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信太郎異世界へ飛ばされる

「これとこれも用意しとくか」


 あまり物が置かれていない整然とした部屋で明日の襲名式に備えて準備をしていた。


 おれの名前は加藤信太郎。明日の襲名式が終われば十一代目加藤段蔵の名を継ぐ事となる忍者だ。


 加藤段蔵というのはおれのご先祖様で「飛び加藤」や「幻術の加藤」の名で知られた忍者だ。

 初代様は世間的には殺されたとか暗殺されたとか言われているが一族に伝わっている話では、どこぞの姫を助け姫と共に逃げ延びたという話だ。


 おれはその加藤段蔵の弟の血筋だが、初代様が行方不明になったので段蔵の名は弟がその子供に受け継がせた。おれはその十一代目に当たる。


 先日親父が「体力的にきついから家督譲るわ」と急に言いだし、おれは十五歳で十一代目を継ぐことになった。


「家督を譲るって言われてもなあ……忍者かあ……」

 そうなのであるこのご時世忍者なんて時代遅れだ。腕力が強い事や忍術が使えることはいいと思うが、それが社会に出た時に何かの役に立つのかなあ。忍者という非現実的な存在の割におれは意外と現実的な考え方をするのである。


 例えば会社の面接で

「君の長所は?」

「はい、忍術が使えます!」

「ほうほう忍術とな? それでその忍術でどのように会社に貢献できるのかな?」

「はい、ライバル企業の邪魔者を消す事が出来ます。それに重要な情報を盗み出す事が出来ます」

「昔はそういうのもあったけどね~今はコンプライアンスとかあるし、もし外に漏れたらすごい叩かれるからねえ。じゃ次の方どうぞ~」

 っていう未来がありありと見える。


 それに時代遅れと言えばおれがスマホを欲しいって言った時だって、

「忍者にスマホ? 矢文があるだろ」と親父に即却下されたせいで、クラスでスマホを持ってないのもおれぐらいだ。いやむしろ家族でスマホを持っていないのはおれぐらいだ。なぜおれだけが持ってはいけないのだ。


 それに矢文て! そんなもん使ったら警察に通報されるわ! あのくそ親父が!


「あーあ、おれもスマホ欲しい」思わず心の声が大きく漏れてしまった。


 しかしそう言いながらもおれは初代様への憧れもあり忍者の修行自体は嫌いではない。姫を助けてその姫と逃避行なんて憧れるよな。それに修行することによってできなかったことができるようになるのも割と好きだ。



「襲名式の練習でもしとくか」


「……」

 襲名式で披露する印の練習を始める。

 印とは「臨・兵・闘・者……」と唱えながら手を複雑な形に結んでいく精神統一の方法で、明日披露する印は代々引き継がれている特殊な印でおれも昨日教えてもらったばかりだ。


「おっとっと、あぶね、あぶね」


 おれは印を結んでいた手を一時止める。

 ここの印は人差し指を伸ばさないといけないんだった似たような印があるせいでついつい曲げてしまう。


 そういや親父にもここだけは間違うなときつく言われてたんだっけな。


 おれは気を取り戻して最初からやろうと印を結びなおそうとするが指が自分の思い通りに動かない。


「あ、あれ? 指が動かない」


 焦っているとゆっくりと指が動き出すが、おれの意思ではない。


 おれが驚いているとおれの指はおれの意に反し見たことも無い印を次々と結んでゆく。


「なんじゃこれ~」


 ゆ、指が勝手に! しかも早っ! 気持ち悪っ!


 そう思っていると段々辺りの景色が霞んでいきおれは意識を失った。




 気が付くとおれは薄暗い場所で寝ていた。


「どこだここは?」


 少なくともおれの部屋ではないな。周りを見渡すと岩肌が見え入り口らしきところからから光が差し込んでいる。どうやら洞窟の中みたいだな。


「たしかおれは印を結んでいて……指が勝手に動いて……意識がなくなって……」


 思い返してみるが印を結んだ先からは思い出せない。


「とりあえず外に出てみるか」

 洞窟の奥はまだ続いていそうだが暗いし何がいるかもわからないのとりあえず洞窟を出て辺りを確認することにした。


 洞窟を出ると辺りの地形を確認する。どうやら洞窟は丘の上にあるみたいだな。丘の下には外国の田舎に在りそうなのどかな町が見えた。


「ひょっとして意識が無いのをいいことに親父にまたやられたのか?」

 以前にもこれと似たようなことがあった。おれが起きたら何処だかわからない山奥にいて親父の書置きがあった。


「この山にてひと月修行せよ」それだけ書かれていた。


 しかも素っ裸だったから町に降りるわけにもいかずしばらく山で生活してたっけな。


 けど今回は裸でもないし書置きも無かったな。


 おれが思案していると麦わら帽子をかぶった外国人が慌てた様子で何やら言いながらおれの方に駆けて来た。


「~~~~~~~」

 何を言っているのか全く理解できない。


「ハーイ! キャンユースピークジャパニーズ?」

 とりあえずおれは英語で聞いてみたが向こうも理解できていないようだ。


 すると外国人は今度はジェスチャーでここにいるようにと示して町の方へと帰って行った。


「う~ん、まったく言葉が通じないとは……」


 しばらく待っていたがここにいても仕方が無いので町の方へと歩いていくことにした。



 町に大分近づいたころ町の方からプレートアーマーを着た兵士と身なりの整った紳士と綺麗な女の子が慌てた様子でやってきた。しかしプレートアーマーなんて初めて見たな……。


「~~~~~~」

 身なりの整った紳士が何やら言っているがやはりわからない。

 さらに紳士が懐から取り出した水晶のような物を押し付けられるが何も起こらない。

 その様子を見た紳士や綺麗な女の子はさらに騒ぎ出した。


 興奮して何やら話していた紳士と女の子だったが結論が出たのか女の子が片言の日本語で話しかけて来た。

「ワタシエリス。アナタハ?」


「お~言葉がわかる。おれは加藤信太郎。か・と・う・し・ん・た・ろ・う」

「カトウシンタロウ?」

「そうそう、シンタロウが名前だ」

「シンタロウ。ワタシエリス。コッチチチウエ。マリク」

「シンタロウ。ツイテクル。ホゴスル」


 おれはちょっと迷ったがこのままここにいても仕方が無いし、悪い人達ではなさそうなので付いて行くことにした。


 後から色々話を聞いた所によると、ここはグランス王国という国で、外国どころか地球でもなくどうやら異世界のようだ。しかしそれについてはすぐに納得した。なぜならこの世界は忍術にも使われる大気中の気の量が異常に多く濃いのだ。忍術は気というものを使い術を使うけれど、日本いや地球に存在する気の量はもっと少なく薄い。


 さらにこの世界には魔物や魔法まで存在するみたいだ。おれはあまり詳しくないがクラスの連中が好きな異世界ファンタジーのようだな。まさかおれがそんな世界に来てしまうとは……。


 さらになぜおれが保護されたかと言うと、おれが出てきた洞窟は伝承の洞窟と言い町の人にとって特別な洞窟で、町にはあの洞窟から魔力の無い人物が現れた場合、保護するようにとの言い伝えがあったようだ。洞窟から出てきたおれの魔力を水晶の魔道具で測ったが何の反応も無かったので魔力が無いと判定され保護することが決まったようだ。



 そしてエリスの家で保護してもらって一ヶ月が経過した。

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