇意にするのはよくないと言われているのかもしれないわ」
「そうか。何かそう言う本人以外の意思が働いているのかもしれないな」
「そうかもしれないわね。確かにメイが追い払ってる間、ソフィー様は悲し気なお顔をされていたわ。それにソフィー様はリリーと同じ年だから私もなんだか気になっちゃって」
「そういえば九歳って言ってたな。まあおれもメイさんに睨まれない程度に仲良くするよ」
「エリス~そろそろ行かないと遅れるよ~」
相変わらずおっとりした口調のマーコさんがエリスを呼びに来た。
「いっけない! 今日も生徒会のお手伝いがあったんだ。じゃあまたねシンタロウ」
「シンタロウ君また明日~」
おれは二人と別れると放課後どうしようか考えていた。学校の食堂でタダ飯もいいけどこの間の酒場で晩飯もありだな。晩飯ついでに町を散策するのもありかな。
そういえばマルコが町には何軒か薬屋があるって言ってたな。どんな物がおいてあるのかついでに見に行ってみるのもいいな。
そう決めたおれは早速町へ向かうことにした。